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認知機能障害と性格の変化

📖 文献情報 と 抄録和訳

認知機能障害前と障害中のパーソナリティの変化

📕Terracciano, Antonio, et al. "Changes in Personality Before and During Cognitive Impairment." Journal of the American Medical Directors Association (2023). https://doi.org/10.1016/j.jamda.2023.05.011
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※ Connected Papersとは? >>> note.

[背景・目的] 認知障害や認知症患者におけるパーソナリティの変化については、臨床的観察や観察者によるレトロスペクティブ・レーティングの研究から指摘されている。しかし、そのような変化の時期や大きさは不明である。本研究では、前向き自己報告データを用いて、認知障害前および認知障害中のパーソナリティ特性の軌跡を検討した。

[方法] 縦断的観察コホート研究。設定および参加者:Health and Retirement Studyに参加した米国の高齢者を対象に、2006年から2020年まで4年ごとに認知機能障害の評価と5大性格特性の測定を行った(N = 22,611;認知機能障害を有するN = 5507;性格および認知機能評価50,786)。方法:マルチレベルモデリングにより、人口統計学的な差異と標準的な年齢に関連した軌跡を考慮した上で、認知障害前と認知障害中の変化を検討した。

✅ 性格を構成する5つの因子:ビッグファイブとは?
・ビッグファイブとは、性格は5つの因子によって構成されているという学説のこと
・ビッグファイブは、世界で最も信憑性のある性格分析と言われている
<5つの因子>
①Openness(開放性):知的好奇心の強さや想像力の豊かさ、芸術的感受性、新しいアイデアや行為への親和性
②Conscientiousness(誠実性):感情や行為をコントロールする力や、良心性、達成力の高さ、責任感の強さ
③Extraversion(外向性):社交性や積極性、活発さ
④Agreauleness(協調性):他者への共感力や配慮、思いやり
⑤Neuroticism(神経症的傾向):ネガティブな刺激に対する反応の強さ

🌍 参考サイト >>> site.

[結果] 認知障害が発見される前、外向性(b = -0.10, SE = 0.02)、協調性(b = -0.11, SE = 0.02)、誠実性(b = -0.12, SE = 0.02)はわずかに減少し、神経症的傾向(b = 0.04, SE = 0.02)や開放性(b = -0.06, SE = 0.02)には有意な変化は見られなかった。神経症的傾向(b = 0.10, SE = 0.03)は増加し、外交性(b = -0.14, SE = 0.03)、開放性(b = -0.15, SE = 0.03)、協調性(b = -0.35, SE = 0.03)、誠実性(b = -0.34, SE = 0.03)は減少した。

[結論] 認知機能障害は、前臨床期から臨床期にわたる人格の有害な変化パターンと関連している。認知機能障害時の急峻な変化率と比較すると、障害前の変化は小さく一貫性がないため、認知症発症の有用な予測因子とはなりにくい。この研究結果はさらに、認知機能障害の初期段階でも性格の評価を更新することが可能であり、臨床の場で貴重な情報を提供できることを示している。また、認知症の進行に伴い性格の変化が加速することが示唆され、認知障害や認知症の人によく見られる行動的、感情的、その他の心理的症状を引き起こす可能性がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

医療従事者をやっていてつくづく思うのは、本当にいろんな人がいるということ。
その中には、何でこんなに可愛いんだ、と思ってしまう人や、とても怖く感じてしまう人、様々だ。
特に、認知機能障害を有する患者さんでは、その傾向は極端なものとなる場合が多い。

そして、ここがすごく重要なことだと思うのだが、僕たちはその一時点での患者さんの姿しか知らない、ということ。
とても可愛げのある患者さんの目の前で、家族が泣いている、という姿を目にしたことは何度かある。
そこには、医療従事者には感じることのできない、『変化』がある。

あの厳格な父が、今は可愛げのある性格になっている。
あの優しかった母が、とても怒りやすい性格になっている。
・・・。

いつだって、人の感情を動かすものは『変化』や『ズレ』だ。
患者さんの変化を直接的に肌で感じることの難しい医療従事者は、今回の抄読論文で示された、性格の『変化』を知った方がいいと思う。
大切なことは、たった今時点の性格、というよりむしろ、過去からの変化、かもしれない。
過去からの変化、という視点を自分自身に組み込みたい。

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