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書評/ブックレビュー

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記事一覧

「燃えよ剣」(司馬遼太郎著、新潮文庫)

 石田三成と徳川家康の攻防を、三成の側から描いた歴史大作「関ケ原」を中学生の時に読んだ。以来、「司馬遼太郎」の名前は常に脳裏にあったと思うのだが、なぜかその後は司馬作品を全く読まないままに長い年月が過ぎ去ってしまった。

 大御所過ぎて二の足を踏んだのかもしれない。

 2021年になり、書棚の一角に司馬作品が少々並んでいることに今更ながら気づいて、ようやく手に取ってみる気持ちが湧いてきた。新潮文

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「新・平家物語(三)」(講談社、吉川英治文庫)

 頼政は、信頼・義朝側と運命を共にすることは避けたが、清盛側へ積極的に参加することも避け、いわば中立を守った。

 義朝は信頼の醜態に逆上し、このような人間を盟主とした自分自身にも腹が立ち、最後には撲りつける始末。やがて信頼は、六条河原で死刑となった謀反人のうちの一人となる。義朝は尾張の家人を頼って身を寄せるものの、だまし討ちにされ首を取られる。道中、義朝一行からはぐれた頼朝は難を逃れ、やがて平家

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「新・平家物語(二)」(講談社、吉川英治文庫)

 第二巻は、かの有名な保元の乱である。

 保元の乱は、公家の内部抗争に端を発し、朝廷と武家がそれぞれ後白河天皇側と崇徳上皇側に分かれて武力衝突に至った1156年の出来事である。

 後白河天皇側の主な人物は、関白藤原忠通、信西入道、平清盛、源義朝(頼朝の父)などであり、対する崇徳上皇側は、左大臣藤原頼長(忠通の弟。兄弟仲は険悪)、平忠正(清盛の叔父)、源為義(義朝の父)と義朝以外の息子たち、など

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「新・平家物語(一)」(講談社、吉川英治文庫)

 吉川英治晩年の一大叙事詩。7年の歳月をかけて描かれた吉川「平家物語」は、平清盛というあまりにも有名な人物を描くだけにとどまらない。100年間という「時代」を描いているのである。

 この一大叙事詩を題材に、いったいどんな書評が私に書けるというのか。いや、書評と名付けるのはおこがましい。そうだ、感想文と呼ぼう。読書感想文だ。いや、物語のおさらいをするというような意味の文章だ。これなら気負いなくかけ

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「マンション投資で年800万円稼ぐ方法」(岡本公男著、明日香出版社)

 本書は、書名だけ見ると、区分マンション投資で誰でも簡単に稼げますよなどと、どこかの不動産屋の営業マンが不動産投資について何も知らないサラリーマンをカモにするときに使うような安直なタイトルに思えるが、実際に読んでみると決していい加減な気持ちで書かれた本ではないらしいことがわかった。

 冒頭からいきなりこのような書き方をするのはややとがった言い方だが、これまでワンルーム投資をほとんど顧みることが無

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「サラリーマンだからこそ『節税大家さん』で儲けなさい!」(加藤隆著、東洋経済新報社刊)

 本書は、サラリーマンという定収入のある環境を活かして不動産投資を手堅く進めるやり方について説いたものである。ここでは、ワンルームマンション投資の有用性が強調されている。

 私はこれまで、ワンルームマンション投資というのは不動産屋が儲けるために作り出したビジネスプランだと考えてあまり考慮していなかったが、この本を読んで少々違ったアイディアを得た。少額なワンルームで場数を踏む、ということである。以

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「金持ち父さんの投資ガイド 上級編」(ロバート・キヨサキ著、白根美保子訳、筑摩書房刊)

 金持ち父さんで知られるロバート・キヨサキの著書第4弾。あれ、でも帯には第3弾と書いてある。どっちだ?まぁどちらでもいいか。

 さて、本書は入門編に比べてかなり実務的になっていて、実際にビジネスを進めるにあたって必要となる(と思われる)具体的な事柄についてかなり踏み込んだ説明をしている。入門編ではやや冗長になっているような印象を受けたが、本書上級編はやや違った切り口になっているので、新たな刺激を

