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「連続的な成長」と「非連続的な成長」の両方を追及する~信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方Vol:7~

こんにちは。株式会社シンシア・ハート代表の堀内猛志(takenoko1220)です。
このシリーズでは、「信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方」について、50名から4000名まで成長した企業で、各ステージの人事組織戦略の遂行に人事役員として奔走した自身の経験をもとに、人事トップになるために実行したことや、意識していたマインド、経営や現場とのコミュニケーションのtipsなどをお伝えしていきます。

私の経歴詳細は以下からご確認ください。

それでは、今回のアジェンダです。
今回は「連続的な成長」と「非連続的な成長」の両方を追及する方法を解説します。


「連続的成長」と「非連続的成長」とは

「連続的成長」と「非連続的成長」の定義

そもそも「連続的成長」と「非連続的成長」とは何を指すのでしょうか?読んで字のごとくではありますが、抽象的すぎるのでもう少し具体化し、わかりやすい図解を紹介します。

連続的成長:
既存の事業モデルが目指す数的目標(KGI)から算出され、連続的な改善で達成できる成長カーブのこと ☛MBOなど

非連続的成長:
会社が長期的に目指すビジョンが産出され、非連続的な変革によって達成できる成長カーブのこと ☛OKRなど

経営者が「今の延長線上にビジョン達成はない」みたいなことを言い出した時は「ああ、非連続的成長が必要だと言っているんだな」と思ってください。

ビジョンと目標(KGI)を混同している企業がたまにありますが、そういう企業に所属する人には今回の話はわかりづらいと思います。例えば、利権ビジネスや小規模マーケットを独占し、大きな売上向上を目指していない企業には非連続的成長は必要ありません。

そういう企業の経営者でも「我々にはイノベーションが必要だ!」という人がいますが、おそらくそれは「イノベーション」って言いたかっただけで深く考えていないはずです。市場とビジネスモデルを考えるとイノベーションなんか起こさない方がいい企業はたくさんあります。

「連続的成長」と「非連続的成長」の違い ※坂の上の夢より抜粋

図のように、今の延長戦上にある目標のためにリニアに成長していくのが「連続的成長」です。対して、何かを飛躍的に変える(変革)ことで、今と繋がっていない成長カーブを作るのが「非連続的成長」です。

企業に「非連続的成長」が必要な理由

先ほど、「非連続的成長」がいらない企業もあると言いましたが、本来はほとんどの企業で「非連続的成長」が必要になります。それは、技術の成長がすさまじいからです。

例えば、最近の一番の革命はChatGPTですよね。AIは昔からありますが、一般人でもオープンにAIを使えるようになり、仕事の生産性が劇的に変わったという人は多いのではないでしょうか。ChatGPTがない前提で既存事業の改善による成長を毎年続けていた企業は多いと思います。そこにChatGPTが登場すると「いきなり仕事を奪われた」となるわけですよね。バナーや記事をシコシコ作っていた企業やチャットボットに自社開発のAIを搭載しようとしていた企業は大きな打撃だったはずです。

こういう巨人の出現によって世の中の常識が変わることはこれまでも度々ありました。古くは狩猟から農耕に変わったこと、さらには道具や武器の発明、または電気やガス等の新エネルギー創出、ITやインターネットの出現、スマホやSNSの台頭もそうですね。技術の進化によってこれまでの常識が大きく変わるということは人の社会では常々起きていることであり、それは未来も同じなわけです。

連続的成長は間違いなく重要です。目の前のお客様に提供している価値を磨き、より高付加価値のものにしてアップセルを狙ったり、より生産的なオペレーションを組んでコストを下げることで利益を生み出し、次の成長の投資を行います。後述する非連続的成長は連続的成長が生み出したキャッシュをもとに行われていることであり、連続的成長なしに非連続的成長を行うことは不可能だと言えます。

よって、経営者は連続的成長、非連続的成長のふたつの視点を持つ必要があるのですが、従業員にも同じ視点を持たせることは不可能だと思ってください。それは、人は二つの目標を同時に持てないこと、また、目の前の臨場感の高いタスクに邁進してしまうこと、さらには、非連続的成長を評価することは難しいこと、この3つが理由になります。

▼従業員に「連続的成長」の目線と「非連続的成長」の目線を同時に持たせることができない理由
①人は二つの目標を同時に持てない
②人は目の前の臨場感の高いタスクに邁進してしまう
③非連続的成長を評価することは難しい

①②は認知科学の分野で説明することができるので、認知科学を活用したコーチングのnoteで解説をしているので読んで見てください。

③はわかりやすいと思います。予想できないようなことに備えて投資することは必要ではありますが、当然、無駄にもなり得ます。つまり、「どうなるかわからない」というものに目標を設定することは難しいし、当然、評価をすることも難しくなります。そのような不安定なモノをいち従業員に追わせるとモチベーションの維持が非常に難しくなり、最悪、退職に繋がってしまうケースがあるのです。若手は短期で成果が出ないものにはモチベ継続が難しいですからね。

