サックス初心者体験記その1
サックスを初めて1年が過ぎた。
だが、サックスを触った時間はぎゅぎゅっとしたら3日くらい。
(サックスを初めた理由はこちら↓)
と言うのも、音楽教室に通い始めたわけだが、週に一度30分のレッスンで、しかも曜日と時間は固定で、落語の仕事が入ればもちろん休まなければならない。それにサックスも教室から借りているため、普段は触れることもない。
そのため、成長している!と実感する瞬間はほぼないのだ。
だが、最近サックスをお客さんからいただいた。やはり、実際にサックスを手に入れると今までの生活はガラリと変わり、やる気も出てくる。せっかく手に入れたのだから、ガンガン吹いていこう。そうだ、落語会で吹こうではないかと計画したのだ。目標をつくれば、そこにむけて吹くしかない。
そうして僕は河川敷でのサックスの稽古が始まった。少し自転車を走らせたところに川があると言うのはこういう時に便利である。
河川敷に普段行かないから知らなかったが、ここには釣り人が年がら年中いて、一定の間隔を空けて座っているのだ。釣り人を横目で見ながら、どこで吹こうかと考えながら川沿いを歩く。あまり近くで吹くのは恥ずかしい。だが、一定間隔で釣り人はい続ける。しょうがない、釣り人と釣り人の間で吹くことにするか。30メートルくらいは離れているが目視もできるし音も聞こえる距離である。
そこから僕の青空演奏会が始まったのだ。
はじめは「若者がサックスか。青春だね」なんていう目線を感じるのだが、吹き始めれば、「バビッ」という、とんでもねえ音色。
「下手くそなんかい」という目線を勝手に感じる。考え過ぎだろうか。嫌だなと思いながらも下手くそなサックスを吹き続ける日々であった。河川敷は、他にも誰かしら稽古をしているものである。ある日は歌を唄う人、ある日はオカリナを吹く人と、誰かしらがいるのだが、みんながある程度上手いのだ。河原で稽古をするぐらいだから、それなりに日々やっている人たちなのだろう。そんな人たちと混じって「バビッ」と僕だけ音を外して吹くのは、さらに恥ずかしい。
本番の前日になると、用意した譜面はボロボロである。それもそのはずで、河川敷は風が強く、譜面が飛ばないようサックスケースにベタベタに貼って稽古をしていたのだ。いい環境とは言い難い。さらに、この時期にしては太陽の日差しも強く、孤独でサックスを吹き続けるのは、心身ともに疲弊してきた。
そんなある日のこと、いつものように河原で練習をしていると、「バビッ」という音が聞こえてきた。
ん、俺じゃないぞ。
誰だ?
遠くからきこえてくる。
音を聞く限り初心者ではないか?
それとも、たまたま音が外れただけなのか?
小慣れた経験者か?それとも俺と同じ初心者か?
なあ、もう一度聞かせてくれ。
「バビッ」
やっぱり。
俺と同じ下手くそ初心者ではないか。
向こう岸から聞こえてくる。
音を聞く限りこれはトランペットだ。
僕の胸が高鳴る。
仲間がいる。
僕も吹かなければ!
「俺もお前と同じ下手くそだぞ。恥ずかしくなんかないぞ」という気持ちをこめて渾身の
「バビッ」
青空に響いていく。
すると、また向こう岸から「バビッ」
姿もまるで見えない音しか聞こえないその誰かと共鳴した瞬間であった。
俺も頑張るから、お前も頑張れよ。
綺麗ではないその音色で一瞬にして仲間になれたのだ。その日の河川敷の風は気持ちがよく、感じたことのない爽快感を感じながら、河原をあとにした。
音楽はなんて素晴らしいのだ。
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