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定時先生!本編 第1章 #教師のバトン編

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#教師のバトン  がテーマの小説。本編の#教師のバトン編です。
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定時先生!第1話 ブラックなんでしょ

定時先生!第1話 ブラックなんでしょ

本編目次

 便座に座ると、鋭い冷たさが背中まで伝った。5月も下旬だが、ここのところの長雨で、昼でも冷え込む。かがんだちょうど目線の高さに、ポスターが貼られている。

 ~こどもたちのために! K市立学校 力を合わせて不祥事根絶~

 遠藤は、着任後幾度と眺めたそのポスターをじっと見つめた。読むというより、字を順に見ているだけだ。

 遠藤は4月に着任した、採用1年目のいわゆる初任者だ。幼いころか

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定時先生!第2話 桜

定時先生!第2話 桜

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第1話 ブラックなんでしょ

 採用試験合格後、遠藤は夢を叶えた自分を心の底から喜ぼうとした。しかし、心の隅にある小さな影が、消えない。むしろ、日に日に大きく濃くなっていく。

 ーそうかもね、でも、世間の注目が高まっていて、改善の動きはあるんだよ。それにー

 遠藤は、周囲に教師の労働環境を話題にされる度、胸にかかるもやをはらうように、そう返していた。教職への否定は、すなわち幼い頃

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定時先生!第3話 面接

定時先生!第3話 面接

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第1話 ブラックなんでしょ

 職員玄関に入ると、外の陽気が嘘のようにひんやりと涼しかった。横の小窓から事務室の中が見えた。2人の職員が机に向かっている。

「あの、すみません。4月からお世話になります、遠藤と申します。面接に来ました」

 2人は一斉に返事をして、小窓越しに遠藤を見ると、息を合わせたように立ち上がり、スーツ姿の男性が遠藤の対応に廊下へ向かい、ベテラン風の女性は、隣接

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定時先生!第4話 4月から

定時先生!第4話 4月から

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第1話 ブラックなんでしょ

「1年生の担任をお願いします」
「…はい、わかりました」
 
 担任。俺が。
 
 幼い頃から教師を夢みた遠藤だが、今まで自分が教壇に立つ姿を想像できないでいた。わずか3週間の教育実習ではなく、毎日児童生徒と向き合う責任ある教師としての俺。
 採用試験に合格したとき、着任先を知ったとき、この中学校の桜を見たとき。その度に教師として歩み始める意識を強くした

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定時先生!第5話 マメ

定時先生!第5話 マメ

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第1話 ブラックなんでしょ

 遠藤はすぐに、読めば読むほど不安に苛まれるだけだと気が付いた。しかし、その不安に反し親指は、まるで意志をもったかのように、画面をスクロールし続けた。
#教師のバトン  。教師の長時間労働問題を受け、文部科学省が教職の魅力発信を目的として立ち上げたプロジェクトで使用されたタグだ。教職志望者らに向け、現職の教員に働き方改革の好事例などを #

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定時先生!第6話 予想外

定時先生!第6話 予想外

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第1話 ブラックなんでしょ

 4月1日、出勤初日の午後、校長室に呼ばれた遠藤は、着任前面接の時と全く同じ位置に座った。「実は」と切り出した校長の声がささやくほど小さいことから、遠藤は瞬時に朗報ではないことを悟った。

「遠藤さんには陸上部をお願いしたんだけども、訳あってね、テニスの顧問をお願いできないかっていうお願いなんですよ。ソフトテニスね。」

 陸上部顧問のつもりでいた遠藤は

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定時先生!第7話 だってさ

定時先生!第7話 だってさ

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第1話 ブラックなんでしょ

 また、放課後には生徒会活動や部活動が始まるが、この間に規定退勤時刻16時40分が過ぎる。こうした集まりを解散させた後、校務分掌の書類作成事務や行事準備に取り掛かる。
 生徒指導案件やそれに係る職員同士の報告・相談、保護者対応は突発的に起き、全ての予定を繰り下げる。これらが一段落する夜に、翌日の授業の教材研究が始まるのだ。
 この他、遠藤は未経験だが、成

