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R.I.P.ジーナ・ローランズ       グロリア/ジョン・カサヴェテス監督(1980)

R.I.P.ジーナ・ローランズ       グロリア/ジョン・カサヴェテス監督(1980)

偶然逃走してしまうことになる、元ギャングの情婦の中年女性と組織への裏切りで、父を亡くしたラテン系の子供が親子、いや相棒のように心を通じ合う物語であるというストーリーラインのこの映画をよりカサヴェテスたらしめている理由は、舞台とその描き方ではないかと思います。
彼の映画の多くが、どこの場所で、描かれたかを強く意識させることが多く、「こわれゆく女」のような家の中(多くは階段があるカサヴェテスの家)や「

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オープニング・ナイト/ジョン・カサヴェテス監督(1977)

オープニング・ナイト/ジョン・カサヴェテス監督(1977)

カサヴェテスの映画の中でも、妻ジーナ・ローランズが前作「こわれゆく女」同様、精神が崩壊し、錯乱していく女性を演ずる映画で、唯一、夫婦役を演ずる作品。
役者さんは、その役に入り込みすぎて、自らの精神にも支障をきたしてしまう方も多いと聞いたことがありますが、この映画でのジーナは、そんな心配をしてしまうほど、迫真の演技です。

この映画は、人気があるものの老いを感じ始めている舞台女優が、老いを自覚する女

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「ゴングなき戦い(原題:Fat City)」/ジョン・ヒューストン監督(1972)

「ゴングなき戦い(原題:Fat City)」/ジョン・ヒューストン監督(1972)

映画タイトルからわかるようにボクシングを描いた映画ですが、この原作は1969年、映画公開は、1972年。つまり、フラワームーブメントのドラックカルチャーによる饗宴が1969年開催のウッドストックフェスティバルとともに、終焉を迎え、泥沼のベトナム戦争の出口も見えない、夢破れた若者たちの落胆と虚無感が充満していた時期であり、映画界は、アメリカン・ニューシネマの時代でもありました。

この映画は、主人公

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フーリガン(Hoologans Stand Your Ground)/レクシー・アレキサンダー(Lexi Alexander)(2005)

フーリガン(Hoologans Stand Your Ground)/レクシー・アレキサンダー(Lexi Alexander)(2005)

ロンドンを舞台にフットボール(サッカーではない)の熱狂的で時には暴徒と化すファン フーリガンを描いた映画。
と言っても、イギリスのローワー・クラスのドキュメンタリーからキャリアをスタートして、ケン・ローチや「This is England」で自らが属した集団、スキンヘッズを描いたショーン・メドウスのように、話す言葉も態度もそして身なりも徹底して、そして自然にローワー・クラスのリアリティが出ていると

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ハズバンズ(Husbands)/ジョン・カサヴェテス(John Cassavetes)1970

ハズバンズ(Husbands)/ジョン・カサヴェテス(John Cassavetes)1970

 昨年、日本で現在見ることのできるカサヴェテスの作品を見なおした後に、イメージ・フォーラムで「ジョン・カサヴェテス レトロスペクティブ リプリーズ」が開催されましたが、一つの会社が版権のある作品だけを集めたためか、残念ながらすべて観たことがあり映画がでしたが、

それから、少し経ってからStranger映画館でThe Other Side of John Cassavetes『カサヴェテス特集』は

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ファスビンダーのケレル/ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(1982)

ファスビンダーのケレル/ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(1982)

ファスビンダーの遺作。
70年代後半にヴェルナー・ヘルツォーク、ヴィム・ヴェンダースとともにジャーマン・ニューシネマの旗手として日本に紹介されました時には、人間を超えたディモニッシュなものを描いたヘルツォーク、ロードムービーのイメージのヴェンダースに比べファスビンダーをいまいち掴めなかったのですが、少なくとももっとアンダーグランドでロックな感触を感じていました。
この映画を観たのは新宿歌舞伎町に会

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「マイネーム・イズ・ジョー」/ケン・ローチ(1998)

「マイネーム・イズ・ジョー」/ケン・ローチ(1998)

アルコール依存症だった男が断酒会で自分の体験を話すシーンから始まる映画。
主人公は37歳で失業中。回復して今は飲酒していないといえども、若くして無職であることの恥辱や不安、まだ完治していないのではないかと思われる落ち着きのなさ、そしてそもそもの気質としての直情性、世間知らず、過剰なまでの面倒見の良さというローワークラス的なキャラクターを主演のピーター・ミュランが演じます。
音楽の扱いもポイン

