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ファスビンダーのケレル/ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(1982)

ファスビンダーの遺作。
70年代後半にヴェルナー・ヘルツォーク、ヴィム・ヴェンダースとともにジャーマン・ニューシネマの旗手として日本に紹介されました時には、人間を超えたディモニッシュなものを描いたヘルツォーク、ロードムービーのイメージのヴェンダースに比べファスビンダーをいまいち掴めなかったのですが、少なくとももっとアンダーグランドでロックな感触を感じていました。
この映画を観たのは新宿歌舞伎町に会った今はなき、とうきゅうシネマスクエア。
黄色と夕焼けのオレンジの砂糖が解けで、しまいそうな甘ったるい尋常でない色彩の閉鎖された空間で繰り広げられるゲイの世界の濃密なこの作品は、背徳、倦怠、欲情、嫌悪、暴力、虚無など「頽廃」を表す単語がどんどん浮かんでくるような“そこにに入ってしまうと二度と抜けられない”ような世界が展開され、観た後に、眼前に広がったのは歌舞伎町の猥雑な街並みだったので、何とも言えない感覚でよく覚えています。
原作は、ジャン・ジュネの「ブレストの乱暴者」。当時、単行本も復刊したので、購入しましたが、その訳者である渋沢龍彦の言葉を借りると「殺人という行為から生じた孤独の不安を追い払うために、進んで自分を受身の男色家に変貌させて行くという、いわば贖罪の物語」だそうです。


「誰もが自分の愛するものを殺してしまう」と女郎屋の女主人に扮するジャンヌ・モローが歌うと、ファスビンダーの愛人であった黒人男性の獄中自殺の事が思い浮かびます。自分のプライベートのどうしようもなさを我々の前にここまでさらけ出し、44本も映画を撮影したといわれる36歳はあっけなく去ってしまいました。


アンディ・ウォーホールによるポスター


女郎屋女主人役 ジャンヌ・モローの肖像画

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