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97年ゼミ

聖実(せいみ)さんと知り合ったのは、一週間ほど前だ。
会うのは3回目だが、もう別れたいという。
厳密に言えば、「別れたい」ではなくて「別れなければならない」なのだが、どちらにしたって早すぎる。
本当のお付き合いは、これからだというのに。

「素数ゼミって知ってる?」

彼女は意外に昆虫に詳しいのだ。
昆虫少女だったらしい。

「13年とか17年とかで成虫になって、大量発生するやつだよね。
13と17は素数だけど、日本のセミも確か、素数の7年で羽化するんじゃなかったっけ?」

「日本のセミはちょっと違っていて、ツクツクボウシとか短いものだと1~2年じゃないかな。
大体5~6年で成虫になるみたい」

「で、その素数ゼミがどうかしたの?」

「わたしも素数ゼミなの」

「何言ってるか、わからないんだけど…」

「つまり、わたし、97年ゼミなの。
若く見えるかもしれないけど、もう100歳近いというわけ。
地上に出てきて、もうすぐ1週間になるから、間も無く消えてしまう運命にある。
だから、お別れが迫ってるって言ったの」 

「面白い冗談だな…」

「冗談なんかじゃないの」

「じゃあ、比喩かな?」

「…でもない。
そのまま真実を言ってるだけ」

狐につままれているような気がした。
いや、セミにつままれていると言うべきか。

聖実さんが本当に97年ゼミだったのかどうかは、わからない。
わかっているのは、彼女がもう僕の知る範囲には、どこにもいないということだけだ。

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