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ハッピー・アワー/濱口竜介(2015)

ハッピー・アワー/濱口竜介(2015)

 世界三大映画祭受賞は黒澤明監督以来と騒がれていますが、まだ一般的に彼の名前がメデイアによく出るようになったのは、アカデミー賞受賞の「ドライブ・マイ・カー」からですが、現在公開中の「悪は存在しない」の美しさと凄みを考えるとどうしても観たかったのが、演技未経験の4人の女性遠主役に据えた5時間17分の長尺作品「ハッピー・アワー」
 映画が始まると突然、ゴダールの映画に出て来そうな抜けた青空、リヴェット

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悪は存在しない(Evil Does Not Exist)         /濱口竜介監督作(2024)

悪は存在しない(Evil Does Not Exist)         /濱口竜介監督作(2024)

「ドライブ・マイ・カー」で実現されたコラボレーション。この作品でも音楽を担当する石橋英子さんによるライブ時に流す映像の依頼から始まったと言われる作品。
「ワン・プラス・ワン」を想起させる配色のタイトルにジャズのドラムロールと60年代のジャン・リュック・ゴダールを感じるのも束の間、カメラは森に深く入りアンドレイ・タルコフスキー監督の「ノスタルジア」や北欧の冬やECMレーベルのジャケットくらいしか見た

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「やさしくキスをして Ae Fond Kiss」 / ケン・ローチ Ken Loach(2004)

「やさしくキスをして Ae Fond Kiss」 / ケン・ローチ Ken Loach(2004)

主人公の男性であるパキスタンからの移民2世がDJとしてクラブでバングラビート(パキスタンの民族音楽”バングラ(パーティ音楽)“からとられた)をかけるシーンに続き、その妹が学校で同級生たちを前にして、話すシーンから始まります。
「私がブッシュ大統領も法王も道路掃除人も一緒くたにしたら笑われるでしょう。 ありえませんから。
でも西欧は同じ事をしています。50ヵ国10億人のイスラム教徒を一緒くたに

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レオス・カラックス以来、「Modern Love」で走る。~フランシス・ハ /ノア・バームバック監督(2013)

レオス・カラックス以来、「Modern Love」で走る。~フランシス・ハ /ノア・バームバック監督(2013)

ノア・バームバックという名前は、以前より気になっていたのですが、ふとしたことから、彼の作品Netflix配信の「マリッジ・ストーリー」が作品賞など多くのアカデミー賞にノミネートされたと聞いて、まず彼の代表作「『イカとクジラ』(The Squid and the Whale)」を見ることに。映画のタイトルは、離婚を巡って争う男女のメタファーらしく、かつ監督の実体験はベースにあるそうですが、ニューヨー

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王国(あるいはその家について)         草野なつか監督 2018年作品

王国(あるいはその家について) 草野なつか監督 2018年作品

英ガーディアン紙・英国映画協会〈BFI〉による年間ベスト作品に選出された日本映画ということで、気になっていた映画。
ガーディアンというのは、元々は、マンチェスターで刊行された、近年、名匠マイク・リーも映画化した「ピータールーの虐殺」と言われる民衆弾圧事件も取材した、中道左派・リベラル寄りの新聞で、音楽の情報も多く(Haward DevoteやMicheal Headの特集も読んだことがあります)、

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「Stop Making Sense」4Kリストア版@IMAXシアター

「Stop Making Sense」4Kリストア版@IMAXシアター

約40年振りに観ました。83年作ですが、僕が見たのは、85年。レイト・ショーのみの公開でした。
当時は、メンズ・ビギがプロモーションをサポートしており、店舗にも大きなポスターが貼ってありました。あの時代、肩幅を強調したジャケットが大人気でしたが、あのスーツは肩だけでなく、身頃も巨大で来日時に観た能にインスパイアされたそうです。
改めて、彼らの音楽をまとめて聴いてから観たので、その辺の話から、映画に

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「ミツバチのささやき」/ビクトル・エリセ

「ミツバチのささやき」/ビクトル・エリセ

1983年 ゴダールの「パッション」を皮切りに、ヨーロッパのアート系の映画を数多く上映し、ミニ・シアターブームを牽引したシネ・・ヴィヴァン六本木の8番目の作品として、上映された映画。調べてみると当時、この映画は単館シネヴィヴァンでの公開時だけで、5万人弱の人が見たそうです。もうすぐエリセの31年ぶりの新作「瞳をとじて」が公開されるので、40年ぶりにこの映画を見てみます。
大きなカップを小さな手で持

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