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エッセイ

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記事一覧

神様は嘘をつかなかった

神様は嘘をつかなかった

ああ、小吉か。……また、「先祖を敬い精進しなさい」か。

ある時期、神社や寺院に参る度におみくじを引いては一喜一憂していた。
見るのはいつも「願い事」の欄。引くのも、恋愛みくじではなく通常のもの。

その頃の私は、長く続く公募生活になかなか結果が伴わず、鬱屈していた。
仕事では度々心を折られ、少しずつ病みが深まっていて、そんな自分を救う手段が小説を書くことだった。帰宅し、寝るまでの間に物語を綴るこ

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映画の思い出

映画の思い出

園から帰宅するなり「びでお!」と叫ぶ。それが園児であった私の日課でした。
妹の言葉が流暢になるとそのうちに「びでお!」「びでお!」の合唱になりました。
お気に入りは「ととろ」「らぴゅた」「なうしか」で、たまに「えんだああ」。
そう、「ボディ・ガード」です。

話の内容など一切わかっていないのに、主題歌の印象だけで「えんだーいあー」をテレビに流せとせがむ姉妹でした。もちろん「ととろ」「らぴゅた」「な

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サボテンの教え

サボテンを枯らしたとき、これまで抱いていた疑いに答えが出た、と思った。

私は圧倒的に育成する能力に欠けている。

疑いの源は遥か小学生時代に遡る。
新一年生が大抵課せられた朝顔の飼育と観察では、当然水やり当番が決められた。
そして私は「決まったことを決められた時刻に決められた通りにやる」ということが心底面倒で大嫌いだった。なおこの悪い性質は習い事等でも発揮され、さんざんサボっては母や先生方を困ら

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「メールの文面が冷たい」と言われた私のいま

「メールの文面が冷たい」と言われた私のいま

電子端末を手に生きるこの社会で、メールの文面について悩んだ方は限りなく多いと思います。

即レスだとか既読スルーだとかどこから生まれたのかわからない制約に雁字搦めにされて息ができないとか、反射的にレスしたけれど言い方がまずかったと後から気付いたりとか。

私はメールの文面が冷たいと言われる人種の人間でした。
いくつか心当たりはあるのですがだいたい「方言を使わない」「あまり絵文字・顔文字は使わない」

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インターネットがなければ小説なんて書かなかった

インターネットがなければ小説なんて書かなかった

得意科目は国語だった。小学校三年生のとき、詩を書いて、なんだかふわっとした高揚感を味わったもののそれを吟味することはなく、ただひたすら家と学校と図書館と本の世界を行き来する日々だった。

ある日我が家にパソコンがやってきた。
中古のMacintosh。父の知人のお下がりだ。
「情報」という科目がようやく授業に組み込まれるようになった世代の私は、その画期的な道具であり玩具に夢中になった。
しかし我が

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勇気のボールペン

勇気のボールペン

勤め始めた仕事がなかなか上手くいかなかったとき、「ボールペンを買おう」と思いました。
それまで特に文房具にこだわりはなかったのだけれど、使い勝手がよくて書き味がいいペンがあれば、この辛い仕事は少しでも軽くなるんじゃないかな、などと思ったのです。

選んだのは、uniの多機能ペン。ジェットストリーム。
それにした理由は、本当に、なんとなく。油性ボールペンとシャープペンが一緒になっていればいいなと思っ

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「幸福のチケット」の考え方

「幸福のチケット」の考え方

当たるかもしれない宝くじを持っている。
厳密には人生における宝くじで、私はこれを「幸福のチケット」と呼んでいる。

私たちは日々、大なり小なり願うことがあって、素晴らしい幸運や成功が訪れることを期待している。そしてある日、宝くじの当選番号が告げられるように「あなたに当たりました」と指名され、望むものを手に入れる……そんな想像をしている。