また、それでも医療分野のように、長年かけて投資しないと新薬を開発できないような領域もあります。しかし、前述したように非連続的成長のためには投資が必要であり、それは連続的成長があってこそなのです。医薬品メーカーのように潤沢なキャッシュがない企業では、一般メンバーには連続的成長の目標を追わせてキャッシュを生み出したうえで、特定の人が非連続的成長を追求すればいいでしょう。そして、その非連続的成長の担い手こそがCXOなのです。

CxOの仕事は「非連続成長」にコミットすること

CxOの役割定義とは

そもそもCxOは何のために存在するのでしょうか。日本でCxOが広まった背景として挙げられるのは、東京証券取引所が、コーポレートガバナンスの一環としてCxOを用いた経営戦略を推奨していることです。

CxOの役割は、経営の監視役と執行役を明確にわけて、健全な企業運営と迅速な経営判断を実践することで、このような経営戦略は欧米で多く見られます。ただし厳密にいうと欧米と日本ではその役割や法的な意味において、同一ではありません。

CxOとは、専門分野にて業務執行を統括する責任者のこと。
日本の法制では、代表取締役や取締役、執行役員や代表執行役、執行役などが企業の業務執行を担う者として定められています。

よって日本では、CxOが代表取締役や取締役、執行役員などの役職を兼務するケースも多いのです。特にスタートアップのような全員野球の組織では、経営の監視役と執行役を明確にわけることは難しく、取締役 兼 執行役員も多いと思います。そうなると余計にそれぞれの役割を明確に定義することがわかりづらくなります。

このnoteでは、一旦以下のように定義して進めていきたいと思います。

CxO(取締役/執行役員):非連続的成長の責任を担う役割
部長:連続的成長の責任を担う役割

執行役員は連続的成長じゃないのか?とか、本部長はどちらなんだ?とか、そういう議論は個別企業によって定義すればいいと思うので割愛します。

また、前述した通り、非連続的成長は連続的成長があってこそ起こせるものなので、CxOは実際のところ連続的成長の責任も担うと思います。CxOが人事部長のレポートになっているケースも多いですしね。明確に切り離すのは難しいでしょう。

CxOが担う「非連続的成長」のためのミッションとは

定義を決めたうえで、CxOが持つべきMissionとはなんでしょうか。CxOを担う人は皆が経営者として会社の業績に関するすべてに責任感を持つべきですが、責任感と責任は違うように、実際に持つべき責任(ミッション)はそれぞれの役割ごとに分けた方がわかりやすいです。責任を明確にするということですね。

そこで言うと、CEO、COO、CFOは明確でわかりやすいですね。

CEOの役割:CV(企業価値=FCF/WACC)を極大化すること
COOの役割:FCF(フリーキャッシュフロー)を極大化すること
CFOの役割:WACC(加重平均資本コスト)を極小化すること

明確な数式で表せることで、対目標、対競合と比較できるのはこの3者くらいかと思います。このnoteはあくまでもHRに関することを解説しているので、ファイナンス用語の解説は割愛します。

一方で、外のCxOの役割を比較可能な指標や数式で表すのは非常に難しいと思います。ゆえに、企業によって多種多様なCxOが存在し、役割が社外向けのブランドを担うだけのニックネームになっていたりもします。

こういう取り組みは素敵ですが、通常のCxOがブランドのみになってしまっては「名ばかり」とレッテルを張られてしまいます。よって、一般的なCxOを選出する場合は、明確にミッションを定義すると良いでしょう。

会社の持つリソースを投資してリターンを得る経済活動に即し、ヒト、モノ、カネ、情報、技術というリソースをいかに効率的に活用するか、という観点に立って解説します。

▼連続的成長
ヒト:『採用、配置、評価』を駆使して成長する ☛人事部
モノ:『営業、オペレーション』を駆使して成長する ☛営業部
カネ:『財務会計、管理会計』を駆使して成長する ☛財務経理部
情報:『実績、実態』を駆使して成長する ☛経営企画部、広報部

連続的成長はY=αXで表すことが可能な分野です。何をXにインプットしたら、Y(成果)というアウトプットが出るか、ということが明確なので、予想が大きく外れないわけですね。KGIとKPIを明確に設定して評価が可能であると言い換えることができます。

▼非連続的成長
ヒト:『人的資本』を駆使して成長する ☛CHRO
モノ:『研究開発、技術開発』を駆使して成長する ☛CPO、CTO
カネ:『ファイナンス』を駆使して成長する ☛CFO
情報:『戦略、ブランド』を駆使して成長する ☛CMO、CBO

