春風亭昇りん

落語家。春風亭昇太一門。山形県出身。実家はりんご農家。美術、本、体験したこと書いてます。

春風亭昇りん

落語家。春風亭昇太一門。山形県出身。実家はりんご農家。美術、本、体験したこと書いてます。

マガジン

  • 落語家としての日常

    落語家として起きた身の回りのおはなし。

  • みたものきいたもの

    プライベートで行った美術館やらなんやら。 その体験を書いてます。

記事一覧

パラパラめくる〈第7話〉(最終話)

 翌日図書館へ行くと、まだ職員たちが昨日のことで盛り上がっていた。事情を聞いたのだろう。木村さんは、そっと私に近づき、「大丈夫?」と声をかけてくれた。友人代表の…

3

パラパラめくる〈第6話〉

 いよいよ当日を迎えたわけだが、何を着ていこうと悩むほど服を持っていない。いつも職場に来ていくものと同じ、無地の襟付きシャツにズボンという出で立ちで出かけた。 …

3

パラパラめくる〈第5話〉

 パラパラ漫画の作者が誰なのか分かり、作者の先生の行動もだんだんと分かってきた。先生は、週に3日から4日やってきて、昼過ぎから夕方頃まで作業をして帰る。パラパラ…

3

パラパラめくる〈第4話〉

 私は改めて、このパラパラ漫画の作者は誰なのかを考え始めた。作者はやっぱり私が思い描いた理想で、実際にパラパラ漫画を描いたのは学生がただ暇つぶしで根気よく描いた…

2

パラパラめくる〈第3話〉

 翌日になると噂は広がり、職員たちはパラパラ漫画という壮大な落書きの話で持ちきりだった。昨日休んでいた職員が、普段まるで話さない私に対しても興奮して話しかけてく…

2

パラパラめくる〈第2話〉

 今ではコミュニケーション能力の低い私ではあるが、昔はそうではなかった。小さい頃は、ひょうきんで陽気な性格だったと母が言っていた。  ところが、小学校に入学して…

3

パラパラめくる〈第1話〉

 図書館という場所は私語厳禁である。だから、コミュニケーション能力の極めて低い私が働く場所として適した職業である。だって私語厳禁なんだから、コミュニケーションだ…

3

花笠音頭をサックスで(サックス初心者体験記その2)

芸協らくごまつりが終わりました。 (芸協らくごまつりとは、落語芸術協会に所属する芸人が参加するファン感謝イベントです。) その中の企画の一つに「サマコム」という…

春風亭昇りん
1か月前
28

サックス初心者体験記その1

サックスを初めて1年が過ぎた。 だが、サックスを触った時間はぎゅぎゅっとしたら3日くらい。 (サックスを初めた理由はこちら↓) と言うのも、音楽教室に通い始めたわ…

春風亭昇りん
1か月前
9

人生の三分の一は睡眠です

人生の三分の一は睡眠だよであるとか、大谷がすげえ寝具にこだわってるらしいよとか、やたらと最近睡眠の情報が入ってきます。 僕は若い頃から、けっこうどこでも眠れるタ…

春風亭昇りん
3か月前
12

立川晴の輔師匠

僕は、笑点にチラッと出演している。 もう一度言うが、チラッとである。 というのも落語家として、笑点のアシスタントをやっているからである。 アシスタントとは、収録の…

春風亭昇りん
3か月前
49

レインボー

いい仕事というものがある。 お金であったり、その会に出ることがその人の評価をあげるものであったり、その「いい仕事」の意味合いはさまざまではあるが、今回ご紹介する…

春風亭昇りん
3か月前
7

ルート9フェス2024

ルート9フェス2024が無事に終わりました。たくさんのご来場感謝しかありません。行けなかったけど、「いつも応援してるよ」という方もありがとうございます。 ルート9知ら…

春風亭昇りん
4か月前
16

噺家が聞いたハナシ-さくらんぼの実染めの着物-

山形での仕事の合間に、着物の展示会へ寄った。たまたま入ったのだが、ふとした出会いがあった。 それは、さくらんぼの実染めの着物である。 着物において草木染めという…

春風亭昇りん
4か月前
15

くるま

「君は運転できるの?」 師匠である春風亭昇太が僕に聞いてきた。 「免許はあるんですが、免許を取ったその日からハンドルを握ってません。」 「なんだそりゃ。」 そん…

春風亭昇りん
4か月前
12

ルート9フェス2024in花座

1月6日,7日に仙台の花座さんで行われた落語会『ルート9 フェス2024in花座』が無事に終わりました。 ルート9 とは、落語家・講談師の9人組のユニットですが、詳しくはサイ…

