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プロパー社員をCHROに育てるために経験させるべき15の経験集~信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方Vol:4~

こんにちは。株式会社シンシア・ハート代表の堀内猛志(takenoko1220)です。
このシリーズでは、「信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方」について、50名から4000名まで成長した企業で、各ステージの人事組織戦略の遂行に人事役員として奔走した自身の経験をもとに、人事トップになるために実行したことや、意識していたマインド、経営や現場とのコミュニケーションのtipsなどをお伝えしていきます。

私の経歴詳細は以下からご確認ください。

それでは、今回のアジェンダです。
今回は、自身の経験をもとに、プロパー社員をCHROに育てるために経験させるべき15の経験を解説します。


1.早期のビジネス経験

スポーツと違ってビジネスに早熟はありません。できる限り早くビジネスを経験し、『ビジネスリテラシー』を高めておく方がいいでしょう。「早期」とは早ければ早いほどいいので、ここは新卒入社した22歳のメンバーを育てるようでは遅いです。学生時代に起業をしていた学生、長期インターンに参加していた学生、事業プランコンテストに参加した学生、自営業を手伝ってきた学生など、ビジネス経験があり、一言で「お金の匂いがする学生」を採用しましょう。「お金の匂いがする」とは「儲ける」という構造を合理的に理解していて、儲けることに前向きで意欲的な人材が醸し出す雰囲気のことです。お金の匂いがしない学生は優秀な従業員にはなりえますが、根本的には経営の素質はありません。見極めを間違えないようにしましょう。

2.失敗経験

失敗経験も早ければ早いほど良いです。失敗経験は『レジリエンス』を鍛えます。レジリエンス(resilience)とは、「回復力」「復元力」「耐久力」「再起力」「弾力」などと訳される言葉で、「困難をしなやかに乗り越え回復する力(精神的回復力)」として、ビジネスの現場でも注目が集まっています。これもすでに学生時代のハードな経験で手に入れている学生もいますが、Z世代は全く失敗経験がないまま大人になっている優等生も少なくないので、意図的に大失敗できる環境をデザインしましょう。ただし、失敗のどん底から戻ってこれずに心が折れて終了する人もいるので、その人のステージに合わせたちょうどいい塩梅をデザインすることが大切です。

3.不当な扱い・冷遇(思い通りにならない)経験

この経験を意図的にデザインすることが難しいため、体育会系の学生を採用したがる企業が多いですね。体育会系の縦社会の中で、思い通りにならない経験に耐えるメンタルを持っている学生は一定数は存在しています。しかし、それが『ハードシングスに耐えられるメンタル』や『不遇な環境で試行錯誤する思考』が養われているのか、それとも単に思考停止になっているのかは見極めが必要です。特に新人は不当な扱いや冷遇に慣れていない人が多いです。それは学生までが「自分中心のサービス受給視点」であり、社会人になり「顧客中心のサービス提供視点」にうまく適応できな場合が多いです。「なぜ」をきちんとフィードバックしない不当な扱いや冷遇は早期退職に繋がるだけなので、運用には注意が必要です。

4.スタッフ部門(バックオフィス)への異動経験

事業側でクライアントワークを行う経験も大事ですが、同じくらい、フロントを支えるバックオフィスの経験も大事です。特に人事は、採用や人材開発という機能を「攻めの人事」とすると、給与や労務という機能は「守りの人事」扱いとなります。攻めの人事は営業と同じで、いかに200点、1000点をとれるかが求められますが、給与や労務は100点が基準であり、99点でも大きく責められますが、200点を目指すものではない難しいものです。そのような『オペレーションエクセレント』が求められるポジションを経験することで、これまでとは全然違う『縁の下の力持ちとしての視点』を身に着けることができます。

5.早期に部下を持つ経験

これは言わずもがなですね。親になるための準備がないのと同じで、管理職になるための準備などありません。子を育てながら親になるように、部下を育てながらようやく一人前の管理職になり『マネジメントの視座』を持つことができます。やらないとわからないことは早く経験した方がいいのです。早期に管理職になるとたくさん失敗すると思いますし、ストレスも多いでしょう。しかしそれは、2や6の経験に繋がります。

6.危機的状況の経験

なかなか計画的に準備することはできない経験ですが重要です。小さな出来事はどんどん失敗させた方が本人のためです。小さい失敗なので上司が後からリカバリーすることも容易いでしょう。一方で、大きなプロジェクトを失敗させるわけにはいきません。だからこそなかなか大きなプロジェクトをリードする経験が若手にはなかなか回ってこないのですが、経営人材を早期に育てるためには一番重要と言ってもいい経験です。守られている意識のうちは従業員です。『自分が最後の砦であるというリーダーとしての責任感』を持てなければ経営人材にはなれません。