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定時先生!第8話 職員会議

定時先生!第8話 職員会議

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第1話 ブラックなんでしょ

「定時先生…」
「生徒もうまいこと言うよな」

 遠藤は記憶の中の中島を辿った。

 講師経験のない初任者は、4月の初めての職員会議でその提案内容のほとんどを理解することができない。遠藤も例に漏れず、何が不明なのかすらわからない状態で会議の席にいた。周囲を見渡すと、提案者はただ資料を読み上げ、参加者は聴いている者と眠そうにしている者で半々だった。
 提案

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定時先生!第9話 始業前の職員室

定時先生!第9話 始業前の職員室

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第1話 ブラックなんでしょ

 4月1日から始業までの数日間の学校は、高密度に凝縮されたような多忙で包まれている。年間方針や分担の決定、共通理解事項の共有等のために、職員会議をはじめ、学年会議、教科会議、分掌会議等多くの会議が詰め込まれ、部活によっては顧問会議の出張まで入ることもある。その隙間を縫って教室環境整備などを進めなくてはならなず、時間はいくらあっても足りない

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定時先生!第10話 部活はどうした

定時先生!第10話 部活はどうした

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第1話 ブラックなんでしょ

「中島先生は生徒も知ってるくらいいつも定時退勤なわけじゃん?先生方からはさ、どう思われてるかなってこと」

 職員トイレで北沢が真っ直ぐ遠藤を見つめている。質問の反応を待っているのだ。

「…なるほど確かに定時先生だわ。周りからは…今は働き方改革大事って言うし、やっぱすごいって思われてるんじゃない?」

 遠藤の返答を食い気味に北沢が続ける。

「だよね

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定時先生!第11話 ノート点検

定時先生!第11話 ノート点検

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第1話 ブラックなんでしょ

 スタンプを押す。次のノートにまたスタンプを押す。
 職員室の遠藤の机に、開いたノートが積まれている。遠藤は一冊ずつ手に取り、ページをめくり目を通し、スタンプを押す。向かい席の川村も、同じ作業をしている。

「遠藤君のクラス、まだそんなに提出してるの。すごいね、私のクラスなんて、もう半分の子も出してこないよ」
「いや、全然すごくないですよ。ほら、このノー

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定時先生!第12話 車中

定時先生!第12話 車中

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第1話 ブラックなんでしょ

 定研での主な研修内容に、授業公開がある。発表者が自らの授業を公開し、その後参観教員とともに授業内容の反省点等を検討し合う。ただでさえ多忙な中、人に授業を公開するだけでも大変な負担だが、発表者はさらに、学習指導案という授業の目的や流れを詳細に記した資料まで作成しなければならない。
 年度初回の定研では、年間の授業公開発表者を決めるが、立候補がおらず会の進

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定時先生!第13話 定研

定時先生!第13話 定研

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第1話 ブラックなんでしょ

 遠藤と中島は、コンビニでそれぞれおにぎりを選んだ。先に会計を済ませた遠藤は、店頭のベンチに腰を下ろし中島を待つ。しばらく経って、中島が店から出て来た。遠藤と一人分間隔を空けて隣りに座る。

「おにぎり迷っちゃって。ごめん、お待たせ。いただきます」
「いえいえ、いただきます」
「…」
「…」 

 マスクを外しおにぎりを頬張る中島を横目に、遠藤は先の自ら

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定時先生!第14話 拍手

定時先生!第14話 拍手

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第1話 ブラックなんでしょ

「…え…?」

 遠藤の瞼にこめられた渾身の力が、ゆっくりと弛緩していく。視線を上げると、隣には、起立し司会を真っ直ぐ見つめる中島がいた。俯いていた参加者達が、次々と顔を上げていく。
 司会が安堵と感謝が混ざった表情を浮かべ、中島を見つめている。発表者の決定が滞ることを覚悟していたのであろう。

「ありがとうございます。…皆様拍手をお願いします」

 予

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