質問104:動画を見てボールに集中する練習は効果的?
回答
▶動画の「ディスプレーは平面」
弾道イメージを明確にする目的であれば、効果があるかもしれません。
ただプロの動画は、練習だと最近はコートレベルもあるにせよ、試合だと後方の高い位置から映した角度の映像が多く、真横や、低い位置から見上げるような弾道イメージを補完することは難しいでしょう。
フォームを見るよりは効果があるでしょうけれども、ボールの見方という点では、参考になりにくいかもしれません。
なぜなら、動画は奥行きがあるように見えますが、実際には平面で遠近感が処理されているにすぎないからです。
▶奥行きの「ピント合わせ」は起こらない
つまり、目とディスプレーの距離感は「いつも一定」であるため、実際のボールを見るような遠近に伴うピントを合わせる眼筋の働きは起こりません。
動画だと簡単にボールを目で追えるはずですが、コート上でリアルのボールを追いにくくなるのは、そういう一因によります。
もちろん、仰せの「ボールだけ見る」(選手の動きや試合の流れは一切見ない)ならば、一定の効果は見込めるでしょう。
ただ、もっと実践的な方法を後述します。
▶テレビゲームに夢中になるのも「集中は集中」
集中力を培う上では、テニスの試合のような楽しい題材よりも、つまらないほうが、得策です。
テレビゲームや映画鑑賞に夢中になる。
すると隣の人から話しかけられても、その声が聞こえない。
これらも「集中は集中」なのですけれども、楽しいことには容易に誰もが集中します。
▶「何の面白みもない」から練習になる
一方でたとえば、僧侶が高度な集中力を培うにあたって採用する題材は「呼吸」です。
普段は意識にものぼらない、何の面白みもない、吸って吐いての単純作業の繰り返し。
こういった集中しにくい対象へ向かって分散している意識を、呼吸という何の変哲もない単純作業の繰り返しにとどめることで、集中力は培われます。
換言すれば、テレビゲームなどの刺激的な対象に心が慣れれば慣れるほど、何の面白みもない呼吸などには集中しにくくなるトレードオフの相関です。
刺激的な炭酸飲料を常飲していると、無味無臭の水が美味しく感じにくくなるのに似ています。
▶意識はすぐに浮気する
ですから呼吸に集中しても、つまらないから、すぐに意識は刺激的な思考のほうへと、必ず逸れます。
しかもその思考内容は、「悔しい」「憎らしい」「腹立たしい」など、ネガティブであるほど刺激的ですから、私たちはしょっちゅう、ネガティブなことを考えます(能動的に考えるというより、受動的に考えさせられるといったほうが的を射ていますけれども)。
またメディアもそれについて熟知していてか知らずか、「隣町の田中さんがお婆ちゃんをおんぶして横断歩道を渡った」などというポジティブで平和なニュースよりも、殺人事件や不祥事、疫病など、刺激的な報道内容が多くなります。
▶ネガティブなイメージに人生が乗っ取られる
そして、「身口意(しん・く・い=行動・言葉・思考)」は一度やると習慣化が始まります。
つまりネガティブな内容を一度思い出すと、それは復習、反復、繰り返しになるから、記憶に刻まれるのです。
そして記憶するとますます思い出しやすくなるから、さらに記憶がこびりつきます(大量高速回転理論)。
するとそれがイメージとして定着します。
「イメージがすべて」といったのは、アンドレ・アガシでした。
イメージが私たちのあらゆる言動を司っています。
私たちは、イメージにはあらがえません。
すると、記憶にこびりついたネガティブなイメージに基づく言動に支配されて生きることになるのです。
「不安だらけ」の人生です。
▶自己肯定感と自己否定感に生じる「格差」
スーパーの棚からトイレットペーパーがなくなったニュースに接触すればするほど、「買いだめ」に走ったりしがちです。
不安だからです。
その様子を見た大根を買いに来ていた客にも刺激が及び、買う予定のなかったトイレットペーパーに群がるから、またそれを見た客も……という連鎖です。
ですから、学習能力は諸刃の剣。
自己否定イメージに支配されると、自己否定する内容ばかりが繰り返されて、ますます自己否定感を強めます。
逆に自己肯定感が高まると、自己(あるいは他者)を肯定する内容が繰り返し記憶され脳内にこびりつきますから、ますます自己肯定感は強まります。
次に述べるとおり、復習、繰り返し、反復は、世界最高レベルの学習法です。
▶「逸れては戻す」世界最高峰の学習法
呼吸へ集中しようとしても、意識は必ず思考へ逸れるとお伝えしました。
とはいえ、それが悪いわけではありません。
逸れてくれないと、戻す力を発揮できないからです。
すなわち、腕を曲げては伸ばす単純作業を繰り返す腕立て伏せにより、体の筋肉であるところの胸筋や上腕二頭筋が鍛えられるのと同様に、思考へ逸れた意識を呼吸へ戻す単純作業の繰り返しを通じて、心の筋力であるところの集中力が鍛えられます。
反復は世界最高レベルの学習法です。
▶「目ヂカラ」が集中する鍵
テニスも、ボールに集中するのがなぜ難しいかというと、それが何の変哲もない「ただの物体」だからです。
ぼんやり眺めているだけだと、何の面白みもありません。
ですからボールに集中するには、回転や毛羽に「目ヂカラ」を集めます。
▶間髪入れずに逸れたら戻す
そうはいってもプレー中の意識はすぐに、「やばい!」「どうしよう!」「デカかったかな!?」などの思考へ逸れて、すぐに回転や毛羽は見えなくなります。
見えなくなっていることに気づいたら、「あ、しまった!」「見えてない!」などと「考える」のではなく、間髪入れずに回転や毛羽へ、逸れたら「目ヂカラ」を戻す単純作業を繰り返します。
またその気になる思考が「せっかくのチャンスをふいにした」など、忘れられない強烈ぶりであるほど、負荷が強いですから戻せたときには、より強い集中力が鍛錬されると言えます。
ですから、逸れることは悪くはありません。
▶集中すると面白くなるから、さらに集中
何の変哲もない呼吸やテニスボールですけれども、集中すると逆説的に面白みが出てこようという道理です。
「この一球は絶対無二の一球なり」
同じボールは二度となく、同じ呼吸も二度となく、諸行無常の定めに従い変わり続ける変化のバリエーションに面白みを見出すと、ますます集中力は強大になります。
そうこうしているうちに逸れにくくなり、ボールの回転や毛羽をずっと見続けられるようになります。
すなわち、心が「ムキムキになった」と、たとえられるでしょう。
▶「メンタルお化け」はこうして生まれる
「メンタルお化け」や「鋼メンタル」というのは、強気や威勢、居直りなどではなく、集中すべき対象へ集中し続けられる(人目などを気にせず、回転や毛羽などに目ヂカラを集め続ける)心の強さです。
とはいえ、視力の強弱や距離の遠近もありますから、実際には見えなくても、そのような一点に心をとどめる状態が、集中の本質的なところです。
1回逸れて1回戻せば、その「1回分」ごとに力は確実に培われますので、地道に続けると文字どおり「継続は力」となります。
こちらも参考にしていただけるかもしれません。
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