見出し画像

自由を求めて

「舞台」を最も身近で言えば、学校の行事。
後ろの席のいわゆる不良の同級生に椅子を蹴られるのを耐えながら見るもの。

あるいは大人の趣味。都会に住んでいてばりばり働いている大人が仕事終わりや休日に楽しむもの。

そんな私は地方住み。公演が行われる会場にたどり着くのに一時間以上かかる。ただでさえ交通費で圧迫されるのに舞台のチケットなんてとてもとても。
けれどそれはつまり「見たい」という願望にほかならなくて。

そんな学生だったある日たまたま目についたのが、学生に舞台を鑑賞させようという助成で指定された公演の安い席のチケット代が半額になるというチラシでした。

演目は、劇団四季「ウィキッド」。

劇団四季は見たことがなかった(学校で鑑賞しなかった学年だった)ので、B席でも後々いい経験になるだろう、と思って、自分と妹の二枚分を申し込みました。本当に何気なく。当たればいいや、くらいの気持ちで。


「ウィキッド」は『オズの魔法使い』の裏話というストーリー。
ブロードウェイミュージカル作品として人気を博し、西の悪い魔女・エルファバと南の良い魔女・グリンダを主軸に、二人の友情と葛藤を描く。

大きな会場の二階席後方、周囲は保護者に連れられた小学校低学年の少年少女という場所で、私は妹と一緒に、初めてのような気持ちで「舞台」の世界に足を踏み入れました。


すごかった。

歌が上手いという力を初めて感じました。心をがつんと殴られた。
物語と歌に引きずり込まれて前のめりになっていく私に訪れた第一幕の最後。


友情を築いたエルファバとグリンダは偉大な魔法使いオズの秘密を知ったことで追われることになってしまった。
逃げ出す二人だったが、ここで道が分かたれる。
エルファバはオズ派の魔法使いたちが言う「悪い魔女」に、グリンダは人々に支持される「善き魔女」として歩むことを決めた。

●誰にも止められない
羽ばたこう 大空へと
恐れはしないわ
邪魔などさせない
誰もが怖がる この力を


◯あなたなら
●やれるわ

「自由を求めて」(原題:Defying Gravity)より一部抜粋

緑色の肌を持って迫害されてきたエルファバはこのとき高らかに自由を歌い、世界と敵対する。
別の道を歩むグリンダは、それでも彼女なら望むことをやり遂げるだろうと確信していた。


「自由を求めて」を歌うシーンはCMでも切り取られていたので、もしかしたら聞き覚えがある方もいるかもしれない。
ただ流れてくるものを漠然と聞いていただけの曲に、物語と感情が乗ったとき、私はいつの間にか号泣しながら飛び上がるエルファバを見つめていました。

第一幕が終わり、隣席を見ると、妹が泣いていて。
私たちは互いに震える手を握り合い「すごかった!」「すごかった……!」と涙を拭いながら言い合いました。

「ウィキッド」は最後までエルファバとグリンダの友情と覚悟を描き切った最高の作品で、第二幕最後も「わあああああ!!」という体験をしたのですがネタバレになるので飲み込んでおきます。
これが私の初めての演劇体験、だと思っています。

この強烈な体験を経て、身近に定期的に舞台鑑賞をする友人がいたこともあってしばらく舞台漬けになり、いまではご褒美的に好きな公演のチケットを取る社会人になりました。

そう、あの頃憧れた大人に少し近付いたのだと思います。


しかしそんな演劇界もこの世情では存続が危ぶまれています。
幕が上がること自体が難しく、配信等で工夫もされていますが、やはり生で見るのは違う。活字だけでは得られない、絵だけではない、呼吸、気配、空気といったものが奥行きを作り、それに浸ることで感じられる物語世界、それが演劇だと思います。

未熟な私の心を震わせてくれたあの世界が、どうかこれからも続いていきますように。私たちの近くにある別の世界への扉として存在してくれますように。

泣きながら妹と握り合った手の震えを思い出す度に、そう思わずにはいられないのです。


今日の進捗。
・書き物作業(4.5h)
・note更新。
・インスタ更新。
・手帳書き。

今日嬉しかったこと。
・朝早く起きたのでヨガもやったし書き物作業もできた。
・唐揚げが美味しく揚がった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?