7.タフな交渉経験

社内外問わず、『人を巻き込む』ことができる人ほど大きなプロジェクトを動かせるようになります。一方で、利害が一致しない人を巻き込むことは容易ではありません。社外の交渉がうまい人も、社内調整になるとやたらヘタクソな人がいますし逆も然りです。AIがいくら発達しようが交渉の矢面に出る業務は間違いなく人が行うべき仕事です。特に若い人は同じ世代の人、同じタイプの人と固まる癖があり、同期や同世代ではコミュ力が高いと言われる人が、世代の違う人とのコミュニケーションではポンコツになるケースが多いです。若手は嫌がるかもしれませんが、会食などの大人の交渉の場に積極的に連れ出して、横で学ばせるようにしましょう。

8.非凡人財との仕事経験

『経営視座』を一気に引き上げる意味では、社外の優秀な人材とともにプロジェクトをさせることは大事です。特に社内という狭いコミュニティの中でトップ人材と言われ、少し天狗気味になっている若手には良い薬になります。世の中の広さ、自分の未熟さを肌で感じさせるチャンスです。仕事を通じて基準の違いを見せつけられるのは、何日も研修を受けさせるよりもはるかに効果的です。経営者コミュニティの事務局運営をさせるなども良い経験になります。ただし、非凡人材に惹かれて転職しないようにハートはちゃんとグリップしておきましょう。

9.特命プロジェクト経験

メイン業務の他にサブ業務として特命プロジェクトを持たせるのも有効です。複数の掛け持ちはパンクしそうになりますが、『本人の心の器』を一気に大きくするためには、一気に大量に器に水を入れることが有効です。否が応でも器を大きくするか、無駄をなくすような生産性向上のイノベーション思考が働くからです。ポイントは一気に倍近い水を入れる(重いプロジェクトを任せる)ことです。少しの水だと、寝る間を削る、週末を使う、という手で時間を捻出してしまいますが、やって欲しいのはそういうことではありませんよね。「時間を変えずにやりきるためにはどうしたらいいか」というパラダイムチェンジの思考を養うことができます。

10.異文化(住居の異動を伴う)経験

物理的にも心理的にも『ダイバーシティ』を肌で感じさせるためには、環境を変えることが一番です。その環境の要素は今の環境と違えば違うほど有効です。価値観の絶対値を右に左に広げることで、『異なった価値観を受け入れる受容力』が高まります。また、人間の最大の敵である「飽き」の防止にもなります。家族を持ったメンバーを移動させるのは難しい時代になったので、独身の内に異動を経験させるといいでしょう。

11.新規事業立上げ経験

『経営者としてのマーケット感覚を養う』ためには自分で事業を立ち上げるのが一番良い経験です。無から有を生み出す苦しみを経験することは、マーケティング、ファイナンス、クリティカルシンキング、リーダーシップ、経営戦略等、すべての力を総動員する必要があります。とはいえ、実践のみでは非効率なので、ビジネススクールに通わせ、理論とセットで実践をさせると非常に効果的です。経営者は座学を嫌う人がいますが、理論はレシピのようなものです。レシピなしで見たことも食べたこともないカレーを生み出すのは無理だし、それを考えさせるのは非効率です。理論という名のレシピはフル活用するようにしましょう。

12.格段上の役割を担う経験

これはなかなか難しいのですが、上記のような項目をやらせてきても、あともう一歩、壁を越えられないというステージで止まる人がいると思います。頭がよくて、人柄が良くて、何でも人並み以上に器用にこなしてしまう人の場合、毎度90点~100点だけど100点以上をとってくれないので育てる側もモヤモヤするでしょう。でも100点近いので文句の付け所はないんですよね。そういう人にはよりエクストリームな経験が必要です。つまり、一般的な人よりも遥かに高いレベル、まさに清水の舞台から飛び降りるような経験がないと本人の価値観や視座が揺らぐレベルまで行かないのです。子会社をひとつ任せ、対象の人材よりもはるかに年齢が上で経験豊富な部下をつけてみるなど、今まで培った能力をリニアに高めて活用するような方法だとうまくいかないようなゲームルールの場所に放り込んでみましょう。その経験を経て、ようやく『経営者になるための壁』を超えられる人もいます。

