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レインボー

いい仕事というものがある。

お金であったり、その会に出ることがその人の評価をあげるものであったり、その「いい仕事」の意味合いはさまざまではあるが、今回ご紹介するのは待遇の良いという意味での「いい仕事」である。

先輩である春風亭橋蔵兄さんからいただいたお仕事で、その名は新小岩落語会。名前の通り、新小岩で落語をやるわけなのだが、その場所が特徴的である。サウナ&カプセルホテルのレインボーの一室で落語会を行うのだ。

階段を上がればレインボーがある。

こちらの施設は男性専用で、基本的にサウナ目当てのおじさまばかりである。施設はサウナだけではなく、食事やお酒はもちろん、漫画のコーナーがあったりと充実している。そこのイベントとして落語をやらせていただくのだ。男性専用であるのだから、もちろんお客さんは男性ばかり。しかも皆、館内着をきて超リラックス状態で落語を聴くのだ。

落語会は、昼と夜の2部制である。ここまではわりかし普通なのだが、終わったあとの待遇がすごい。

芸人は落語が終われば、

サウナや温泉に自由に入ってよし、

食べてよし、

飲んでよしなのだ。


最高だろ?


僕は普段、サウナはそこまで入らないのだが、テレ東でやっていたドラマ「サ道」は大好き。機会があれば入る。落語が終われば早速脱衣所で服を脱ぎ捨て、体を洗う。お湯に浸かり、そしてサウナへ。すると、先ほどの落語のお客様もいて、声をかけられる。

「昇りんさん!さきほどはどうも!」

「ありがとうございました!」

着物から一気に裸の付き合いである。

サウナに入れば、おじさんで敷き詰め状態。新小岩のおじさんたちはここで製造され出荷されているかと思うほど、三段のひな壇にきれいに並んでいた。
僕も同じようにおじさん製造工場に入っていく。上の段の方が熱いわけだが、ぼぼ初心者の僕は入り口あたりに座る。誰かが扉を開けるタイミング。つまり、入荷もしくは出荷されるたびに涼しい風が入ってくるからだ。

それでもジトジト汗が出てくる。

落語のことを考える。反省もある。

ジトジト汗が出てくる。

このあと何食べようと考える。腹減った。

ジトジト汗が出てくる。

時計の針が一周して12分たった。ラスト3分が長く感じるのだが、それも我慢し、僕もいよいよおじさんとして出荷された。

次は水風呂である。僕は水風呂が苦手ではあるが頑張って入る。


ひゃはあああ。


文字にすると、こうなるが、もう少し違う音を発していたはずだ。やはり慣れない。死にそうになる。全身を一瞬つけてすぐに飛び出た。
他のおじさんたちは気持ち良く浸かっている。水風呂に気持ち良さそうに浸かっている人を見ると、男として負けた気持ちになるのは僕だけだろうか。
風呂場にはたくさんの椅子があり、空いた椅子にぼくも座る。頭がぼーっとしてくる。
僕は1セットで充分である。そのあとは、温泉に入り、風呂場をでた。

僕も茶色の館内着をきて、お食事処へ。
まずはやっぱり生ビール。キンキンに冷えた生ビールを体に流しこむ。食事はなにがいいだろう。カレーやラーメンや生姜焼きと、それ以外にもたくさんあるが、どうやら豚丼が名物らしい。豚丼をいただくことにした。ボリュームのある肉。


豚丼をかっくらい、ビールで流しこむ。

豚肉をかっくらいビールを流しこむ。

豚丼をかっくらい、ビールを‥‥。

もうないのか。

いくら自由に食べて良いとはいえ、限度はある。この会は何度も続いていて、来月はまた別の噺家がくるのだ。あまりにも、飲み過ぎちゃいけない。

もう一杯くらいいいか。

次は生レモンサワー。レモンの酸味は俺の体は求めていたようだ。ビール以上に沁み込む。
あっという間にたいらげた。

スタッフにお礼を伝え、仕事終わりとは到底思えないような足取りで新小岩をあとにする。

帰り際、21時を過ぎていたが、それでも次から次へとレインボーにおじさんたちが吸い込まれていく。そりゃ普通に働いているおじさん達からしたら、土日は貴重な休み。その貴重な休みをレインボーで過ごしたいという人は多いだろう。
レインボーはおじさんたちの夢のワンダーランド。僕の足どりも軽い。

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