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目は口ほどに物を言わない。高齢者はマスク+で感情が読み取りにくい

📖 文献情報 と 抄録和訳

他者の感情を判断するために目と口からの情報を利用する際の成人の年齢差

📕Slessor, Gillian, et al. "Adult Age Differences in Using Information From the Eyes and Mouth to Make Decisions About Others’ Emotions." The Journals of Gerontology: Series B 77.12 (2022): 2241-2251. https://doi.org/10.1093/geronb/gbac097
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[背景・目的] 高齢者は、顔から怒り、悲しみ、恐怖などの感情を識別する能力が、若年者に比べて低いことが多い。また、感情を知覚する際、目をあまり見ず、口元をよく見る。本研究は、感情処理におけるこれらの年齢効果の本質を理解することを目的としている。

[方法] 18~40歳の若年層25名(男性5名)(M=21.68、SD=5.10)、64~84歳の高齢層23名(男性5名)(M=72.83、SD=5.80)。若年者と高齢者の参加者は、目や口の写真から感情を識別し(実験1)、口と目の不一致の感情の組み合わせから感情を識別した(実験2)。実験3では、口元がマスクで覆われた絵から情動を分類した。

[結果] 高齢者は若年者に比べ、目から怒りと悲しみを識別することが苦手であったが、口元から同じ感情を識別することが得意であった(実験1)。また、怒り、恐れ、嫌悪を分類するために口元からの情報を用いる傾向が若年者に比べて強かった(実験2)。実験3では、若年者に比べて高齢者では、フェイスマスクがより怒り、悲しみ、恐怖の知覚を低下させることが示された。

[考察] これらの研究は、高齢者は若年者に比べて口からの感情情報を解釈する能力に頼っており、口がフェイスマスクで覆われると感情知覚に困難をきたすことを示した。このことは、異なる年齢層における社会的コミュニケーションに示唆を与えている。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「目は口ほどに物を言う」とは、言わずもがな、「目は口以上にその人の感情を表す」という意味のことわざである。
誰でも、相手の目つきや眼差しから「今日は元気そうだな」「落ち込んでいるのかな?」などと感じたことがあるはずだ。
そして、昨今、その目から感情を読み取る能力が、とても重要になってきている。

いま、僕たちにとって『マスク』がデフォルトの衣服となりつつある。
気兼ねなくマスクを外すことができるのは、自宅内や車内など、最上級のプライベートスペースのみ。
正直、新入職員の素顔は、知らないと言っていい。
そんな状況の中、相手の心を読み取る、察する能力に支障はないのだろうか。

今回の論文は、そんな時代を捉えた研究で、とても興味深いと感じた。
結論としては、『若年者は支障ない、高齢者は支障ある』だ。
特に実験3がわかりやすいが、マスクで口を隠すと、とくにネガティブな感情が分からなくなってしまう。
これが、日常のコミュニケーションにどのような支障をきたすだろう。
僕たち、セラピスト側の視点から考えてみる。

患者:「私の息子が、昨日風邪をひいちゃってね・・・」
セラピスト:「そうなんですね・・・(悲しい表情)」

という場面を考える。
仮にマスクなしであれば、悲しい表情は妥当に高齢者(患者)に伝わる。
しかし、いまはマスクで口元が隠れている。
そうすると、高齢者は(この人、私の話に寄り添って聞いてくれていないな。ああ悲しい)と受け取られてしまうリスクがあるということだ。
そこで、提唱したいのが『感情表出の言葉+ジェスチャー』による装飾だ。

患者:「私の息子が、昨日風邪をひいちゃってね・・・」
セラピスト:「そうなんですね・・・(悲しい表情)。それは大変なことで、〇〇さん、心配なされているようですね。[両手を胸に当てて悲しそうなジェスチャー]」

こうすることで、機能を停止している口元や顔下半分の感情表出の杖となるはずだ。
早速、今日からやってみようと思う!

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