そしてその宝くじ——幸福のチケットは、当たりやすい人とそう

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noteのおすすめ記事に選ばれたことを母に報告してみた。

noteのおすすめ記事に選ばれたことを母に報告してみた。

先日投稿しました「私の料理が美味しくなるまで」について、当事者である母に、たくさんの方に読んでいただいたようだ、と報告しました。

「えっ!? 何書いたん!!」

と、話し始めた最初はよくある「あんたまたいらんことして!」的なニュアンスで責められかけましたが(これでも私はもうそこそこええ歳なんですが……)、私が昔は自分の料理が美味しくなかったことを知っている母でしたので、美味しくなったきっかけにつ

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他人から聞いた自分の幼少期のエピソードを書き連ねていく

タイトルそのままです。
恐らく大方の人が「あなたが子どもの頃はこんなことを言って/やって〜」と言われた経験があるかと思います。
そんな自分のエピソードを聞かされた記憶の限りまとめてみました。

■2〜3歳頃:「お手紙」を何度言わせても「おてみあじ」と言う。父「おてがみ」
私「おてみあじ」
父「お」
私「お」
父「て」
私「て」
父「が」
私「が」
父「み」
私「み」
父「おてがみ」
私「おてみあじ

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私の料理が美味しくなるまで

私の料理が美味しくなるまで

パックから取り出した鶏もも肉を一度流水で洗い流し、水気を切る。
肉を適当な大きさにぶつ切りし、二重にしたビニール袋の中に放り込むと、塩、胡椒、中華スープのもと、醤油、酒を入れる。時々これにガーリックパウダーや生姜を入れるけれど、匂いがきつくなるので今回は省略。明日も仕事だから。

袋の口を縛って、もみもみする。袋越しに冷たくて柔い肉の感触がある。冷蔵庫から出したてのお肉は冷たいけれど、きちんと外に

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少女の頃に夢見たものは

少女の頃に夢見たものは

お姫様になりたいと思ったことは一度もない。

大好きな「美少女戦士セーラームーン」の誰かになりたいかというとまったくそんなことはなかったし、白雪姫のようにいつか王子様がとも考えたことはなく、シンデレラのように成り上がりたいというよりかは悪いことをした継母を懲らしめること(※ディズニーアニメ映画)をやりたかった。

「だって別の人間に生まれ変わらないと無理。この顔では」
などと思っている不器量な少女

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自由を求めて

自由を求めて

「舞台」を最も身近で言えば、学校の行事。
後ろの席のいわゆる不良の同級生に椅子を蹴られるのを耐えながら見るもの。

あるいは大人の趣味。都会に住んでいてばりばり働いている大人が仕事終わりや休日に楽しむもの。

そんな私は地方住み。公演が行われる会場にたどり着くのに一時間以上かかる。ただでさえ交通費で圧迫されるのに舞台のチケットなんてとてもとても。
けれどそれはつまり「見たい」という願望にほかならな

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髪を染める日

髪を染める日

私の黒髪は硬い癖毛で。
どんなにドライヤーやヘアアイロンや整髪剤を使ってもまっすぐにもさらさらにもならなかった。美容院で縮毛矯正をしてまでまっすぐにしても、前髪だけがおかしな方向に跳ねた。

可愛い子たちはみんな、さらさらの髪をして、流行りの髪飾りをつけていた。ヘアピンを巧みに操り、毎日がパーティのような、いや、パーティにしてしまうような、学校生活を楽しく過ごすための魔法めいたもので自分たちを飾っ

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読書つれづれ

読書つれづれ

集中して読書がしたい。でもそんな暇があるなら一文字でも書かなきゃなーという思考を何度辿ったことだろうか。
自分以外の人の本が読みたい。上手い文章が読みたい。

最近読書するといえば、パソコンの前に座って書き物をしたり動画を見ている合間に読む、という状況になっています。
つまりひとつのことに集中することが難しい。やりたいことがいっぱいあるから。
しかし浴びるように本を読みたいという思いは日に日に高ま

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