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(4)秘書達が勝手にやったのです。私は全く知りません。その2(2024.1改)

伊達眼鏡とマスクをして、髪を隠すようにニットを被り、ジーンズ姿で上野のアメ横で商品をチェックしている金森 鮎がいた。大森に住んでいた際は海洋生物学の教授だったので、築地から豊洲市場に転じても、年末に扱われる海産物の種類と市況価格をチェックするのを恒例としていた。
明日は都内で用事が有るので、前日を有意義に過ごしていた。
年末年始の定番、タラバガニ、数の子、イクラ、鮭、ブリ等の他に、人々がどんな魚を購入しているのか、毎年推移する魚介類のトレンドを追っていた。

数年前から日本近海の水温上昇で周辺海域の魚類の生態系が変化して、南に生息する魚が水揚げされるようになり、食卓に並ぶ魚も様変わりしてきた。関西では常食のタチウオやチダイ等も横浜、豊洲の市場で当たり前に取引されるようになって来た。タチウオなど、調理し慣れない関東の人は購入しないのだろう。総じて安価で取引されている。
宮城・石巻漁港で水揚げされた魚を豊洲市場で鮎は見つけたのだが、三陸沖定番の金華サバの他に、瀬戸内海で採れるチダイ、タチウオ、サワラ、トラフグなど、宮城の海では見られなかった魚が並べられていた。温暖化の影響で、三陸沖の冬の平均海水温が1.5℃上昇しただけで瀬戸内海の魚が生息するようになったかと嘆いていた。
東京の市場でサワラやタチウオ、トラフグを調達しようと考える業者は、瀬戸内産だろうが三陸沖産だろうが気にしないだろうが、三陸沖の人々にとって見慣れない魚を調理して、食すには若干抵抗もあるだろう。

それに、フグ刺しといえば関西以南の定番だが、果たして宮城にフグ職人が居るのか?後で聞いてみようと鮎は思った。

豊洲の次にアメ横まで足を運んだ理由は、消費者向けの価格を見るためで、仕入れ価格からどの程度の利益を商店が得ているのかが見えてくるからだ。
サハリン沖とウラジオストク湾内岸の海産物が晩秋から国内に大量に供給されるようになり、アメ横定番の食材は総じて安くなり、客も昨年末よりも多く購入しているので金森は安堵する。供給過多で売れ残り、値崩れしても困る。
が、そこはAIが分析した通り、需給のバランスは良好であるように見えた。

1月からはウラジオストクー富山間で週1で連絡船が就航する。
連絡船に先んじて12月中旬から空輸便が両空港間で就航しており、富山からはコロナ製剤を始めとする薬品と北陸の日本酒に加えて、ロシアは真冬なので東南アジア産の夏野菜と果物と、そして東南アジアの安価なビールが運ばれている。
ロシアからの空輸便は牛肉・豚肉・鶏肉、バター・チーズ等の乳製品となっている。

また、中国内で調達した日本企業の左ハンドル車を、ベトナムで改良して優良中古車とし、車載船に搭載してウラジオストクへ出荷し、帰りは旧ソビエト圏内の中古欧州車を積んで富山に運び入れる。富山の工場でエンジンと足回り、シート類を交換して、旧東欧諸国、インドシナ3国等の左ハンドル国へ送り込む。
コロナ明けでダイレクトに大陸と事業を行なう、そんな算段が調おうとしていた・・

