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美しい瞬間たち

美しい瞬間たち

西加奈子さん著の『くもをさがす』の中で一番心に残ったのは、美しい瞬間は書けなかった、書きたくなかった、というところだった。同感だけど、でもちょっと違う意味で、私も書きたくない美しい瞬間たちがある。私の場合、自分だけのものにしたいわけではなく、書いてしまうと壊れてしまう気がするから。壊れてしまわないように、大事に大事に心の中にしまっておきたいから。

遠い昔のことなら書ける。それは、後になって美しい

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さよならワイン、こんにちは日本酒

さよならワイン、こんにちは日本酒

ワインが好きだった。さらっとした赤と、きりっとした白、という自分の好みを見つけてから、ワイナリー巡りをするのも楽しみだった。でも、ワインを飲むと、ぐったりしてしまうことにも気づいていた。ひどく悪酔いすることも。ワインが合わない体質だったのかもしれない。

しばらくの断酒を経て、最初に飲んだのは日本酒だった。小さなグラスで冷酒をちびちびと。うん、これなら行ける。これからは、たまに日本酒をちょびっと飲

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手作り桃シロップ

手作り桃シロップ

近所の友人から、小桃をたくさんもらった。今年は小桃が豊作らしい。一昨年にも小桃をもらって、その時は桃酒を作った。去年は実がならなかったそうで、二年ぶりの今年は、桃ジュース用の桃シロップを作った。

桃シロップは、砂糖を少なめ、レモンを多めにしたので、かなりさっぱりした味になった。炭酸水に混ぜて飲むと、ほのかな桃とレモンの風味がして、爽やかで夏にぴったり。

桃酒は皮ごと漬けていたけど、桃シロップは

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オリンピック競技、ブレイキンについて

オリンピック競技、ブレイキンについて

ブレイクダンスに若い頃からなぜか惹かれていて、密かに思い入れがある。そのブレイクダンスがオリンピックの競技種目になるなんて。ヒップホップ文化の一つが、世界的にスポーツとして正式に認められたってことにびっくり。しかも、DJがいて、バトルのスタイルもそのままに、ヒップホップ文化をきちんと保った競技スタイルになっていた。ただただ感動。

ブレイキンと呼ばれることも、ダンサーをBボーイ、Bガールということ

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最後のテニストーナメント

最後のテニストーナメント

娘と二人で見に行くのが毎年恒例となっていた地元のプロのテニストーナメントが、今年で終わってしまう。小さなトーナメントだから、あまり強い選手は来ないけれど、貴重な娘との時間だったので悲しい。

最後のトーナメントは、パリのオリンピックと時期がかぶってしまったので、余計に来る選手が限られていた。それでも私の推しの選手が二人出ていて、二人とも試合を目の前で見れた。一人の選手はたまたま練習しているところを

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異なる文化の中で育った二人

異なる文化の中で育った二人

アメリカ人の夫と結婚して二十年以上経って、価値観の違い、ライフスタイルの違い、そして文化の違いが、とてつもなく根深いものだと、今さらながら実感している。別々の国で、全く異なる文化の中で育った二人に、若さや好奇心や情熱が消えたら何が残るのだろう。子どもが生まれた場合は、子どもを育てるという共同作業が発生し、忙しい日々に追われるけれど、それが終わったら、共通するものとして何が残るのだろう。もちろん人そ

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小説よりエッセイ

小説よりエッセイ

いつからか小説よりエッセイが好きになって、今はほとんどエッセイしか読まない。小説は、結局作り話で本当の話ではないんでしょ、という擦れた見方をしてしまう。

吉本ばななさんの小説は若い頃大好きで、たくさん救われたり、癒されたりしていたけど、やっぱり今はエッセイの方が好き。『人生の旅をゆく』とか、noteの『どくだみちゃんとふしばな』とか。久しぶりに小説集の『ミトンとふびん』を読んだけど、主人公が若い

