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本とのつきあい

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本に埋もれて生きています。2900冊くらいは書評という形で記録に残しているので、ちびちびとご覧になれるように配備していきます。でもあまりに鮮度のなくなったものはご勘弁。
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2024年7月の記事一覧

『命こそ宝 沖縄反戦の心』(阿波根昌鴻・岩波新書249)

『命こそ宝 沖縄反戦の心』(阿波根昌鴻・岩波新書249)

礼拝説教でその人の名を教えられた。生まれは1901年だが、とくに戦後の沖縄を闘った人である。私は沖縄戦についてはかなり調べたが、戦後の闘争については調べたことがない。しかしいつかなんとか知りたいとは思っていた。系統的にこれを知ることができたとは思えないが、本書はよいきっかけとなった。
 
岩波新書ではすでに、『米軍と農民』という本を世に問うている。1973年のことである。その後の歴史を経て、いまま

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『知的障碍者と教会』(フェイス・バウアーズ;片山寛・加藤英治訳;新教出版社)

『知的障碍者と教会』(フェイス・バウアーズ;片山寛・加藤英治訳;新教出版社)

250頁ほどのB6版の本であるが、新教出版社ということで、装丁は地味である。サブタイトルに「驚きを与える友人たち」とある。友人とはもちろん、タイトルでいう「知的障碍者」である。
 
そもそも「しょうがい」の表記すらいま困難がある。「障害」の「害」の字がよくないということで、「障碍」とする人もいる。それはナンセンスだという人もいれば、漢字でなく「しょうがい」としよう、と提言する人もいる。中には、当事

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『別冊100分de名著 宗教とは何か』(釈徹宗・最相葉月・片山杜秀・中島岳志・NHK出版)

『別冊100分de名著 宗教とは何か』(釈徹宗・最相葉月・片山杜秀・中島岳志・NHK出版)

テレビでおなじみのシリーズだが、2024年の年頭に放送された番組から半年後、こうした書籍という形で改めて世に問うことになった。もちろん番組そのものの再録ではない。四人の論者が、それぞれの立場から、それぞれの視点によって、「宗教とは何か」について語っている。
 
サブタイトルは「「信じること」を解明する」となっているが、的を射たまとめであるだろう。宗教団体を問うたのではない。個人の信条についてである

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『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(神野潔・日本能率協会マネジメントセンター)

『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(神野潔・日本能率協会マネジメントセンター)

2024年4月から好評の、NHK朝の連続小説「虎に翼」は、三淵嘉子さんをモデルとしている。この朝ドラを見越して制作されたのだろうとは思うが、なかなか良質な本ができた。
 
著者は、日本法制史が専門。だから背景の事情などは熟知しているものの、三淵嘉子さんそのものの研究者ではない。それを思うと、様々な資料に当たり、またご親族との度重なる面会など、ずいぶんと労力をかけて執筆している様子が窺える。専門家で

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『方舟を燃やす』(角田光代・新潮社)

『方舟を燃やす』(角田光代・新潮社)

人気作家の新しい作品を、珍しく読みたくなった。425頁まで本文があって、税込みでも2000円を切るのは、いまどき割安な量かもしれない。もちろん、長さが作品の質を決めることはない。本作は非常に読みやすい。引っかかるところもないし、たどたどしく読み直すようなところもない。これは流行作家にとり有利な特徴である。
 
とはいえ、読み手によるかもしれない。私はこの作品の中にある話題の多くにコミットしていたの

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