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映画『やさしい女』

1969年/製作国:フランス/上映時間:89分
原題
 UNE FEMME DOUCE
監督 ロベール・ブレッソン



予告編


 

STORY

 フランス。
 質屋を経営する、妻に突然先立たれた(自殺された)中年夫の回想を軸に展開する、めくるめく「ディスコミュニケーション」の物語。

 ※上手く説明出来ず……


レビュー

 男と女は出会い、結婚します。しかし女はある日突然、自殺します。
 死んだ女の身体からだを前にして、男は死んだ女との日々を回想してゆきますが、その回想の映像には年老いた女中の視線と、男も女中も目にすることの無かった女の行動や姿、そして視線も加えられます。
 女は何故、自ら死を選んだのか。そして何故『やさしい女』なのか。

 女の突然の死により、永遠に真実が失われるところから始まるこの作品には、主役の男女の名前は登場しません。しかしそれ故に、物語は普遍性を宿します。
 人と人とが、お互いを理解することの難しさについて(というかそもそも理解など不可能であるということについて)、明確でありながら繊細に、且つミステリアスに描き切り、同時に愛(という名の欲望)の普遍的な謎について囁くのです。

 全カット無駄や隙は一切無く、しかもそれぞれのカットが複雑に影響し合うことにより相乗効果を生み出し、けれども全体としてはフラットな印象になるよう無駄な情報は徹底して省き、必要な情報のみを最小限提示してゆく考え抜かれた構成が選択されております。
 「音」も、必要最小限のみ。そうした手法により全てを完全に掌握し、主人公達の心理から、「音」の連なりによる(楽器を用いない)音楽までをかなでます。
 
 ブレッソンと初対面の鑑賞者が、独自の表現手法満載に生み出される、その圧倒的な美と豊かさに鞭打たれるよろこびを知ってしまったなら、以後、その奥深い背徳の魅力から逃れるすべを失い、憑りつかれたようにブレッソン作品に魅惑され続けることとなるはずです。

 ブレッソン作品を語り始めると、全てのカットや音の意図について言及したい欲望に駆られてしまい、それを実行すると、とてつもなく長いレビューとなってしまいますゆえ、本作に関しては「白いストール」について少し言及するにとどめめます。
 「白いストール」は劇中に二度、空中を舞います。しかし、一度目と二度目では、そのストールの持つ情報量に大きな違いがあります。
 一度目と二度目のシーンの間にブレッソンが潜ませた、多岐にわたる情報に気付くことが出来たなら、二度目に「白いストール」の舞うシーンの魅力とそのイメージの豊かさは、鑑賞者の心を生涯に渡り魅了し続けるに違いありません。
 また「白」という色彩が重要なキーワードとなっておりますゆえ、鑑賞の際はぜひ一度、そういった細部も意識し御覧になってみてください。 
 それぞれの画や音たちが輝きを放ち始め、必ずやあなたを蠱惑こわく的な迷宮へといざなうことでしょう。



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