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本とのつきあい

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本に埋もれて生きています。2900冊くらいは書評という形で記録に残しているので、ちびちびとご覧になれるように配備していきます。でもあまりに鮮度のなくなったものはご勘弁。
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2023年11月の記事一覧

『信じる者は破壊せよ』(キャスリーン・ニクシー;松宮克昌訳・みすず書房)

『信じる者は破壊せよ』(キャスリーン・ニクシー;松宮克昌訳・みすず書房)

これはキリスト教全体に関わるような批判の書である。キリスト教が、ギリシアやローマの文化をいかに破壊したかを示す。
 
もちろん、ローマ帝国の許で、キリスト教は不遇な扱いを受け続けてきた。だが、ローマ帝国自体の弱体化もあり、その他多くの事情が重なって、ついに帝国公認の宗教となる。つまり、権力者がこの宗教をメインに扱うようになったのだ。
 
権力を有するようになったキリスト教会が破壊をした――のかどう

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『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(小野寺拓也・田野大輔・岩波ブックレットNo.1080)

『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(小野寺拓也・田野大輔・岩波ブックレットNo.1080)

話題の本をようやく手にした。ドイツ現代詩を専門とする教授と准教授によるブックレットである。100頁を超えてくるから、ややずっしりとした感がある。
 
良いタイトルである。分かる人には、その問いかけの意味がピンとくる。ナチスは、確かに酷いことをした。ドイツを変えてしまった。だが、インフラや政策、福利などについて、「良いこと」をしたのだ、という声が確かにある。それも、比較的最近広まってきた見方ではない

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『愛とラブソングの哲学』(源河亨・光文社新書)

『愛とラブソングの哲学』(源河亨・光文社新書)

九州大学で講師を営む著者は、美学方面でユニークな発言をしているようだ。これまでも、『悲しい曲の何が悲しいのか――音楽美学と心の哲学』などの、身近な実例に考察を向けている。この本が曲を中心としていたのに対して、今回は、歌詞をも含めて探求を深めている。
 
テーマは「愛」である。タイトルから当然だと言われそうだが、その「愛」たるものも、実に制限されている。大学生が話題にするような、そんな「愛」であるの

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「こころ」と「ことば」

「こころ」と「ことば」

Eテレの「100分de名著」が、10年を超えて淡々と続いている。質を落とさず、さらに新たな視聴者も獲得しながら、健闘していると思う。
 
伊集院光氏が司会を担当してからも、すでに10年だというから、息が長い。この人がまた、いい味を出している。司会というよりは、生徒のようである。そして、鋭い質問や意見を呈することに、いつも感心している。
 
この11月には「古今和歌集」が取り上げられている。私は改め

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『現代思想 10 2023 vol.51-12 特集 スピリチュアリティの現在』(青土社)

『現代思想 10 2023 vol.51-12 特集 スピリチュアリティの現在』(青土社)

時折購入する「現代思想」。多くの人が文章を連ねている。ずいぶんと思い切った論調も好きだ。なにより、世の中のメジャーな宣伝では運ばれてこない、だが非常に重要な視点を提供してくれるところが気に入っている。今回も、特集の「スピリチュアリティ」に惹かれて購入したが、執筆者の中には「占星術研究家」なる人もいて、しかもその文章が非常に面白かった。
 
オーソドックスに、スピリチュアリティについての背景や歴史を

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説教で本を紹介するとき

説教で本を紹介するとき

礼拝の壇上で、説教者が本を紹介することがある。遠慮がちに、「よかったら読んでみてください」と口にする。パワーをもつ立場の者が、「読め」と命ずることは、圧力をかけることとなる。他方、牧師も教会からすると雇われの身であるとするなら、あまり思い切ったことは言えない面もあるだろう。それだから、「この本を……」と紹介するというのは、かなり勇気の要ることなのではないかと想像する。本当は、めちゃくちゃ読んでもら

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『ルドルフとイッパイアッテナ』(斉藤洋作・杉浦範茂絵・講談社)

『ルドルフとイッパイアッテナ』(斉藤洋作・杉浦範茂絵・講談社)

本書は、講談社の児童文学新人賞で入賞した作品なのだそうである。この点についてのエピソードは、「あとがき」に面白く書かれていて、私は全部読んでそこを見たものだから、くすくす笑いがしばらく止まらなかった。
 
ルドルフは猫である。「プロローグ」で、自分は字が書ける、と語り始めている。この辺りから、きっと子ども心を掴むだろう。彼の手記がこれなのだそうだが、すぐに話に入ってゆく。魚屋からししゃもを(本人も

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