たこやまたこた

猫を愛し、妖怪を友として細々と生きる無名の絵本作家です。 本業の作品サイト:http:…

たこやまたこた

猫を愛し、妖怪を友として細々と生きる無名の絵本作家です。 本業の作品サイト:http://www.ne.jp/asahi/takoyama/takota/

マガジン

  • 魔魅夢メモ(まみむめも~夢日記)

    メモに残した夢を集めてみました。

  • 写句鳥虫(しゃくとりむし)

    遊び半分に写真俳句のコンテストに応募したところ、最優秀賞をいただてしまった。 調子に乗ってその後、 写真俳句 を書き溜め、「写句鳥虫」(しゃくとりむし) と題して一冊にまとめてみた。 その中の作品を中心に、少しずつアップして行こうと思う。

  • 絵本のたまご

    採用にならなかったり、世に出す機会がなかったり、まだ発展途上だったりして、未発表のまま埋もれている作品たち…

  • よい子とよくない大人のための4コマ

    紙切れにいたずら書きした4コマ漫画もどきを拾い集めてみました。

  • はーどぼいるどろまんカサバランカ

    自作の下手くそ8コマ漫画です。

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たこやま たこたくん

今更ですが、「たこやまたこた」というハンドルネームのもとになった「たこやま たこたくん」という作品を転載します。絵本の仕事を始めて間もないころ、月刊絵本として世…

たら子さん

たら子さんと呼ばれていた。 どこの誰だかは誰も知らない。 極めて冷静かつ客観的に描写すれば、年齢不詳の小太りのおばさんということになる。 いつも大抵、ピンクのオー…

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フランキー

ラジオから懐かしい曲が流れてくる。 Frankie Goes To Hollywood の「Relax」だ。 懐かしい顔が浮かんだ。 そのバンドのメンバーの顔ではない。 懐かしい声が聞こえた。 …

頭を使う

とにかく勘がいい。 特にギャンブル好きということはないのだが、賭け事や勝負ごとに関わったりすると、勝つことの方が遥かに多い。 勘がいいので、どんな仕事もそつなくこ…

ゴゴーを待ちながら

サミュエル・ベケットを知ったのは、大学の英語の授業。 『Endgame』がテキストだったのだ。 英文は平易だが、内容はよくわからなかった。 わけがわからないけど、面白かっ…

砂まじりの鎌倉

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戦うおばば

出入りの激しいマンションだ。 他の住人との付き合いは、あまり無い。 度会さんと親しくなったのも、一家が転出しようという直前だった。 愛猫のキジトラが逃げ出した。 …

雲の意図

蜘蛛の糸だろうか。 芥川公園の入り口に人柱が立っていた。 人柱といっても、人身御供のことではない。 文字通り、人の柱だ。 無数の人が天に向かって、垂直に連なっている…

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リーちゃん

その人は赤いリードを手に持って散歩をしていた。 リードの先には何も見えない。 とりわけ目立つ出で立ちをしているわけではないのだが、どこかセレブ風のご婦人。 おばさ…

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匂いの色

それは夢の匂いだろうか。 うつつの匂いだろうか。 それとも、夢とうつつのあわいの匂いだろうか。 あわいは、目に見えない空気みたいなものだろうか。 どろどろした泥の…

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隙間の

アスファルトの割れ目や石垣など、あちこちの隙間から芽生え、花開いている植物。 一見、窮屈で居心地の悪い場所に思えるが、こうした隙間は実は植物たちの楽園だという。 …

3

笑ってよ

滅多に通らない裏道だったが、意識して通るようになった。 あるお屋敷のせいだ。 メインストリートの商店街は、駅に近づくにつれてわさわさしてくるので、人混みを避けた…

4

四角四面

僕は四角い。 何もかも四角い。 顔も胴も腕も手も指も脚も足も足の指も四角い。 あちこちに角があるからあちこちに引っかかる。 痛い。 傷が絶えない。 あちこちに角があ…

3

ピンクスタンプ

宅急便を出しに、きねやに来た。 元は酒屋だったらしいが、今は様々な食品や日用品も売っている。 万屋とコンビニの中間みたいな店だ。 きねやの坊やが先客の対応をしてい…

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アイドルの卵

メーターボックスの中に、卵があったという。 駐輪場の自転車籠の中にも、あったという。 マンションのあちこちで、卵が見つかったのだ。 鶉の卵よりはちょっと大きく、鶏…

