港町・神戸の実話怪談!田中俊行が地元・神戸の怪談をまとめた一冊!『神戸怪談』著者コメント+収録話「赤玉」全文掲載
港町・神戸の実話怪談
あらすじ・内容
兵庫県神戸市――歴史ある港町に息づく、山・海・人にまつわる不思議の数々を、灘区出身のオカルトコレクターが綴る奇想の神戸裏ガイド!
怪奇現象が多発するポートタワー
三宮のセンタープラザに出る落ち武者
新神戸の某ホテルに広がる異次元空間
恐ろしいほどにご利益がある恋愛弁天
JR住吉駅で起きた怪奇事件の真相
元町高架下近くの最恐幽霊屋敷
動物園内にある旧ハンター住宅で謎の男が姿を現す
阪急・六甲駅付近に建つ最恐事故物件マンション
つくはら湖に出没する悲鳴と呻きをまとった死霊
阪神地域屈指のミステリースポット・甲山の怪!
呪物コレクター&怪談師としてブレイク中の田中俊行が地元・神戸の怪談をまとめた一冊!
・エレベーターガールの間で語られる怪異「ポートタワーの怪」(中央区)
・著者がかつて勤めていた会社で起きた社長の悲劇「龍」(東灘区)
・祈りが祟りに変容したのはなぜ?「祟りの木」(北区)
・何か奇妙なものが棲む古い洋館「旧ハンター邸」(灘区)
・間取りが不思議な賃貸住宅、事故物件ではなさそうだが…「女性専用マンション」(須磨区)
・夜の街で母親の帰りを待つ幼い姉弟。家にいたくない奇妙な理由とは…「元町高架下の子ども」(中央区)
――など。神戸の街に蔓延る異界の数々を収録した実録暗黒ガイド!
著者コメント
1話試し読み
赤玉
「不思議な体験したことないでしょうか?」
私はタクシーに乗車したときは必ずと言っていいほど、聞いている。
仕事で大阪におり、神戸の実家へ帰るためのJRの最終電車に間に合うかどうかだった。
いまいるところからJR大阪駅まではタクシーで十五分ほど。
なんとかタクシーを捕まえて乗り込んだ。運転手は五十代後半の男性だった。
「大阪駅までお願いします」
行き先を伝え、タクシーが少し走り出してから、
「あのー運転手さんは不思議な体験や怖い話お持ちではないですか?」
いつものように話しかけてみた。
「いやーそんな体験はないですかね〜」
運転手さんはめんどくさそうに答えた。
それでもしつこく訊いていると、少し間があって、
「あー、怖い話や幽霊は見たことないんですが、あれはなんやったんや? ってのはあるかな」
そう話しはじめた。
運転手さんはその当時、神戸の北区に中古の二階建て一軒家に住んでいたという。
結婚していて、奥さんと娘と三人暮らしだ。
その頃はサラリーマンで営業をしていて、朝の六時に起きて出勤、帰りはだいたい終電で休日も返上して仕事をしていたという。
自分の寝室は二階、廊下の一番右奥にあった。
ある朝、目覚ましが鳴りいつも通り六時に起きて、一階のリビングに行こうとした。
廊下に出ると、自分の目線の先の少し下あたりに、赤ボールペンの先のような小さな赤い点が空中に浮いているのが見える。
「ん?」
目を擦り、マジマジと見るが、確かにそこに赤い点がある。
しかし手で掴もうとしても掴めない。
気にはなったが、仕事に遅刻しそうなのであわてて一階におりた。
朝ごはんを食べながらテレビを見ていると、もうそのことも忘れていた。
その日、仕事から帰宅して自分の寝室に向かおうと二階に上がり、「あ!」と思った。
廊下の中央に、朝に目撃した赤い点はまだそこにあった。だが、手を差し伸べてもやはり掴めない。
(ストレスか? 目の病気か? いや、でもこの二階の廊下でしか赤い玉は見えない)
どうすることもできないので、寝室に入って床に就いた。
次の日の朝、寝室から出ると廊下に赤い点はある。また掴もうとするが掴めない。
家族にも言えず、家を出て会社に向かい、モヤモヤしながらも仕事をこなした。病院に行こうと思うが仕事の目処がつかない。
帰宅してもやはり赤い点はある。
次の日も、その次の日も赤い点は廊下に存在していた。
そして気がつくと、その赤い点は昨日見たのより確実に大きくなっている。
三日目になると赤い点はビー玉ぐらいの大きさになっていた。大きくなるにつれ、それは点ではなく赤い球体だと気づいた。
さすがに怖くなってきて、奥さんに話をしてみるが、相手にされない。
四日目、五日目が経った。赤い球は野球のボールほどになっていた。
色は真っ赤である。掴もうとしてもやはり手がすり抜ける。
気持ちが悪いので、その玉を避けるように廊下を通るのだが、振り向くとその赤球はそこに存在する――。
ちょうど一週間経った頃だ。
いつものように起きて、廊下に出た。赤球はソフトボールほどの大きさになっていた。
――このままどんどん大きくなったらどうなってしまうんだ?
そう思うととてつもなく怖くなり、その日会社に着くと同時に、翌日の休みをなんとかもらえるようお願いした。絶対に病院に行くぞと心に決め、仕事の段取りを大急ぎでこなした。
終電で家に帰り、二階の寝室に恐る恐る向かうと、思いがけず赤い球は消えてしまっていた。
いったい、なんだったんだろう? そう思いながらも安堵し、でもいちおう明日は病院には行こうと思いながら就寝した。
翌日の早朝、いつもの目覚ましではなく「ゴゴゴゴー」と地鳴りのような音で目が覚めた。五時四十六分、それは神戸に壊滅的な被害を出した阪神淡路大震災だった。
「うーん、あの赤い球のことはよくわからないんですが、どうしても地震と関係あるよ
うに思えるんですよね」
運転手さんがそう言うと同時に駅に着いた。
「終電に間に合いました。ありがとうございます」
JR大阪駅から神戸に向かう最終電車のなかで、当時高校生だった私の、地震当日の凄まじい記憶を思い出していた。
―了―
★著者紹介
田中俊行 (たなか・としゆき)
兵庫県神戸市灘区出身。怪談・呪物収集家。オカルトコレクターの肩書を持つ。
稲川淳二の怪談グランプリ2013王者。怪談最恐戦2021優勝、四代目怪談最恐位。
下駄華緒とのYouTubeユニット「不思議大百科」や個人チャンネル「トシがゆく」のほか、メディアやトークイベントなど多方面で活躍中。
著書に『呪物蒐集録』『あべこべ』など。
Email: jubutsu.toshi@gmail.com
X(旧Twitter): tetsu_gamon
Facebook: toshi.n.tanaka
Instagram: zatoichi__
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