定時先生!第8話 職員会議
本編目次
第1話 ブラックなんでしょ
「定時先生…」
「生徒もうまいこと言うよな」
遠藤は記憶の中の中島を辿った。
講師経験のない初任者は、4月の初めての職員会議でその提案内容のほとんどを理解することができない。遠藤も例に漏れず、何が不明なのかすらわからない状態で会議の席にいた。周囲を見渡すと、提案者はただ資料を読み上げ、参加者は聴いている者と眠そうにしている者で半々だった。
提案者がキリの良いところで司会に返すと、司会は質疑を募るものの、その時間は異様に短く、ほんの3秒ほどですぐさま次の議題に移る。議論を深めることより、早く終わらせることが優先らしい。時折、同じ者が質問を重ねると、会議が長引くことを嫌ううんざりとした空気が立ち込めるが、質問者がそれを察することはない。
遠藤の隣には、授業予定を記録する週案帳を広げ、手を休めることなく書き込み続ける男性教員がいた。グレーのスーツをきっかり着込んだ30代半ばの中堅風だ。会議をろくに聞かずに内職を続ける横顔を横目に、遠藤は、職員会議とは形式的なもので、会議というより伝達会に近いと理解した。
その時だった。不意に横顔と目があった。遠藤はドキリとして、すぐさま目を逸らした。男性教員は、書き込む手を止め、穏やかな小声で遠藤に言う。
「遠藤先生、会議内容何言ってるかわからないでしょ?」
「…ええ…さっぱりです…」
「そうだよね、俺も最初はそうだったよ。あ、中島と言います。同じ国語科。よろしくね」
「何かご意見、ご質問ありませんか。…はい、では次の議題、ですが…」
司会が、校長教頭らがまとまっている席の方に視線を送った。議題の半分は残っていたが、会議の終了予定時刻をわずかに過ぎていたのだ。教頭が起立し連絡した。
「明日も職員会議がありますので、残りの議題はそこでやります。あとですね、すみませんが、提案者の方は提案内容を絞って短時間でお願いします」
数人が頷くなか、遠藤にとって初めての職員会議は2時間ほどで終了した。遠藤は座って聞いていただけだが、内容を理解できなかった分、余計に疲労したように感じられた。
少し前から手回りを片付け始めていた中島は、会議の終了と同時に立ち上がり、遠藤に言う。
「わからないことは、遠慮せず誰かに聞きなね。もちろん俺でも。皆先生だから基本教え好きだよ」
「ありがとうございます」
「学年は違うけど、俺同じ国語科だからさ、授業案とか、すぐ提供できるから。声かけてね。じゃ、このあとの学年会議と教科会議と分掌会議も、がんばろう」
中島の優しさは有り難いが、それ以上に会議が続くことに遠藤は辟易とした。