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「金持ち父さんの投資ガイド 入門編」(ロバート・キヨサキ著、白根美保子訳、筑摩書房刊)

 金持ち父さんのロバート・キヨサキによる金持ち父さんシリーズ(?)第3弾である。

 いきなり元も子もないことを言うようだが、本書を読むと、著者が言いたいことは一作目の「金持ち父さん貧乏父さん」と二作目の「キャッシュフロークワドラント」でほぼ言い尽くされているのではないかという印象を受ける。不動産投資の有名大家さんが本を何冊も書いていたりすることがあるが、たいていは最初に出版した1冊目の本にその大

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「金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント」(ロバート・キヨサキ著、白根美保子訳、筑摩書房刊)

 かの有名な「金持ち父さん、貧乏父さん」に続くロバート・キヨサキの著書第2弾である。本書では、4つのクワドラント、E・S・B・Iの意味や稼ぎ方の違いについて詳細に説明し、どの立ち位置から入るか、どういう方向に向かっていくべきかなどについて、「金持ち父さん」と比べてより実践的に書かれている。

 その「金持ち父さん」のブックレビューはいつ書くのか?と言われそうだが、もし書くなら、再読して改めて書き起

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「残光」(東直己著、ハルキ文庫刊)

 人目を避けて山奥でひっそりと暮らす元始末屋が、かつての恋人の息子を救うべく再び行動を開始する、というお話。日本推理作家協会賞受賞の傑作長編ハードボイルドである。著者は「探偵はバーにいる」で知られる東直己。

 冒頭、主人公は時間が無いので手っ取り早くアシを確保するため、チンピラが乗る車にイチャモンを付けて下りてきたところを殴る蹴るの暴行、そしてクルマを強奪。そのクルマの見た目がチャラくてみっとも

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「刑事の絆」(堂場瞬一著、ハルキ文庫刊)

 しばらく続いた堂場瞬一作品もようやくひと区切り。ひとまず本作が最後となる。

 警視庁の目と鼻の先にある日比谷公園で警察官に対する銃撃事件が発生。全警察官を敵に回すかのような大胆な犯行に対し、銃撃されたかつての同僚に代わり追跡捜査係の主人公とそのチームが犯人に迫る。

 堂場作品の他シリーズを読んでから本作に入るのが良い、というのが多数派の意見であるが、私は順序立てて堂場作品を読んでいるわけでは

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「歪」(堂場瞬一著、角川文庫刊)

 まだまだ続くよ、堂場作品。

 メンバーを殺害したために海外逃亡を企てる振り込め詐欺グループのリーダーと、虐待の末に娘を凍死させ、交際相手の男に怒りの矛先を向けてこれも殺害したシングルマザー。自分だけが特別で、他者を利用する権利が自分にはあると確信する二人。なんだかドストエフスキーの「罪と罰」を彷彿とさせるテーマに基づいて書かれた作品だなぁ、と思いながら読み切った感じ。

 振り込め詐欺グループ

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「闇夜」(堂場瞬一著、中公文庫刊)

 娘の失踪と悲劇的な再会による精神的ダメージで再起不能かと思われるほどの状態に陥っていた主人公。新たに発生した少女失踪事件の捜査に駆り出されたのを機に、再び執念の追撃を開始する。

 冒頭のダメ主人公ぶりは、1995年の米映画「ダイ・ハード3」を連想させる。映画と違うのは、こちらは愛娘を殺された父親だということ。精神的ダメージの大きさが違う。そのダメージゆえか、行方不明になった少女の母親との会話に

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「検証捜査」(堂場瞬一著、集英社文庫刊)

 行き過ぎた捜査の責任を問われ大島警察署に左遷中の主人公。特命を受け、誤認逮捕事案の検証捜査をする合同チームに加わる。

 序盤、「特命-便利な言葉である。面倒な仕事を押しつけるときには特に」との記述があり、これを見て私もついニヤリとさせられる。特命とは得てしてそういうものである。

 ところで、作品の純粋なレビューとはあまり関係が無いが、検証捜査の対象は神奈川県警、舞台は横浜。個人的に土地カンも

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