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メモ 教室で瀬戸際政策を教えるゲームが提案されている

国際政治学の重要なトピックの一つに瀬戸際政策(brinkmanship)があります。瀬戸際政策は外交交渉で自国が相手国から譲歩を引き出そうとする対外政策であり、計画的に軍事的緊張を高める行動(例えば、軍隊の動員、国境への配備、実際的な軍事演習の実施、戦闘に至らない範囲での軍事的な威嚇など)をとることによって行われます。自国が軍事的な緊張を高めると、相手国は戦争状態になった場合に予想される損失を予想するようになります。そのため、損失を回避するために譲歩するか、あるいは損失を覚悟の上で自らの立場を堅持し、軍事的に抵抗する姿勢を示して緊張を高めるかを選ばなければなりません。

瀬戸際政策ゲームは、このような状況に置かれたときの交渉行動に対して理解を深めるために、研究者のMichael O’Hara氏が考案した教育用のゲームです。基本的にプレイヤー1とプレイヤー2が交互に行動を選択していくゲームであり、目標は可能な限り多くの利得(0~10)を獲得することです。

基本的な流れとして、プレイヤーは緊張状態を終わらせるか、あるいは緊張状態を高めるかを交互に選択するというものです。第一の手番が始まると、先攻するプレイヤー1はプレイヤー2に対して9の利得を与え、プレイヤー1自身は1の利得だけを受け取るか、あるいはダイスを振るかを選びます。もしプレイヤーが緊張状態を終わらせ、1の利得の配分で満足するのであれば、ゲームはそこで終了です。しかし、ダイスを振ったならば、緊張状態を高める行動をとったことになります。このとき、ダイスの出目が2以上の数値であれば、直ちに戦争が勃発することなく、次の手番に進むことができます。ダイスを振って出目が1だった場合は戦争が勃発したものとして、両方のプレイヤーが受け取る利得は0となり、そこでゲームは終了となります。

第二の手番に進むことができた場合、プレイヤー2も2種類の選択肢から一つをとらなければなりません。プレイヤー2は、緊張を終わらせ、プレイヤー1に2の利得を与え、自分は8の利得を受け取ることが可能です。あるいは緊張を高めることを選び、ダイスを振って、次の手番に進むこともできます。このとき、プレイヤー2が降ったダイスの出目は3以上でなければ、次の手番に進むことはできません。第一の手番よりも、戦争を回避できる確率が小さくなっている点に注意してください。もし2以下の出目を出してしまうと、戦争が勃発し、双方の利得が0の状態でゲームは終わります。第三の手番に進むことができたならば、再びプレイヤー1が行動を選択しますが、この手番でプレイヤー1が緊張状態を終わらせた場合、受け取れる利得は7、プレイヤー2が受け取れる利得は3となります。そして、この手番で緊張を高める場合、戦争を回避するためには4以上でなければなりません。出目が3以下であれば双方とも利得は0です。同じ要領で第四の手番以降も交互にプレイヤーが行動を選択していきます。

無事、第五の手番に移行できたとすれば、プレイヤー1は自分と相手で利得を5と5で均等に分けることが可能となります。この手番でもダイスを振ることは可能ですが、もし振る場合は5以下の出目が出た時点で双方とも利得0が確定します。そして、第六の手番に進んだ場合、行動を起こすのはプレイヤー2の方です。プレイヤー2は緊張状態を終わらせる場合、自分の利得を4とすることを受け入れ、プレイヤー1に利得6を与えることになります。あるいは、ダイスを振って双方とも利得を確実に0にすることもできます。なぜなら、第六の手番では1から6のどの出目が出ても戦争が避けられないので、ダイスを振った時点で双方の利得が0になることが確定するためです。

以上がゲームの流れですが、著者は教育的目的でこのゲームを使用する場合、前もってルールを十分に理解させておくことが重要であると述べています。また、先攻のプレイヤー1とプレイヤー2で戦略が大きく異なるのは、挑戦国と標的国では戦略の選び方が大きく異なるので、1回目のゲームが終わったら、2回目のゲームで先攻と後攻を交代させるとよいでしょう。それぞれのゲームが終わった時に、どれだけの利得を得ることができたのかを調べ、なぜそのような結果に終わったのかを考えさせることも瀬戸際政策の特性を理解する上で有用だと思います。詳細について知りたい方は以下の論文を参照してください。

Phil Haun & Michael O’Hara (2022)The Brinkmanship Game: Bargaining Under the Mutual Risk of Escalation*,Journal of Political Science Education,18:3, 379-389, DOI: 10.1080/15512169.2022.2036615

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