対して、非連続的成長は、単純な数式で表すことが難しい分野です。つまり、Y(成果/アウトプット)を出すために関連するX(変数/インプット)が多すぎて、明確にKPIを示すことができないわけです。

具体的には、人的資本分野の人材開発などはわかりやすいと思います。経営人材を育てるというY(成果/アウトプット)に対して、変数は、上司、業務アサイン、報酬設計、チーム、スキル開発、個人の素養など多岐に渡り、どれが一番ヒットするかというのがわかりづらいのです。そして、わかりづらいということはKPIを無理やり設定して追いかけるというのは危険な行為になります。

KPIが設定しづらく、また、短期的に成果を出すことも難しい以上、一般メンバーに責任を負わせるのは非常に難しいことはお分かりいただけると思います。だからこそ、長期スパンでCxOが追いかけるべき分野になるのです。

「非連続的成長」を追求するためにCHROに必要なスキルとは

人事における連続的成長のためのミッションはわかりやすいですね。

ヒト:『採用、配置、評価』を駆使して成長する ☛人事部

これらは人事機能を一通り経験している人事部長で十分可能です。

一方で、「非連続的成長」に必要な『人的資本経営の推進』ができる人は限られていると思います。人的資本経営については別のnoteで解説しようと思いますが、僕は人的資本の開示とは以下のように定義しています。

人事領域でインプットしたものが、いかにCVにヒットしたか、
その取り組みや相関関係をアウトプットすること

この問題の一番ややこしいのは、『いかにCVにヒットしたか』を検討することと、『相関関係をアウトプットする』ことです。

CVにヒットする要因は様々です。上記のように経営のリソースに分解すると、

▼インプット
・採用ができた ☛人事領域
・研修を実施した ☛人事領域
・制度を変更した ☛人事領域

▼スループット
・さらに高度な人材の採用に繋がった ☛人事領域
・高度な開発が可能になった ☛研究開発領域
・資金調達が可能になった ☛財務領域
・企業のブランドイメージが上がった ☛広報領域
・新たな戦略策定ができるようになった ☛経営企画領域

▼アウトプット
・インプットは具体的にこのようなことを行った
・結果としてスループットのようなことが起きた
・インプットとスループットには相関関係が見える

▼アウトカム
・CV(企業価値)があがった

このようにCVを向上させるのに必要なのは「人」だよね。だから「人という資本」を大事にするとともに、その取り組みを社内外にアウトプットしようね。というのが、人的資本経営であり開示です。

この流れを見て人事部長では難しいポイントは3点あります。以下の3点を持ち合わせている人事部長はなかなかいないのです。

①経営に対しての包括的な知識があること
②様々な領域の責任者を巻き込んで相関を分析すること
③すべてのステークホルダーにわかりやすく一連のプロセスをアウトプットすること

①は言わずもがなですね。CVとは、ファイナンスとは、ブランドとは、という領域がわかっていないとスループットがちんぷんかんぷんでしょう。

②は大きな企業ではやっかいです。縦割りの組織を横断してプロジェクトを推進する、または、各領域でデータを持っている人を見つけて、巻き込む必要があります。もっと前提で言うと、このようなプロジェクトを人事主導で行うことを他の領域を管掌する役員から承認を得るだけの信頼がないといけません。巻き込むことができない人、信頼ができない人には他の役員はOKをくれませんからね。

③もそうです。複雑なものをシンプルにまとめるのは至難の業です。よって、人的資本経営は経営企画部が社長直下のプロジェクトとして実施しているケースが多いのです。または、経営企画部でもできないものはコンサルが入って丸ごとカバーしていたりします。

この①~③をできる人がなかなかいないので各社は苦労しています。よって、インプットとアウトプットという入り口と出口だけを整えて、キレイに見えるけど中身のない統合報告書だけが出来上がっていたりします。プロセスや相関関係が見える化していないので、読んでいてよくわからないものが多いのはそのためです。

パーツはその道のプロにアウトソースすればいいとして、骨子をデザインし、プロジェクトを推進するのはやはりCHROであるべきです。CHROは①~③ができる人物であることが求められるとともに、人事領域のインプットを正しくできる(連続的成長の推進に優れている)人物であることも同時に求められます。

これで人事部長との違いや、名ばかりのCHROを設置しても意味がない(ミッションが不明確のためワークしない/ミッションを達成するために必要なケイパビリティが明文化できない)ということがご理解いただけたかと思います。

より詳しい内容が知りたい、自社で戦略人事思考を持った人事責任者を採用したい、育てたいがうまくいかない、という経営者の方はご連絡をください。CHRO採用とCHRO開発を承っています。
takenoko1220






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