「ありゃ? おーい、そこのべっぴんさんよ!あんた、金森先生じゃねーかァ、なぁ、そうだろ?」

ダミ声でカニの特売を連呼している馴染みの商店の前を通り過ぎようとしたら、大きなダミ声のまま、店の主人に声を掛けられてしまう。

慌てて人差し指を立てて「シーっ!」と言ってみたものの、時、既に遅し、アメ横の買い物客に囲まれる。

「国会議員になって下さい!」
「金森首相、バンザーイ!」
「被害者解放、ありがとう!」
と言われながら握手攻めとなり、鮎は人混みに揉まれてしまった。

ーーー

2020年の予想経済成長率を前年比2.5%増となる見込みとしていた北京政府は、下方修正を余儀なくされていた。6−9月末までの四半期統計結果がプラス転換し、財政・金融両面からの景気対策が寄与して投資が回復に転じ、生産体制がほぼ正常化を遂げて順調に輸出が増加。
国内の個人消費も緩やかに回復し、可処分所得・失業率などの指標が全て改善傾向にあったし、コロナも富山の特効薬で完全に克服したにも関わらず、前年比1.9%成長への下方修正となりそうだ。

問題は10月以降の輸出だった。欧州向けは好調だったものの、東南アジア、日本・東アジア向けの工業製品が減少、大ブレーキとなった。
対日本向けで見ても、顕著となる。
中国は日本の最大の輸出入先でもある。 昨年2019年の日本からの輸入は15兆820億円で日本の輸出総額の 22%を占めた。それがコロナ停滞分もあって12兆円へと下がった。
日本向けの昨年の輸出は超過となる 17兆5,077億円であったが 、今年は9兆円を僅かに超えた程度で終わりそうだ。レアメタル等の特殊金属は堅調だったものの、秋以降ストップ状態となったのが家電品、PC・ モバイル関連だ。
日本の大手量販店での中国製品の売上が、殆ど無くなった。安価だと喜ばれていた中国メーカーの製品が購入されなくなった理由が、プルシアンブルー製の家電品、PC・ モバイルだった。

日本の家電量販店・携帯電話各社の売上も軒並み下がり、赤字修正が報じられている。家電量販店・携帯電話各社はプルシアンブルー社に製品の取り扱いを要請しているが、製品供給量を理由に現時点では断られているらしい。  
消費者はネット販売とプルシアンブルー・ショップで調達しているようだが、プルシアンブルー社は需要の増加に十分に対処出来ていない。
しかし同社は、ボルネオ島内の3カ国ブルネイ・マレーシア・インドネシアと、ボルネオ島のシリコンアイランド構想を打ち出し、ブルネイでは先んじて半導体の出荷が始まっている。また、タイ国内の家電製造工場を数棟買収したと報じられているので、増産に向けた動きは取っているようだ。

「ブルネイで何を製造しているのか、まだ分からないのか?」
産業省の大臣がやって来て、外務大臣と外務官僚を急かす。

何を製造しているのか分かったところで、対処する術があるとでも言うのか?と​思いながら、
「申し訳ありません。富山並みのセキュリティが国全体で講じられており、身動きできないのです」と頭を下げると、産業大臣はそれなら仕方がないと部屋を出ていった。

「知ってるのなら、外務省ではなく 軍に相談しろ!」
産業相が居なくなってから、外相がそう言うが、相手が居る場で言って欲しかったと、外務官僚は思っていた。

ーーーー

ボルネオ島で最大都市マレーシアのコナキタバルに、2泊3日のショートトリップに蛍と翔子と中学生の娘2人と新顔の3家族が出掛けていった。

ブルネイのバンダルスリブガワンに残ったのは養女の大学生4人と社員の4名の計8人で、「週末はゆっくりと愉しみなさい」とやや怒った顔で今朝、出掛ける際に蛍から言われた。

どうせなら8人も一緒に行けば、もっと気楽な週末だったのに・・とは言わなかった。
何故か「やったろうじゃないの」と、その気になっていた。今年最後の週末でもある「〇〇納め」という表現に相応しいではないか、と。

仕事を終えて、首相官邸のロビーに降りると、8人がマレー様式の衣装を纏っているので思わず笑ってしまう。
前回訪問した際にも通った首都の大衆お食事処でもあるナイトマーケットに一同と向かう。
全品高くても3ドル(ブルネイ/シンガポールドルで約240円)なので、財布はちっとも傷まない。それでもローストされた大きなシマアジやカツオも3ドルなので、誰も文句を言わない。

