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花笠音頭をサックスで(サックス初心者体験記その2)

芸協らくごまつりが終わりました。
(芸協らくごまつりとは、落語芸術協会に所属する芸人が参加するファン感謝イベントです。)

場所は西新宿にある芸能花伝舎で、元は学校だった。

その中の企画の一つに「サマコム」という企画があり、僕も参加させていただいた。出演者は、桂夏丸師匠、三遊亭遊七姉さん、神田桜子姉さんに桂小すみ姉さんである。
この企画は、芸人とお客様参加型の企画で、楽器を持っている人は一緒に演奏し盛り上がりましょう!というもので、サックスをやっている僕を桂小すみ姉さんが誘ってくれたのだ。

その小すみ姉さんを知らない人に姉さんのことを説明すると、音曲というジャンルで三味線を中心にさまざまな歌を唄ったりするのだが、芸も人柄も最高の人である。試しに寄席に行って、高座を観ていただきたいくらいである(僕が言うのもおこがましいが)。

「昇りん兄さん出ませんか?」

という嬉しいお誘いではあったのだが、聞けば、師匠の昇太もトロンボーンとして参加するとのこと。これは、ハードルが高い。僕のサックスのレベルなんて初心者も初心者レベルで、師匠の前で恥はかきたくない。
お断りしようと思ったが、

「曲を簡単にしたものを譜面で送ります」

と言っていただいた。
まあ、こういう機会もなければ合奏なんてないだろうし、甘えていっちょやるか!と参加することになったのだ。

当日、企画の教室に行くと、10人ほどの芸人たちがいた。師匠のトロンボーンの他に、ベースギターや鼻笛やリコーダーなど、さまざまな楽器を持っている。

有り難い。

人は多い方が、音が紛れる。サックスなんて、音もでかい。なんとしても紛れたい。
演奏用にパイプ椅子が並べてあるのだが、自信のない僕は、師匠から離れたところに座るつもりだったのだが、「え、なんで?」と知らぬ間に師匠の隣に座っていた。

企画としては、小すみ姉さんが音楽の先生として、参加している生徒たちに音楽を教えていくというものであった。
「合奏曲はマンボNo.5」

企画がはじまると、小すみ姉さんはすごかった。

「リコーダー持ってて、ほとんど吹いたことない人は手を挙げてー。
じゃあ、人差しと親指を使って『シ』を出してくださーい。次のパートはこの音で!
じゃあ、リコーダー得意な人ー!」

その人の楽器とレベルに合わせて音を決めていくのだ。

「楽器を持っていない人は手拍子をしてください!ただ普通に手拍子をするのではなく、周りの人を幸せにしたいと思いながら叩くと、音が変わります!」

参加者の気持ちが上がり、徐々に会場が一つになっていく。

すると今度は小すみ姉さんが僕に対して、 

「昇りん兄さん!楽曲が2周目に入ったらソロをお願いします!」

もらった譜面ですら危ういのに、、ぼくは戸惑いながら答えた。

「え‥ソロ?どうしたらいいんですか?」

「兄さんにお任せします!」

とっさに椅子から立ち上がり、
「先生、できません!」

これがお客さんにウケた。これに対して隣にいた師匠がくいついてくれた。

「昇りん、サックスいつ買ったんだっけ?」

「先週、お客さんからもらいました」

「ええ!なんだよ、それ!いいな!」


師匠のおかげでさらに盛り上がる。

すると、小すみ姉さんは、

「楽器をご縁なんです。楽器を求めると、その人に寄ってくるんです!」

素敵なことを言ってくれる。

さらに師匠が、
「今練習してる曲吹いて、どれくらいできるのか判断してもらったら?」

「分かりました!」と言って、ついこの間まで練習していた「アメージング・グレース」を吹こうとするが

「バビッ」


師匠「もういい!」

こっちは必死だが、結果的に師匠とのやりとりで盛り上がった。

だが、小すみ姉さんだけは違う反応だった。

「いやいや、音が出るって素晴らしい」

まっすぐな目で褒めてくれる。
どんだけ優しいんだ。
さらに小すみ姉さんは、

「皆さん!過去に音楽の時間やなにかで、下手だとか音痴だとか、そういうものが心に刺さってる人が多いんです。今日はそれを取っ払いましょう!音楽とは本来そういうものではありません!」


まさに、僕がそうであった。音楽の授業で、「全然違う」と言われ、音楽を楽しむのを諦めた少年だった。

そこから演奏が始まる。

全然吹けない。

それでも、あの頃音楽を諦めた昇りん少年のキズが不思議と癒えていく。
参加する芸人もお客さん皆が楽しんでいた。
合奏が終わった頃にその場にいた全員がこう思ったはずだ。

「こんな音楽の先生に早く会いたかった!」


まつりが終わり、打ち上げの時に小すみ姉さんと軽くお話させていただいた。

「小すみ姉さん、教えるの上手いですよね。」 

そう伝えると、好きなんですとおっしゃった。

「それに例えば音楽経験のない昇りん兄さんが、これからどんな音を出すのかは無限に可能性があるわけじゃないですか!どんなふうになっていくのかというのは、とても興味があります!」

キラキラした目で言ってくれる。

僕の薄汚れた心は、小すみ姉さんの光に照らされる。こんなにも光を浴びると、薄汚れた心の僕もテンションが上がり、こう答えた。

「今後は山形出身なんで、花笠音頭をサックスで吹いてみたいです」

「いいですね兄さん!私、譜面書きますよ!
兄さんの出したい音があったら言ってください!」


また小すみ姉さんの光に照らされる。
小すみ姉さんの優しさに溺れそうだ。

というわけで、小すみ先生のおかけで新しい目標ができた。

サックスで「花笠音頭」を吹く。

できるかな?

僕みたいな下手くそだと、、

いや、楽しくやろう。

小すみ先生からそう習った。

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