春風亭昇りん
6か月前
13
パラパラめくる〈第7話〉(最終話)

パラパラめくる〈第7話〉(最終話)

 翌日図書館へ行くと、まだ職員たちが昨日のことで盛り上がっていた。事情を聞いたのだろう。木村さんは、そっと私に近づき、「大丈夫?」と声をかけてくれた。友人代表のスピーチができないのは悲しいが、友達がいるというのは有り難いことである。だが、落ち込んでいる暇などない。私にはやるべきことがある。
 職員たちの盛り上がりが一通り終わった頃合いをみて、その集団に言葉を投げかけた。
「昨日見つかったパラパラ漫

もっとみる
パラパラめくる〈第6話〉

パラパラめくる〈第6話〉

 いよいよ当日を迎えたわけだが、何を着ていこうと悩むほど服を持っていない。いつも職場に来ていくものと同じ、無地の襟付きシャツにズボンという出で立ちで出かけた。
 見慣れない沿線の見慣れない駅で待ち合わせをしていたため、早めに家を出ることにした。とくに乗り換えを間違えることなく、少し早めに駅に着いたのだが、すでに彼女は改札の外で待っていた。彼女はいつもとは違う華やかな花柄のワンピースで、青と白のコン

もっとみる
パラパラめくる〈第5話〉

パラパラめくる〈第5話〉

 パラパラ漫画の作者が誰なのか分かり、作者の先生の行動もだんだんと分かってきた。先生は、週に3日から4日やってきて、昼過ぎから夕方頃まで作業をして帰る。パラパラ漫画を描いていた本は、元々あった本棚の裏側に隠していた。そうして、途中のものがバレないようにしていたのだろう。
 今日はどれだけ進んだのだろう、一体どんな作品が出来上がるのだろうと私は見たい気持ちをグッと堪えて、陰ながら見守っている。近づけ

もっとみる
パラパラめくる〈第4話〉

パラパラめくる〈第4話〉

 私は改めて、このパラパラ漫画の作者は誰なのかを考え始めた。作者はやっぱり私が思い描いた理想で、実際にパラパラ漫画を描いたのは学生がただ暇つぶしで根気よく描いたものかもしれない。また「ジ-14」がクレームをつけたいがためにやった自作自演なのかもしれない。それは結局分からない。
 過去ニ作の本はどうやら、私だけではなく他の職員もあまり知られていないようなあまり人気のない本であるようだ。そしてどちらも

もっとみる
パラパラめくる〈第3話〉

パラパラめくる〈第3話〉

 翌日になると噂は広がり、職員たちはパラパラ漫画という壮大な落書きの話で持ちきりだった。昨日休んでいた職員が、普段まるで話さない私に対しても興奮して話しかけてくる人もいたほどだ。
 そのあとは、実際にパラパラ漫画の落書きを見て、それぞれがそれぞれの反応をしていたのだが、だいたいがニ通りに分かれた。
 それは、落書きを心から怒っている人と、この落書きを楽しんでいる人である。
 怒っている人は、公共の

もっとみる
パラパラめくる〈第2話〉

パラパラめくる〈第2話〉

 今ではコミュニケーション能力の低い私ではあるが、昔はそうではなかった。小さい頃は、ひょうきんで陽気な性格だったと母が言っていた。
 ところが、小学校に入学してから、徐々に私の性格は変わってしまったのだ。なにがいけないのか分からないが、いじめにあい、人とどんどん距離をとるのが当たり前になってしまったのだ。いじめと言っても、鼻の下にあるほくろで鼻くそというあだ名で呼ばれたり、福島で田舎だったため、虫

もっとみる
パラパラめくる〈第1話〉

パラパラめくる〈第1話〉

 図書館という場所は私語厳禁である。だから、コミュニケーション能力の極めて低い私が働く場所として適した職業である。だって私語厳禁なんだから、コミュニケーションだって他の仕事に比べたら少ないはずである。そう思って働きはじめたのだが、イメージと違うことの方が多かった。
 まず驚いたのが、図書館は思った以上にうるさい。
 もちろん、働く図書館にもよるのだろうが、私が働いている図書館は、区が運営している5

もっとみる
花笠音頭をサックスで(サックス初心者体験記その2)

花笠音頭をサックスで(サックス初心者体験記その2)

芸協らくごまつりが終わりました。
(芸協らくごまつりとは、落語芸術協会に所属する芸人が参加するファン感謝イベントです。)

