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うつわマガジン2020

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記事一覧

内側を想ってろくろをひく 「はぐくみのうつわ」

内側を想ってろくろをひく 「はぐくみのうつわ」

うつわは内側を想ってつくる

ああいう形になあれと、ひとつひとつ内側から「願い」をこめながら土をひきます。ろくろびきのうつわは、内側をはぐくみ、内側から形を考えるオブジェクトです。外観デザインは使い勝手や景色として想いに残るものなので、内側から形を生んだら、外側にも注力します。

茶碗や鉢、土鍋の本体などは、ろくろの上で土を上げてゆき、中身を想像しながらひきますが、土鍋の蓋というのは「逆さま」です

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焼かない土鍋クリームドリア

焼かない土鍋クリームドリア

代替の思考と土鍋

電子レンジが壊れて2ヶ月くらい経つだろうか。

すっかり「ない」に慣れてしまいました。慣れたというより「代替」の思考がよく働くというか。とにかく発想がわいてきて、そうなると土鍋の存在が本当にありがたいのです。

情緒と土鍋

わたしたちは本当に忙しすぎる。
言葉からこぼれてる。

子どもを育てて仕事して、実に時間がなかったことを思い出します。子どもが育ったら育ったで、もっと仕事

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野菜のスープとアマルフィの風

野菜のスープとアマルフィの風

トマトの香りとアマルフィ

晩秋から冬に変わりましたね。
ブロッコリーの芯と、ひよこ豆の余りと、ほんの数センチだけ残ったベーコンがあったので、ジャガイモと玉ねぎを足して、あたたかい野菜のスープに。トマト缶を加えてくつくつ煮ていると、冬だというのに、あの日のアマルフィの熱い風をふいに思い出しました。

「海の上のガラス」という名の町

たまには、コッチョリーノでないうつわもご紹介しましょう。
ナポリ

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ほおずきチョコと賢者

ほおずきチョコと賢者

粗末ではいけませんが「いいものをつくるぞ」と力んだり、相手に期待したり、想い描きすぎたりしてどこかにしがみついたりすると、ふと気づいた時、近視眼的でおもしろみのないものになっていることが往々にあって。

この作品を納品するころ、甘酸っぱいほおずきを頬ばるんだ。そんなちいさな想いくらいが、作品を丸く、赤く染めるのでしょう。

今年も、長野の森にたたずむギャラリー主催の公募展納品を無事に終え、いつも楽

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池波正太郎風 湯豆腐のススメ

池波正太郎風 湯豆腐のススメ

急に寒くなりましたね。
たちまちお豆腐の食べ方が、冷奴から湯豆腐になりました。

今日は、久しぶりの「陶芸職人のなんちゃってレシピ」を。湯豆腐ですから、レシピというほどのものではありませんが、池波正太郎風といういわくつき。時代小説はいまいち苦手で、彼の小説も親しんできたとは言いがたいけれど、食の話だけは好きで、確か最初に読んだのは大学生のころでした。記憶の片隅に、いつも湯豆腐の描写があって、その中

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土鍋で秋を炊く2020年「落花生ごはん」

土鍋で秋を炊く2020年「落花生ごはん」

あの人を想う味

土まみれな殻は地味だけれど、殻をやぶって出てきた薄紅色の実は、惚れ惚れするほど華やか。今年も恒例の落花生ごはんを炊いた。

日ごろの我が家は100%玄米食で、減農薬の玄米を秋田の農家から取り寄せている。子どもが卒業した学園と農家が古くから協働したもので、お米に学校の名をつけてくれている。食べるたびに、ホームステイ先の農家の顔を思い出す。食材から誰かを想うことは、とても大切なことだ

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あの日の新宿と展覧会 「世界の友だちへ」

あの日の新宿と展覧会 「世界の友だちへ」

あの日の新宿

新宿高島屋での展覧会でうけたまわったオーダー納品が完了しました。長らくお待たせしました。(正確にいうと1点だけ後発納品があります)

2月、横浜元町での個展は、暗雲が立ち込めはじめた中、無事に終了。
その後、東京に緊急事態宣言が敷かれました。都市移動の制限が解除されるか否かのタイミングでの新宿高島屋での展覧会。正直、制作していても落ち着かず、いっそうのこと延期になればいいのになんて

