「見知らぬ海には御用心」

皮膚が焼き焦げるほどの灼熱の背に僕はサーフボードに乗っていた。雲ひとつない晴天。エメラルドを散りばめたような緑の海。全てが完璧だ。旅先でこんな良い海が見つかると思わなかった。

 ただひとつ不可解なのはこんな良い海なのに人っこ一人いないことだ。まあ、独占できる身としては悪いものではない。そんな事を考えているとバランスを崩してしまった。

 海に落ちて、泡のカーテンが僕を包み込んだ。無数の泡が消えた。その時、遠くの方から大きなシルエットが近づいてくるのが見えた。やがてそれは明確な姿となり、僕の前に現れた。サメだ。尾鰭を素早く動かしながら、こちらに向かってくる。

 僕は急いで逃げようとした時、サメが消えた。奴の真下から現れた巨大な存在に噛みつかれたのだ。鯨のようなヒレと巨体。そしてワニのような口と鱗。突然出現した異形の怪物に僕は目を疑った。サメの血で赤く染まる水中で怪物と目が合った。冷水が血管を流れていると思うくらい体が冷たくなった気がした。

 怪物は僕を凝視すると飽きたのか、そのまま海の底に戻って行った。この海に人が寄りつかない理由がわかった気がした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?