その中の企画の一つに「サマコム」という企画があり、僕も参加させていただいた。出演者は、桂夏丸師匠、三遊亭遊七姉さん、神田桜子姉さんに桂小すみ姉さんである。
この企画は、芸人とお客様参加型の企画で、楽器を持っている人は一緒に演奏し盛り上がりましょう!というもので、サックスをやっ

もっとみる
サックス初心者体験記その1

サックス初心者体験記その1

サックスを初めて1年が過ぎた。

だが、サックスを触った時間はぎゅぎゅっとしたら3日くらい。

(サックスを初めた理由はこちら↓)

と言うのも、音楽教室に通い始めたわけだが、週に一度30分のレッスンで、しかも曜日と時間は固定で、落語の仕事が入ればもちろん休まなければならない。それにサックスも教室から借りているため、普段は触れることもない。
そのため、成長している!と実感する瞬間はほぼないのだ。

もっとみる

人生の三分の一は睡眠です

人生の三分の一は睡眠だよであるとか、大谷がすげえ寝具にこだわってるらしいよとか、やたらと最近睡眠の情報が入ってきます。

僕は若い頃から、けっこうどこでも眠れるタイプで、寝つきが悪いとかすぐ目覚めるだとか、そんな悩みとは無縁でした。ところが、30を過ぎて様々なストレスが溜まっているのか、それとも使っている布団がびっくりするぐらいせんべい布団のせいなのか分かりませんが、眠りが浅くなってきました。
7

もっとみる
立川晴の輔師匠

立川晴の輔師匠

僕は、笑点にチラッと出演している。
もう一度言うが、チラッとである。

というのも落語家として、笑点のアシスタントをやっているからである。
アシスタントとは、収録の前説や師匠方の着付けなどの裏方業務、また収録では、

「山田さーん、例のものを持ってきてくださーい」

と言われれば、山田さんと一緒に例のものを運んでいくのだ。青い着物を着ており、その時にチラッとうつりこんでいるというわけだ。

そして

もっとみる
レインボー

レインボー

いい仕事というものがある。

お金であったり、その会に出ることがその人の評価をあげるものであったり、その「いい仕事」の意味合いはさまざまではあるが、今回ご紹介するのは待遇の良いという意味での「いい仕事」である。

先輩である春風亭橋蔵兄さんからいただいたお仕事で、その名は新小岩落語会。名前の通り、新小岩で落語をやるわけなのだが、その場所が特徴的である。サウナ&カプセルホテルのレインボーの一室で落語

もっとみる
ルート9フェス2024

ルート9フェス2024

ルート9フェス2024が無事に終わりました。たくさんのご来場感謝しかありません。行けなかったけど、「いつも応援してるよ」という方もありがとうございます。

ルート9知らない方は詳しくはこちら。

ざっくり言えば落語・講談の9人組のユニットです。(今から何人か芸人の名前を当たり前のように出しますが、一応読めると思います。)

毎年この時期にルート9フェスと題して、大きな会場でやるのですが、今回はレベ

もっとみる
噺家が聞いたハナシ-さくらんぼの実染めの着物-

噺家が聞いたハナシ-さくらんぼの実染めの着物-

山形での仕事の合間に、着物の展示会へ寄った。たまたま入ったのだが、ふとした出会いがあった。

それは、さくらんぼの実染めの着物である。

着物において草木染めというものは、草木であればなんでも染めることができるらしい。だが、色落ちが激しいものが多く、なかなか商品になりづらいのだ。紅花や藍染は有名だが、さくらんぼの実染めは聞いたことがない。その珍しさもさることながら、反物自体も魅力的で、すぐに購入し

もっとみる
くるま

くるま

「君は運転できるの?」

師匠である春風亭昇太が僕に聞いてきた。

「免許はあるんですが、免許を取ったその日からハンドルを握ってません。」

「なんだそりゃ。」

そんな会話をした。

僕の地元である山形は車社会。どこに行くのでも車がなくては不便で仕方がない。親に言われ、高校卒業後すぐに取ったのだが、大学進学で上京し、それ以来運転していない。東京で生活してると、こんなところで運転できるわけないと絶

もっとみる
ルート9フェス2024in花座

ルート9フェス2024in花座

1月6日,7日に仙台の花座さんで行われた落語会『ルート9 フェス2024in花座』が無事に終わりました。

ルート9 とは、落語家・講談師の9人組のユニットですが、詳しくはサイトをご覧ください。
見ていただいた方が早いと思うので。

ルート9は普段、都内で活動をしていますが、花座さんにもお世話になっており、月一で『ルート9shuffle』という落語会をひらいていただいておりました。メンバー入れ替わ

もっとみる