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「ゴングなき戦い(原題:Fat City)」/ジョン・ヒューストン監督(1972)

映画タイトルからわかるようにボクシングを描いた映画ですが、この原作は1969年、映画公開は、1972年。つまり、フラワームーブメントのドラックカルチャーによる饗宴が1969年開催のウッドストックフェスティバルとともに、終焉を迎え、泥沼のベトナム戦争の出口も見えない、夢破れた若者たちの落胆と虚無感が充満していた時期であり、映画界は、アメリカン・ニューシネマの時代でもありました。


この映画は、主人公である盛りを過ぎたボクサーが、雑然とした自室で目覚め、タバコを吸おうと“火”を探すが、なかなか見つからないところから始まりますが、そのあと流れるカントリー調のムーディなインストメンタルに続き、同じくカントリー調のクリス・クリストファ―ソンの歌が始まり、そのカッコよさに期待が高まります。
もちろん、その時代の映画なので、表面上はアメリカン・ニューシネマのイメージですが、これらの映画を改めて観ると感じられる低予算でアイデア勝負な故の斬新さと同時に、映画作りの技術に乏しく、かつ作り込んでない稚拙さと今からすると”あの時は、そういう時代だったのね“という時代遅れ感を感じてしまうこともあるのですが、この映画は、すでにベテランの域に立ってしていたジョン・ヒューストンによる的確なアングルやカットと絶妙なセリフが、この映画に奥行きをもたらしていると思います。そして、ジョン・ヒューストンは元ボクサーだったということで、ファイトシーンやボクサーの心情の描き方もリアルかつ繊細さを感じさてくれます。(彼は、鼻をつぶされ、ボクシングを諦めたそうで、若いボクサーが鼻をつぶされるが試合後にすぐ元に戻るよと言われるシーンは彼の記憶からなのかもしれません。)また、もう一人の若い白人ボクサーがリングでアイルランド人と紹介され、本人が否定するも、そういった方が、白人に思われるとトレーナーに言われますが、黒人、南米系の先週が多い中、アメリカでは、最下層に置かれたアイルランドからの移民(実は、アイルランドはボクシング大国)が稼げる職業であり、白人ボクサー=アイリッシュというイメージがあったのかもしれません。
この映画の原題は「Fat City」。これはスラングで、「〔暮らし向き・健康・収入などが〕満足のいく状態」という意味らしく、寂れたアメリカのある地域を舞台に、なかなかうまくいかない人生とストラグルする出演者たちとは、正反対の意味なのですが、場末のジューク・ボックスから流れるバート・バカラックの名曲「恋の面影(Look Of Love) 」は、”ルーザー”である映画の出演者に対してどこまでもやさしく響きます。


主人公が、乗り気でない若いボクサーを誘って、レストランでコーヒーを飲んでいるとき、後ろの客たちをふと見たときに、2度画像がストップし、彼が何かに人生の諦念のようなものを気付くラストシーンは、冒頭で主人公が探していたタバコの火(彼のFat City)が見つかった瞬間かもしれません。
そのあと、UK版ブルーレイが廉価で売っているの見つけたので、改めてゆっくり観たいと思います。

英語字幕もないかも



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