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ゴルバチョフとナスのムッタバル

ゴルバチョフとナスのムッタバル

ナスの皮が焦げるニオイが好き。
ああ焦げた、いい感じねと、いつものように新聞紙を広げ、焦げたナスを風呂上りのベビーのように寝かせおく。くるりと包むのはタオルでなく新聞紙。ちょっと黄ばんだ新聞紙が、気になった。

新聞紙をくるくるくるとやって、ナスは一列に眠ったが、そこにあらわれたのは、ゴルバチョフだった。なんともいい場所に。目があった。

とんでもない新聞を使ってしまったらしい。注視すると日付は1

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美醜のポステリオリ

美醜のポステリオリ

皮のごつい手袋をはめて、窯から出たてのがつんと熱い土鍋の蓋をあける。土鍋のなかにぽたりぽたり落ちた汗が、しゅうっと一瞬で消えてゆく。時間、そしてわたしの分身までうばってゆくのか。

釉薬の化学変化が散々な結果であり、窯出しするも8割失敗だった。

泣いたって解決しないから、くちびる噛むけど、うっぷす、みえない亡霊ボクサーにお腹を殴られたような強い腹圧を感じる。胃が内臓ごと突き上げられて、くらくらし

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美醜のアプリオリ

美醜のアプリオリ

妥協はグサっと崩す。


6キロの土の塊を、掌(てのひら)で練って轆轤(ろくろ)でひいて、クゥッとなるほど全身でここまでたどり着いたけれど、どこかに歪みを感じることがある。数値的な差異とはちがう感覚。

裸になるくらいの覚悟があるけれど、惜しまずグサッと斬って断面をみる。ストイックな行為ではない。原因となるものが結果なのだから、創造は可笑しいのだ。結果は良し悪しだけとは限らないし、美醜はアプリオ

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キズついた桃のように

キズついた桃のように

見た目はアレだけどね、おいしいから買ってきたよと、ゴロゴロ桃が入った茶色い果物袋を抱えて成人息子が帰ってきた。

「さちあかね」だったと思う、かたい桃だけど、おいしんだ。ヘルプで一日桃を売ってきた彼は、5つ買ってきた桃のヘタあたりをクンクン嗅ぎながら、いま食べるならコレと言う。なんだなんだ、即席くだもの販売員。

いいことなんかしていない

流通にのらない(のれない)農水産物をもっと手軽に積極的に

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飲んでもちろん食べてもコーヒー豆

飲んでもちろん食べてもコーヒー豆

♦︎lion at home and mouse outsideいまや本格派と呼ばれるおいしいコーヒーというものが溢れている。だからこそ、うちでも飲みたい。

ひねくれているようだが、内弁慶なので、外では雑踏や余計な気づかいゆえに落ち着けないネズミ。可能であればうちで好きなカッコで、職業柄、自作のカップで、じっくり飲みたい。もっぱら上手にコーヒーを挽いて淹れるのはマニアな家人なのだが、優雅にそれが

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ポトルの旅

ポトルの旅

独立工房20年目の夏は、制作の毎日。
去年末、大きな故障で大手術をした窯が泣きそうな顔をしていたので、20年前の夏を思い出して窯とふたりで語り合った。7月なのに「台風がくる」なんて陶芸ノートに書いてある。乳飲み子を抱っこしながら1.5トンはあると言われた窯がクレーンで吊り下がってくるのを、人ごとのようにみていた夏。

ああ、大変なことになりそうだぞと一瞬かすめた20年前の風は、空を飛ぶヘリコプター

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走る東京プチトマト

走る東京プチトマト

きょうも1キロ採れたプチトマト。
東京でも、おいしい。小さな庭でも、おいしい。
桃源郷でなくていい。東京でいい。

三千年(みちととせ)の桃トマトの写真ではじまったけれど、桃のおはなしから。

中国で、桃といえば「不老長寿の果実」。
三千年に一度実を結ぶという不老長寿の桃。そのくらい長いスパンで偶発する不思議な力という喩えでもあるのだろう。

もう一方で、古事記にも、威力をもつ桃が登場する。イザナ

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