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パラパラめくる〈第7話〉(最終話)
翌日図書館へ行くと、まだ職員たちが昨日のことで盛り上がっていた。事情を聞いたのだろう。木村さんは、そっと私に近づき、「大丈夫?」と声をかけてくれた。友人代表のスピーチができないのは悲しいが、友達がいるというのは有り難いことである。だが、落ち込んでいる暇などない。私にはやるべきことがある。
職員たちの盛り上がりが一通り終わった頃合いをみて、その集団に言葉を投げかけた。
「昨日見つかったパラパラ漫
パラパラめくる〈第6話〉
いよいよ当日を迎えたわけだが、何を着ていこうと悩むほど服を持っていない。いつも職場に来ていくものと同じ、無地の襟付きシャツにズボンという出で立ちで出かけた。
見慣れない沿線の見慣れない駅で待ち合わせをしていたため、早めに家を出ることにした。とくに乗り換えを間違えることなく、少し早めに駅に着いたのだが、すでに彼女は改札の外で待っていた。彼女はいつもとは違う華やかな花柄のワンピースで、青と白のコン
パラパラめくる〈第5話〉
パラパラ漫画の作者が誰なのか分かり、作者の先生の行動もだんだんと分かってきた。先生は、週に3日から4日やってきて、昼過ぎから夕方頃まで作業をして帰る。パラパラ漫画を描いていた本は、元々あった本棚の裏側に隠していた。そうして、途中のものがバレないようにしていたのだろう。
今日はどれだけ進んだのだろう、一体どんな作品が出来上がるのだろうと私は見たい気持ちをグッと堪えて、陰ながら見守っている。近づけ
パラパラめくる〈第4話〉
私は改めて、このパラパラ漫画の作者は誰なのかを考え始めた。作者はやっぱり私が思い描いた理想で、実際にパラパラ漫画を描いたのは学生がただ暇つぶしで根気よく描いたものかもしれない。また「ジ-14」がクレームをつけたいがためにやった自作自演なのかもしれない。それは結局分からない。
過去ニ作の本はどうやら、私だけではなく他の職員もあまり知られていないようなあまり人気のない本であるようだ。そしてどちらも
パラパラめくる〈第3話〉
翌日になると噂は広がり、職員たちはパラパラ漫画という壮大な落書きの話で持ちきりだった。昨日休んでいた職員が、普段まるで話さない私に対しても興奮して話しかけてくる人もいたほどだ。
そのあとは、実際にパラパラ漫画の落書きを見て、それぞれがそれぞれの反応をしていたのだが、だいたいがニ通りに分かれた。
それは、落書きを心から怒っている人と、この落書きを楽しんでいる人である。
怒っている人は、公共の
パラパラめくる〈第2話〉
今ではコミュニケーション能力の低い私ではあるが、昔はそうではなかった。小さい頃は、ひょうきんで陽気な性格だったと母が言っていた。
ところが、小学校に入学してから、徐々に私の性格は変わってしまったのだ。なにがいけないのか分からないが、いじめにあい、人とどんどん距離をとるのが当たり前になってしまったのだ。いじめと言っても、鼻の下にあるほくろで鼻くそというあだ名で呼ばれたり、福島で田舎だったため、虫
パラパラめくる〈第1話〉
図書館という場所は私語厳禁である。だから、コミュニケーション能力の極めて低い私が働く場所として適した職業である。だって私語厳禁なんだから、コミュニケーションだって他の仕事に比べたら少ないはずである。そう思って働きはじめたのだが、イメージと違うことの方が多かった。
まず驚いたのが、図書館は思った以上にうるさい。
もちろん、働く図書館にもよるのだろうが、私が働いている図書館は、区が運営している5
花笠音頭をサックスで(サックス初心者体験記その2)
芸協らくごまつりが終わりました。
(芸協らくごまつりとは、落語芸術協会に所属する芸人が参加するファン感謝イベントです。)
その中の企画の一つに「サマコム」という企画があり、僕も参加させていただいた。出演者は、桂夏丸師匠、三遊亭遊七姉さん、神田桜子姉さんに桂小すみ姉さんである。
この企画は、芸人とお客様参加型の企画で、楽器を持っている人は一緒に演奏し盛り上がりましょう!というもので、サックスをやっ
サックス初心者体験記その1
サックスを初めて1年が過ぎた。
だが、サックスを触った時間はぎゅぎゅっとしたら3日くらい。
(サックスを初めた理由はこちら↓)
と言うのも、音楽教室に通い始めたわけだが、週に一度30分のレッスンで、しかも曜日と時間は固定で、落語の仕事が入ればもちろん休まなければならない。それにサックスも教室から借りているため、普段は触れることもない。
そのため、成長している!と実感する瞬間はほぼないのだ。
人生の三分の一は睡眠です
人生の三分の一は睡眠だよであるとか、大谷がすげえ寝具にこだわってるらしいよとか、やたらと最近睡眠の情報が入ってきます。
僕は若い頃から、けっこうどこでも眠れるタイプで、寝つきが悪いとかすぐ目覚めるだとか、そんな悩みとは無縁でした。ところが、30を過ぎて様々なストレスが溜まっているのか、それとも使っている布団がびっくりするぐらいせんべい布団のせいなのか分かりませんが、眠りが浅くなってきました。
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ルート9フェス2024
ルート9フェス2024が無事に終わりました。たくさんのご来場感謝しかありません。行けなかったけど、「いつも応援してるよ」という方もありがとうございます。
ルート9知らない方は詳しくはこちら。
ざっくり言えば落語・講談の9人組のユニットです。(今から何人か芸人の名前を当たり前のように出しますが、一応読めると思います。)
毎年この時期にルート9フェスと題して、大きな会場でやるのですが、今回はレベ
噺家が聞いたハナシ-さくらんぼの実染めの着物-
山形での仕事の合間に、着物の展示会へ寄った。たまたま入ったのだが、ふとした出会いがあった。
それは、さくらんぼの実染めの着物である。
着物において草木染めというものは、草木であればなんでも染めることができるらしい。だが、色落ちが激しいものが多く、なかなか商品になりづらいのだ。紅花や藍染は有名だが、さくらんぼの実染めは聞いたことがない。その珍しさもさることながら、反物自体も魅力的で、すぐに購入し
ルート9フェス2024in花座
1月6日,7日に仙台の花座さんで行われた落語会『ルート9 フェス2024in花座』が無事に終わりました。
ルート9 とは、落語家・講談師の9人組のユニットですが、詳しくはサイトをご覧ください。
見ていただいた方が早いと思うので。
ルート9は普段、都内で活動をしていますが、花座さんにもお世話になっており、月一で『ルート9shuffle』という落語会をひらいていただいておりました。メンバー入れ替わ