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お百度参り

信心深い方ではないのだが、時には神頼みもしたくなる。 にっちもさちも行かなくなって、藁にも縋る思いで神頼みする。 思いつく限りのことをやってはみたけれども、糸口が…

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たこやま たこたくん

たこやま たこたくん

今更ですが、「たこやまたこた」というハンドルネームのもとになった「たこやま たこたくん」という作品を転載します。絵本の仕事を始めて間もないころ、月刊絵本として世に出ました。雑誌扱いなので1回限りの発行となります。自分でも最も好きな作品の一つなので、できれば市販本にしてもらえないものかと願ってやまないのですが、いまだ実現していません…

1999年フレーベル館発行ころころえほん9月号

たら子さん

たら子さん

たら子さんと呼ばれていた。
どこの誰だかは誰も知らない。

極めて冷静かつ客観的に描写すれば、年齢不詳の小太りのおばさんということになる。
いつも大抵、ピンクのオーバーロール姿だ。
少しかすれた高い声で、自分の一挙手一投足を、周囲の誰にも聞こえる大声で実況している。

僕が初めて彼女と出会ったのは、馴染みのスーパーMだった。

「こんにちは~。
きょうも、おいしそうなお野菜が、いっぱいですね~。

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フランキー

フランキー

ラジオから懐かしい曲が流れてくる。
Frankie Goes To Hollywood の「Relax」だ。

懐かしい顔が浮かんだ。
そのバンドのメンバーの顔ではない。
懐かしい声が聞こえた。
そのバンドのボーカルの声ではない。
中学時代の英語教師のフランキーだ。

1年の時の、隣の組のクラス担任がフランキーだった。
僕のクラスの担任は別の先生だったが、英語はフランキーが担当していた。

フラン

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頭を使う

頭を使う

とにかく勘がいい。
特にギャンブル好きということはないのだが、賭け事や勝負ごとに関わったりすると、勝つことの方が遥かに多い。
勘がいいので、どんな仕事もそつなくこなすことができ、あまり無理をしないでも生きていくことができた。
そんな幸田高太郎君が、生まれて初めての挫折を味わったらしい。

「生まれて初めて、本当に好きになった女なんだよ。
オレ、自分の目を過信してたんだろうね。
彼女は絶対オレのこと

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ゴゴーを待ちながら

ゴゴーを待ちながら

サミュエル・ベケットを知ったのは、大学の英語の授業。
『Endgame』がテキストだったのだ。
英文は平易だが、内容はよくわからなかった。
わけがわからないけど、面白かった。
授業には余り出なかったが、テキストは真面目に読んだ。
『All That Fall』も併せて読んだのだが、両者の記憶はごっちゃになっているかも知れない。

『すべて倒れんとするもの』…ベケット作のラジオドラマ『All Tha

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砂まじりの鎌倉

砂まじりの鎌倉

何度目かのモテ期だった。

女子の少ない高校だったので、通っている高校ではそんなにモテている実感は無い。
通学の沿線にはしかし、女子高が少なくなかった。
思春期の自意識過剰を差し引いたとしても、女子の熱い目をそこここで感じずにはいられない。
調子に乗ってはいなかったが、肩まで伸ばしたさらさらのロン毛と平均以上の長身を意識して、もっともっとカッコよく見せたい気持ちは隠せなかった。

高校の最寄り駅で

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戦うおばば

戦うおばば

出入りの激しいマンションだ。
他の住人との付き合いは、あまり無い。
度会さんと親しくなったのも、一家が転出しようという直前だった。

愛猫のキジトラが逃げ出した。
部屋は7階なので、落下でもしない限りは、マンション内のどこかに潜んでいるに違いない。
建物の周辺を精査した後、一軒一軒回って手掛かりを求めたが、無駄だった。

眠れない一夜を過ごした翌日、吉報をもたらしてくれたのが、度会さんだったのだ。

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雲の意図

雲の意図

蜘蛛の糸だろうか。
芥川公園の入り口に人柱が立っていた。
人柱といっても、人身御供のことではない。
文字通り、人の柱だ。
無数の人が天に向かって、垂直に連なっているのだ。

