入社試験 (1分小説)
1キロメートル先に、極太のゴシック体で『完』と書かれた、巨大な壁がそびえ立っていた。
高さ10メートルはあるだろうか。
超一流企業の入社試験。ここまで、オレと山田は、共にパーフェクトでトップ。最終問題に受かれば、採用が決まる。
しかし、その席はひとつしか用意されていない。
『完』と書かれた巨大な壁まで、オレは全速力で走った。山田も続くが、文武両道のオレには敵わない。
近づくと、壁は、土でできていることが分かった。
「あの、最終問題はどこにあるんですか」
キョロキョロしていると、上空から声がした。
「説明しなくても、優秀な君なら完璧にできるでしょう」
「・・・はい」
オレは、革靴と靴下を脱ぎ、ネクタイを外した。スーツも脱いでワイシャツ一枚になり、両腕をまくしあげる。
半乾きの土の壁に、両手をズブリと突き刺す。ひんやりとした感触がした。
ロッククライミングの要領で、手足を使い、上へ上へと登ってゆく。
チラリと後方を確認すると、まだ山田は走っていた。
10分で壁の頂上までたどり着いたが、どこにも最終問題に関するヒントはなかった。
その時、眼下に、息を切らし、やっと壁に到着した山田の姿が見えた。
「説明しなくても、優秀な君なら完璧にできるでしょう」
オレと、同じことを言われている。
山田は、壁を触り、何やらひらめいたようだった。
「『壁』の『土』を、『玉』に変えたら、できますね」
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