13.事業・支店のクローズ経験

ハードシングスな事象はポジティブな事象だけではありません。クローズという何ともやりきれない経験をさせることも一つです。同じハードシングスでも、新規事業や特命プロジェクトは最後にはハッピーになるゴールがあります。しかし、サービス、事業、支店などをクローズするときのゴールはコストカットによる最適化であり、何かを生み出すようなハッピーな事象はありません。事業自体を止めたり、お客様にサービス終了のお知らせを伝えることも心苦しいですが、何よりも頑張っているメンバーに終わりを告げることや、クローズに伴い雇用契約を打ち切ったり、退職を促したりすることは一番メンタルがやられます。下手をすると、責任を感じて一緒に辞めると言いかねないですし、人に関する考え方が冷たい経営者だと思われて求心力を失う可能性もあります。ここの経験で身に着けて欲しいのは『経営者としての意思決定プロセスと厳しい決断の断行』なので、その意図を伝い続けることをセットにすることを怠らないでください。

14.HRBP経験

ようやく人事っぽい経験が出てきましたね。いきなり本体の人事の責任者につけるようなことができるならばその方がいいのですが、さすがにまだ難しいという場合はHRBPからスタートするのがいいでしょう。事業責任者のパートナーとして、ひとつの事業を会社と見立て、事業推進を人事側面からサポートします。ここでは『事業責任者の目線を持ちながら事業戦略と人事戦略を接続する』という意識と思考を養ってもらいます。本体人事よりも現場との距離が近いので、現場メンバーと一緒に汗をかいて事業を創るという経験ができるのが魅力です。本体人事の責任を担うことになっても「現地・現物」から声を拾う、「現場」に協力をしてもらい成し遂げる、という意識を忘れないための経験になります。ポイントはどの事業責任者の横に着けるかですね。任せるべき事業責任者が見当たらないのであれば無駄になるのでHRBPよりも本体人事として動かした方がいいでしょう。

15.社外に数名のメンターを持つ経験

人事のお客様は現場のメンバーなので、どうしても視点が社内に向きがちで、狭い視野の施策を思考しがちになります。ゆえに、社外で活躍する、自社よりも一歩二歩先に行く企業のCHROや経営者をメンターとしてつけることを推奨します。あまり先に行き過ぎた企業だと参考にするのは難しいでしょうし、自社と全然違う事業を行う企業だと参考にする要素が少なく、対象者を混乱させるだけになりかねません。本当は自分で見つけさせるのがいいのですが、経営者が探してあげるのも良いと思います。これは、ある程度、依頼側の経営者の意図を組んだフィードバックをしてもらえるというメリットがあるからです。裏を返せば、メンターの人選を誤ると、メンターへの求心力が強くなり出ていくということにもなりかねないならです。社内と社外、つまり、『会社への求心力と遠心力をバランスよく身に着けさせる』ことが求められるということです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回はプロパー社員をCHROに育てるために経験させるべき15の経験を紹介しました。企業のステージや文化、または組織ケイパビリティや対象人材のスペックによって、できるものとできないものがあると思います。この経験を全部行えばいいものではないですし、CHROに育てるためにやらせるべき経験はこれに限ったことではありません。

経営者ほど、座学よりも実務を優先させようとする人が多いでしょう。しかし、実務をやらせるにあたり、目的、環境、本人の特性、組織ケイパビリティ、などをきちんとデザインしないと、よかれと思ってやらせたことの結果が全く違うものになって返ってくることもしばしばあります。文中でも何度も警告しましたが、最悪は退職に繋がるリスクもある経験が多いです。

それでもこのような経験を行わせる必要があるのは、経営者は戦略通りに育たないからです。事業責任者までは戦略的に育てることができます。しかし、事業責任者と経営者の間には雲泥の差があるのです。そこの大きな壁をこえさせるために、リスクをとったエクストリームな経験をさせる必要があります。特にプロパー社員であれば、意図目的をきちんと伝え、経験中に適切にフィードバックを行えば、経営者であるあなたの意志を理解した行動をしてくれるはずです。まさに「かわいい子には旅をさせろ」の実践ですね。

「この人材を数年後に自社のCHROに育てたい」と思っている経営者は、是非、実践をしてみてください。

より詳しい内容が知りたい、自社で人事責任者を採用したい、育てたいがうまくいかない、という経営者の方はご連絡をください。CHRO採用とCHRO開発を承っています。
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