ブルネイの唯一の懸念が酒が何処にも無いので、料理をテイクアウトして官舎で飲むしかない。飲んでる(ヤッ〇る)場を見られたくないので、金曜の夕飯と週末は対応不要ですとスタッフに伝えている。それで、ナイトマーケットに食料調達に来た。シンガポールのホーカーよりも衛生的で、香辛料が抑え気味で日本人好みの調理品を購入してゆく。

「実は闇の酒場が近所にあるとか?」
樹里とサチと果物を調達していたら、樹里が言う。

「無いんだ。前回、ゴードン達が必死になって探したけどね。7つ星ホテルのコンシェルジュさんに諦めて下さいって言われたみたい」

「7つ星なんてあるの?おまけに、そんなホテルなのにバーが無いの?」サチが絡む。

「レストランにノンアルコールのビールがあった。だから、持ち込みと免税店で買った酒を部屋で飲んでいたよ」

「7つ星でもそんなんじゃ、ナイトライフが盛り上がらないよね」
樹里に尻を撫でられ、それを見ていたサチに尻を揉まれた。

宿舎に着いて一同で驚く。阿東紗希が階段から嬉しそうな顔をして降りて来たからだ。
「おかえりなさい。実はトモちんがバスに酔っちゃって、引き返して来たんです・・」
アラアラと杏と樹里が池内知代の部屋に向かう。阿東紗希は買ってきた食材を食堂へ運んでゆく。

「コナキタバルまで何回も国境超えて、朝出て夕方前に到着だから人によってはキツいかも」
CA出身の志木佑香次期社長に言われて頷くしかないのだが、酒池肉林の野望を逸して、意気消沈していた。

気が付き屋さんの玲子が「私達が交代で面倒見ます」と言いながら股間を触って行ったので、気分が良くなった。それを見た元CAの4人もニヤニヤしている。
玲子の「面倒を見る」というのは、日本の法に触れる作戦だった。高校1年生の2人、トモちん こと池内知代と、姉妹の妹の方の安東紗希に酒を飲ませて、寝させてしまうという作戦を大学生の先輩で元生徒会長が主犯という、元教師からみたら由々しき事態だった。

「まぁ、ちょっとぐらいなら」と元CAのお姉様がたが仰っしゃり、薄めのグレープフルーツサワーやレモンサワーを手際よく作り、2人に与えていた。数杯で二人は軽く酔ったようなので、後は炭酸飲料に切り替えた。これでも、半年前は教師だったのだ。

2人は昨日見学にいったテレビ組み立て工場に刺激を受けたようで、家電品の歴史を知りたいと要求して来たので、紙とペンを用意して授業を始めると、8人のお姉さま方も真剣な表情で聞いているので、ヤヤ引いてしまう。

「何故日本初のテレビを製造し、世界初のVHSビデオとムービーカメラを世に出したビク〇ーが、傘下に入る前は映像から撤退したのか、その背景にあった垂直統合型から水平分業型への移行から説明しようかね。2人はソ〇ーのウォークマンって聞いたことある?」

「名前だけは・・」トモちんが言い

「カセットテープの小型再生機ですね」紗希が正解を述べる。

「そう小型カセットプレイヤーで世界を席巻した。僕は小学生だったから、とてもじゃないけど買えない値段だった。確か3万円くらいだったと思う。80年代は主流だったカセットプレイヤーやビデオデッキは、カセットテープやビデオテープを巻き取ったり、早送りしたりするから、どうしてもメカニカルな設計と機器仕様が必要になる。正確に動作して、何千回何万回使っても壊れない仕様が求められた。微細なまでの部品加工技術と、組立て技術を駆使して、複数の部品メーカーの技術者と何度も打ち合わせをして最終的な仕様に纏めていったんだ。

