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本とのつきあい

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本に埋もれて生きています。2900冊くらいは書評という形で記録に残しているので、ちびちびとご覧になれるように配備していきます。でもあまりに鮮度のなくなったものはご勘弁。
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#猫

『方舟を燃やす』(角田光代・新潮社)

『方舟を燃やす』(角田光代・新潮社)

人気作家の新しい作品を、珍しく読みたくなった。425頁まで本文があって、税込みでも2000円を切るのは、いまどき割安な量かもしれない。もちろん、長さが作品の質を決めることはない。本作は非常に読みやすい。引っかかるところもないし、たどたどしく読み直すようなところもない。これは流行作家にとり有利な特徴である。
 
とはいえ、読み手によるかもしれない。私はこの作品の中にある話題の多くにコミットしていたの

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『なんやかんや日記』(武田綾乃・小学館)

『なんやかんや日記』(武田綾乃・小学館)

接点は、やはり『響け!ユーフォニアム』である。専らアニメでしか知らないのだが、多くの青春群像が描かれているのに、それぞれが生き生きと描かれ、それぞれの個性がぶつかりあい、それでいて心の中に深まる何かが感じられる。こうした描き方ができるのは、たぶん天性のものだと思う。この作品、シリーズで続いていったが、最初のものは21歳で出している。ちょっと妬ましいほどの活躍である。
 
その作者のエッセイがあると

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『ノラや』(内田百閒・中公文庫)

『ノラや』(内田百閒・中公文庫)

知ったのは、猫の雑誌だった。猫についての文学三品として挙げられていたのだ。
 
私は内田百閒の作品を、たぶん読んだことがない。「たぶん」というのは、昔どこでも読んでいない、と言える自信がないからだ。ただ、幻想的な作風については聞くところがある。
 
それが、本書ではどうか。まずは家に突如やってきた猫への、メロメロな愛情に始まる。ノラと名づける。そのノラが、3月だか、突如庭から消えてしまう。さあ、こ

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『ルドルフとイッパイアッテナ』(斉藤洋作・杉浦範茂絵・講談社)

『ルドルフとイッパイアッテナ』(斉藤洋作・杉浦範茂絵・講談社)

本書は、講談社の児童文学新人賞で入賞した作品なのだそうである。この点についてのエピソードは、「あとがき」に面白く書かれていて、私は全部読んでそこを見たものだから、くすくす笑いがしばらく止まらなかった。
 
ルドルフは猫である。「プロローグ」で、自分は字が書ける、と語り始めている。この辺りから、きっと子ども心を掴むだろう。彼の手記がこれなのだそうだが、すぐに話に入ってゆく。魚屋からししゃもを(本人も

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『ねこかつ!』(高橋うらら・岩崎書店)

『ねこかつ!』(高橋うらら・岩崎書店)

表紙の表にも裏にも「保護ねこ活動」というスタンプのイラストが入っている。「ずっとのおうちが救えるいのち」という副題は、「ねこかつ」というタイトルの意味の説明を呈している。
 
表紙の子猫たちは、本書の主人公たる三兄弟。一番上の猫は、左目が潰れている。この子の独り語りが、本書の文章の形態である。この子が、保護ねこ活動について説明を現場から届ける、という体裁をなしている。
 
私も、保護ねこ活動につい

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『哲学するネコ』(左近司祥子・小学館文庫)

『哲学するネコ』(左近司祥子・小学館文庫)

私は電子書籍で読んだ。それが入手しやすいのではないかと思われた。
 
25匹のネコを飼う人の綴る、思索交じりの風景。哲学だけを求める人には、ネコの話が邪魔だろう。ネコだけを愛したい人には、哲学の話がうざいだろう。その意味では、中途半端な本である。だが、あいにく私はどちらも好きだ。楽しくて仕方がない。
 
拾ったり、かくまったりして、なんだかんだとネコが増えていく。
 
著者はギリシア哲学研究家。だ

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『タカシ 大丈夫な猫』(苅谷夏子・岩波書店)

『タカシ 大丈夫な猫』(苅谷夏子・岩波書店)

これが岩波書店からの本だということで、まず驚いた。著者が、岩波書店に縁のある人だと後から気づき、それなりの納得はしたのだが、表紙がハチワレ猫のどアップだというのは、岩波らしくない。
 
二本足で走る、などと文字にしても、人間は毎日やってるよ、と言われるかもしれない。インパクトはない。だが、この主役タカシは、猫である。「出会わなければよかったのに。」ケイコさんは、事故に遭ったらしい子猫を拾う。獣医に

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『ねこはすごい』(山根明弘・朝日文庫)

『ねこはすごい』(山根明弘・朝日文庫)

地域猫活動にささやかながら協力している以上、このようなタイトルの本を覗いてみたくなるのは必定である。古書店で見つけたときは、内容を見ることができるので、パラパラとめくり、ハッとした。以前、西南学院大学博物館で猫の展示会があったときに、福岡県新宮町の相島(あいのしま)で猫の研究をしている人がいることを知ったのだが、その人が著者であった。これはもう買うしかない。
 
2016年の新書を文庫化したもので

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