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なんとなく断酒中

なんとなく断酒中

気がつけば、4週間間以上もお酒を呑んでいない。呑み過ぎて記憶をなくし、具合の悪い日が数日続いて自己嫌悪、お酒を見たくもない日々は過ぎ去ったけど、まだなんとなく断酒中。

娘の心臓に問題があると分かって、万が一の時のために、いつでも運転できる状態でいたい、と思うようになったことも後押ししている。

お酒を呑まないと、体調はいいし、痩せるし、夕方からダラダラすることなく活動的でいられる。最近暑くなって

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国立墓地にて感じた小さな幸せ

国立墓地にて感じた小さな幸せ

メモリアルデーの祝日には、毎年セレモニーが国立墓地で行われている。国のために働き、戦争などで命を落とした軍人に感謝して、思い出す日。夫がずっとセレモニーに行ってみたい、と言っていたけれど、実際に動こうとしないので、私が場所や時間を調べて、ようやく今年のメモリアルデーに行ってきた。

国立墓地は、思ったより広くて、緑の芝生に白い小さな墓標がどこまでも整列している風景は圧巻だった。木々も多くて、上空に

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ポットパイの日

ポットパイの日

近所にポットパイのお店がある。チキンポットパイが有名だけど、それだけじゃなくて色々な種類のポットパイを冷凍で売っている。一人用サイズがあるので、うちは家族一人一人が好みの種類を選ぶ。

たくさんの種類を試したけれど、娘はチキンカレー、夫はマッシュポテトのシェパーズパイが定番になった。息子は何でも食べるけど、王道のチキンかポットロースト。私はその日の気分で選ぶ。

昨日は久しぶりにポットパイの日にし

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海洋哺乳類を飼い慣らすことについて

海洋哺乳類を飼い慣らすことについて

今、訳あって飼育下の海洋哺乳類に関する報告書を読んでいる。海洋哺乳類を飼い慣らして、娯楽・営利目的に使うことに反対している団体がまとめた報告書だから、それがどんなに不適切なことかを立証すべく、悲しい事案ばかりが取り上げられているので、とても暗い気分になる。

思い出すのは、日本の水族館で小さなスペースに閉じ込められていた大きな一頭のシロクマ。ひとりぼっちで、狭い水槽をずっと行ったり来たり、ガラス越

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遠回りして、最後に幸せに辿り着く

遠回りして、最後に幸せに辿り着く

「子ども達は、色々な道を遠回りして、最後に幸せに辿り着く」と私の父が生前に言っていた、と夫から聞いた。何を思って父がそう言ったのか、なぜそれを二回しか会ったことのない夫に伝えたのか、まったくもって謎。

私は特に父と仲が良かったわけでも、でも特に父を嫌っていたわけでもないので、希薄な関係だったと思う。それは父だけでなく、家族全員に対してそうだったので、きっと私の問題なのだろう。

父は、亡くなる前

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ほろ苦く、もの悲しい春

ほろ苦く、もの悲しい春

ふきを近所の友人からもらった。毎年、この季節には裏庭にたくさん生えるそうで、去年ももらって、初めてふきを料理してみた。皮をむくのが面倒だったけど、出来上がったふきを食べたら、その手間も吹き飛ぶおいしさだった。なので、今年ももらって来て料理した。

やっぱり皮むきが一苦労で、むいてる最中は、なんでまたもらって来ちゃったんだろう、と思ったりした。でも、その後で煮たふきを食べたら、やっぱり皮むきの手間が

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隣の芝生とうちの雑草

隣の芝生とうちの雑草

アメリカの家の庭は、たいてい芝生が敷きつめられている。と言うと青々とした芝生のイメージがあると思うけど、冬の間、芝生は枯れていて茶色っぽく、芝刈りも必要ない。暖かくなると、芝が緑色になって元気に伸び始め、毎週のように芝刈りが必要になるわけだけど、今の季節、隣の芝生はまだ茶色っぽい。それなのに、うちの庭だけがすでに青々としている。それは、うちの庭が雑草だらけだから。

たんぽぽ、クローバー、そして名

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