その後90年代に、デジタル製品が登場して主流となる。君たちも知ってるCDの登場だ。テープのように巻き戻す必要はない。ディスク上に刻まれた小さなデコボコをレーザーで読み取るデジタル技術になった。アナログ技術から脱してデジタルに移行した最初の商品だった。
設計環境はガラっと様変わりした。テープを使わないDVDレコーダーやCDプレイヤーは部品を組み立てるだけで完成するので、高品質の映像と音楽を簡単に再生できるようになった。今までのアナログの世界、メカニカルな仕様が全く要らなくなった。下請け会社や部品メーカーと打ち合わせを何度もする必要が無くなったんだ。

「この部品が欲しい」
「はい、どうぞ使って下さいな」
「プラモデルみたいに組み立てて、ほい完成」というプロセスだけになった」

そこで紙に三角形を書く。

「家電メーカーが1次・2次・3次など系列の下請け部品メーカーを束ねて、家電メーカーが三角形の頂点となる形態を組んで製造していた垂直統合型から、世界中の部品メーカーから最適な部品を調達して、製品を組み立てる水平分業型へと変わった。それで、この三角形の下に位置する1次・2次・3次など系列の下請け部品メーカーの大多数の人たちは行き場を失ってしまった。実は初期のビ〇ターはパナソ〇ックの資本が入っていた会社で、パ〇ソニックの1次下請け会社でもあったんだ」

「へ〜」
「知らなかったなぁ」お姉さま方が感心している。
「行き場を失なうって、クビになっちゃったんですか?」トモちんが言う。
「配置転換といって、別の部署に移動したり、子会社に転属したりした。まぁ大半の人が給料が下がってしまったんだ。当時は転職って概念が薄かったから、同じ系列会社で勤め上げる人が殆どだった」

「デジタル化が席巻する前に電機メーカーからIT企業に転職しちゃった人が目の前に要るよ・・」杏に指差される。

「94年だったね・・どうして辞めるの?って皆に言われたよ・・で、家電製品の中でも映像関連と音楽関係のテレビやオーディオ関連の製品が一番打撃を受けた。洗濯機や冷蔵庫、エアコンは今でも辛うじて三角形の垂直統合型が残っている」

「洗濯機、冷蔵庫、エアコンにもAIを搭載して、水平分業型にしちゃう会社を作った張本人」今度はサチに指さされる。

「やはり悪い人なんですね・・」阿東紗希が睨むので、動揺する。何故、君に睨まれなきゃならないのか?

「お求めやすい値段の優れた製品を世に出す、家電のデジタル化とはそういうモノだと思ってるよ」精一杯、背伸びした発言となる。

「昨日見たんだよね?生産ラインには誰も人が居なかったでしょ?そう、工業用ロボットが全部組み立てる。つまり、先生は労働者の敵とも言える。人をあまり必要としない工場を次々と増やしているから」
樹里が絡むように言うので、そういう場じゃないだろう?と思っていたら安東紗希が立ち上がる。

「次々と増やしているのは工場だけじゃないです。先生の元には大勢の女性が集まります。叔母もその一人で、宮城で、4人纏めて朝まで可愛がって頂いたそうです。
その話を根掘り葉掘り聞いた母と姉、トモちんと結菜ちゃんの母も、その気になっています!
それに、先輩方から攻略方法を聞いたお姉チャンも、高校生なのに抱かれてます。今朝、その姉は部屋に居ませんでした!」

玲子が「マズい、バレた」という表情をしている。

「ちょっと待って、話が随分違う方向になってる・・」

「いいえ。私も乱パに参加したいから、戻って来ました!トモちんの介護なんて口実に過ぎません!」

「ちょっと・・乱パって、何なのさ・・」

「紗希ちゃん、私は口実なの?・・ま、いっか。Ok,私も乱パに参加しまーす!」トモちんが手を上げて立ち上がった

「私も参加しまーす」樹里が手を上げて立ち上がって、女性陣が大笑いしているのだが、モリは全く笑えなかった。女性陣の目が狩猟者のソレで、全身で悪寒を感じ震えた。
  
(つづく)



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