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本とのつきあい

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本に埋もれて生きています。2900冊くらいは書評という形で記録に残しているので、ちびちびとご覧になれるように配備していきます。でもあまりに鮮度のなくなったものはご勘弁。
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2023年10月の記事一覧

『キリスト教の本質』(加藤隆・NHK出版新書708)

『キリスト教の本質』(加藤隆・NHK出版新書708)

さて、どうしたものか。この本について書かなくてはならない。
 
まず、我ながらよくぞ最後までこれを読んだものだ、と自分を褒めてやりたい。若い頃、こうした本を読んだとき、途中で壁に本を投げつけたことがあった。人間、まるくなったものだ。
 
若いときには、憤りをそのまま出していた。だが今回は、怒りはなく、憐れみの思いが膨れ上がってくるのを感じた。どうしてこの人はこんなになってしまったのだろうか、と。最

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『主が、新しい歌を 加藤さゆり説教集』(加藤常昭編・教文館)

『主が、新しい歌を 加藤さゆり説教集』(加藤常昭編・教文館)

説教者を知らなくても、編者の名前から検討がつくだろうと思う。日本で説教を最も重視し、説教塾を立て、何百人もの牧師の説教に対する考え方をつくりかえた加藤常昭氏の妻である。
 
2014年8月、本書の発行後間もなく召された。
 
1964年の大きな手術以来、多くの病を担い続け、もはや治療不可能という事態になり、本書が編まれた。夫常昭氏の、感情溢れんばかりの、しかし結局は信仰に溢れた形の、「まえがき」や

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『獄中手記 何が私をこうさせたか』(金子文子・岩波文庫)

『獄中手記 何が私をこうさせたか』(金子文子・岩波文庫)

何気なく書店で手に取ったが、とんでもない本だった。今日まで存じ上げなくてすみません、という思いだ。ちょうど、関東大震災から百年目の年だったから、よけいにその紹介に目を留まらせたのかもしれない。
 
これは手記である。本人の手による。生い立ちが記されている。だが、その生い立ちからすると、これほどの文章を書く能力というものが、どこで身についたのか、計り知れないと思った。明治末から大正にかけて、学校にも

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『人権思想とキリスト教』(森島豊・教文館)

『人権思想とキリスト教』(森島豊・教文館)

雑誌「福音と世界」で著者を知った。「人権」というキーワードと、聖書への関心が、ほどよくブレンドされているように感じた。その筆者の本があるというので、読んでみたいと思った。そういうわけである。
 
社会学については私は詳しいわけではない。しかし日本において「人権」という言葉が、何か欧米とは違うような、もやもやとした感覚を抱えていたから、ここで一度「人権」というものについての考察から学んでみたい、と思

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温故知新というわけではないが

温故知新というわけではないが

京都にも、古本屋があった。東京の規模には劣るだろうが、大学生の街だから、あるいは古書マニアがいるから、けっこうな商売だったと思う。いまなら、売れ筋の本を集めたブックなんとかというお洒落なチェーン店しか知らないような人もいるかもしれないが、私の学生当時はやっぱり「古本屋」だった。
 
独自のあのにおいがぷーんとする。狭い通路の両側に、ぎっしりと本が詰まっている。岩波の専門書は地味な函入りが普通だった

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『凜として生きる』(平塚敬一・教文館)

『凜として生きる』(平塚敬一・教文館)

キリスト者として、何かしら重荷を負うというものがあるという。どうしてだか分からないが、そのことのために心血を注ぐしかない、という思いで生きるのだ。生きることが、考えることが、すべてそれのために営まれている、という気持ちになる。
 
著者にとり、「教育」がその重荷であるのだろう。しかも、「キリスト教教育」である。キリスト教を信じさせる教育だという意味ではない。教育する側が、キリスト教精神を以て教えて

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