揺れているようにも見えるが、気のせいかもしれない。
人そのものが蠢いているようにも見えるからだ。

厚い雲が低く垂れ込めている。
人柱はその雲の中に消えていた。

近付くと、地上5メートルくらい、下から4人目の所に、伊庭さんが

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リーちゃん

リーちゃん

その人は赤いリードを手に持って散歩をしていた。
リードの先には何も見えない。

とりわけ目立つ出で立ちをしているわけではないのだが、どこかセレブ風のご婦人。
おばさんとは呼びにくい雰囲気だ。
イングリッシュガーデンをモチーフとしたタワーマンションの、広い敷地で遭遇した。

愛犬が逃げてしまったのかと最初は思った。
それにしては、落ち着いて見える。
散々探しまくった挙句、諦めたり途方に暮れたりしてい

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匂いの色

匂いの色

それは夢の匂いだろうか。
うつつの匂いだろうか。
それとも、夢とうつつのあわいの匂いだろうか。

あわいは、目に見えない空気みたいなものだろうか。
どろどろした泥のような、じゅるじゅるしたジェルのようなものだろうか。
それとも、半固体か、木のドアか、鉄の門か、コンクリートの壁か。

とにかく僕は、翡翠色の匂いで夢から覚めた。
その匂いは夢の残り香のようでもあり、気付けの刺激臭のようでもあった。

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隙間の

隙間の

アスファルトの割れ目や石垣など、あちこちの隙間から芽生え、花開いている植物。
一見、窮屈で居心地の悪い場所に思えるが、こうした隙間は実は植物たちの楽園だという。
狭いけれども安全で、敵も競争相手もいない。

いろいろあっていかにも、大変そう、しんどそうに見える人も、実は全く、大変でも、しんどくもないのかもしれないなあ…

うちのマンションの高いブロック塀と隣接するマンションの間には、30センチ足ら

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笑ってよ

笑ってよ

滅多に通らない裏道だったが、意識して通るようになった。
あるお屋敷のせいだ。

メインストリートの商店街は、駅に近づくにつれてわさわさしてくるので、人混みを避けたい時は裏道を通る。
裏道を行くと、駅まで目と鼻の先の、線路際に程近い所に、そのお屋敷はあった。
大邸宅ではないが、すぐ近くの住之江神社に負けないくらい古びている。

塀沿いの細い道を通ると、広い庭を隔てて庭木越しに、縁側のある部屋が見える

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四角四面

四角四面

僕は四角い。
何もかも四角い。
顔も胴も腕も手も指も脚も足も足の指も四角い。

あちこちに角があるからあちこちに引っかかる。
痛い。
傷が絶えない。

あちこちに角があるからあちこちを傷つける。
そんなつもりは全く無いのに。

頑張って生きてぶつかったり打たれたりしていれば
そのうち角が取れて丸くなると人は言う。

そうだろうか。
きっとそうなのだろう。

でも取れない角もあるかもしれないし
どこ

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ピンクスタンプ

ピンクスタンプ

宅急便を出しに、きねやに来た。
元は酒屋だったらしいが、今は様々な食品や日用品も売っている。
万屋とコンビニの中間みたいな店だ。

きねやの坊やが先客の対応をしている。
坊やとはいっても、もういい歳だが、先代が亡くなる前からのお客さんは皆、そう呼び慣らしていた。

先客は、ほぼ90度に腰の曲がったおばあさんだ。
見かけは、絵に描いたような婆さんだが、声も口調も若者以上に若々しい。
買い物ついでに、

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アイドルの卵

アイドルの卵

メーターボックスの中に、卵があったという。
駐輪場の自転車籠の中にも、あったという。
マンションのあちこちで、卵が見つかったのだ。

鶉の卵よりはちょっと大きく、鶏の卵よりはずっと小さい。
最初は鳩の卵ではと思われた。
ベランダや手すりや屋根に、よく鳩が止まっていたり、あちこちに糞があったりした。
時にはメーターボックスに侵入したりもしていたからだ。

見つかった卵はしかし、鳩のものではなさそうだ

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お百度参り

お百度参り

信心深い方ではないのだが、時には神頼みもしたくなる。
にっちもさちも行かなくなって、藁にも縋る思いで神頼みする。
思いつく限りのことをやってはみたけれども、糸口が見えなくて、天命を待ちながら神頼みする。
今はそのどちらなのか、よくわからないのだが、とにかくまさにその真っ只中なのだ。

池の壺神社は、地元の小さな神社だ。
霊験あらたかなパワースポットで、全国から参拝客が押し寄せる…なんてことは全くな

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