記事一覧
【シアターコモンズ'24】 私たちはイランのこども 私たちは 『Songs for No One– 誰のためでもない歌』をめぐって
ウルリケ・クラウトハイム(ゲーテ・インスティトゥート東京・文化部企画コーディネーター)
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暗転中から鳴り響く呼び出し音。鳴り続けても向こう側に誰も出ない……相手の登場をあきらめかけたころ、ついに、少年の陽気な声がペルシア語で聞こえてくる。舞台上に座るパフォーマーで、本作の演出も手掛けたナスタラン・ラザヴィ・ホラーサーニとの電話での親しげな会話。ペルシア語
【シアターコモンズ'24】笑いと恐怖の転回——『弱法師』に見る市原作品の「過激さ」について
關 智子(早稲田大学講師)
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市原佐都子の作品はこれまで、その過激さが取り上げられることが多かったように思う。確かに、セクシャルなシーンを直接的に描き、性器の名前を連呼し、プレジャートイを持ってきてあまつさえ振り回すような作品群は過激以外のなにものでもない。ではその「過激さ」はどのような性質のもので、なぜ作品に取り上げられているのか。
『弱法師』はドイツ
【シアターコモンズ'24】神話をとりだす、やさしげな手─サオダット・イズマイロボ 『彼女の権利』『亡霊たち』『ビビ・セシャンベ』が描き出す世界
中村佑子(映画監督・作家)
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日仏学院の映写室が明るくなった瞬間、自分がいま存在している「この現在」という時間が、遥かな歴史の流れのなかの針の一点に過ぎず、莫大な記憶と、まるで過去のような未来に照射される形でしか存在しないこと、それが論理ではなく身体感覚としてわかる、そんな映像体験だった。身体ごと、どこかへワープするような衝撃が走ったのだ。
ウズベキスタ
【シアターコモンズ'24】太陽を夢見る魂の旅——アピチャッポン・ウィーラセタクン《太陽との対話(VR)》をめぐって
石倉敏明(秋田公立美術大学准教授)
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私はいま、最近体験した二つの忘れ難い出来事を思い返している。一つは東京で体験したアピチャッポン・ウィーラセタクンのVRパフォーマンス作品であり、これは会場の中央に設置されたスクリーンの映像と、VRのヘッドセットを通して体験するヴァーチャル・リアリティの二部構成によるものだった。もう一つは、ネパールの首都カトマンズ
【シアターコモンズ'24】アーティスト・トーク/サオダット・イズマイロボ
2024年3月2日(土)
アンスティチュ・フランセ エスパス・イマージュ
聞き手:相馬千秋 通訳:平野暁人
編集・執筆:阿部幸
写真上:『Chillpiq』
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相馬 今回、サオダットさんの5作品を2時間半に渡って一挙上映いたしました。このようにまとまって作品を観ることができる機会はなかなかないと思います。私自身、今日の上映を見て大変感動しているところ
I/EYE(アイ)をめぐるテクノロジーとリアリティの条件──スザンヌ・ケネディ&マルクス・ゼルク/ロドリック・ビアステーカー『I AM(VR)』評
清水知子(筑波大学准教授)
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ドイツの演出家スザンヌ・ケネディの『I AM(VR)』に足を運んだのは、東京が二度目の緊急事態宣言下にあった2021年2月17日のことだった。
これまでベルリン・フォルクスビューネ劇場とミュンヘン・カンマーシュピーレを拠点に『ウーマン・イン・トラブル』(2017)、『バージン・スーサイド』(2017)、『三人姉妹』(
アンティゴネーも、わたしたちも、 見えない声の方へ。──高山明/Port B『光のない。─エピローグ?』評
青柳菜摘(アーティスト)
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──姉
やめましょう。見に行くと見られてしまうわ。
だから私たちはドアの外に出て、外で起こっていることなど、
見たりはしなかった。いつもの朝と同じように、
私たちは何も食べず、眼も合わせず、
立ち上がって仕事に出かけようとした[1]
わたしたちは実際に起きていることを正確に観察し、記録し、記憶に留めていくことがで
目も眩む光の中で声を聴く──佐藤朋子『オバケ東京のためのインデックス 序章』評
外山有茉(十和田市現代美術館 アシスタント・キュレーター)
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「私は、今、このように、顔をだして、光にあたって、声を出しています。…どうぞ私のからだには触れないでください。また、私のからだの周囲三メートル以内にも近寄らないようにしてください。私のからだのまわり、ここには私の飛沫がたくさんいます」
新型コロナウイルスのパンデミックから1年、収容人数を
シネマの起源を映すVR映画──ツァイ・ミンリャン『蘭若寺の住人』 評
金子 遊(批評家・映像作家)
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VR映画の体験 2021年2月某日、六本木のANB TOKYOビルへいった。ツァイ・ミンリャンのVR映画『蘭若寺の住人』(2017年)は、一度に16人ずつしか鑑賞できないので、しばらくのあいだ待つことになった。エレベーターで6階にあがると、人数分のVRセットが用意してあり、係員の合図とともに上映をスタート。ここで気になっ
生き延びる(ための)トリック──シャンカル・ヴェンカテーシュワラン『インディアン・ロープ・トリック』評
髙橋彩子(演劇・舞踊ライター)
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広場に現れた奇術師が空にロープを投げ、弟子の少年と共にそれを登り、少年の身体をバラバラにして地上へと降らせたり、その身体をまたもとに戻したりするという「インディアン・ロープ・トリック」。シャンカル・ヴェンカテーシュワランが、インドで古くから行われ、何世紀にもわたって誰も解明できなかったこのトリックをどのように表現するの