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絵馬語

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それぞれの人、それぞれの物語をハッピーエンドへと導かれるよう「絵馬」として書かれた話。
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記事一覧

「夢のまた夢」第1夜

「夢のまた夢」第1夜

こんな夢を見た。

私は白い船に乗って広い海の上を進んでいる。
となりには私よりも背の高い男の子。

しばらくすると船は海に浮かぶ島にたどり着いた。

男の子は私の手を繋いで一緒に船から降りてくれる。
島は足を踏み入れてみると、船の上から見るよりも一層不思議な場所だった。どうやらここは神様の島らしい。

朱色の鳥居を通り抜けると、神様のお遣いの鹿がいたり鏡のように私たちの姿を映し出す池

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「夢のまた夢」第2夜

「夢のまた夢」第2夜

こんな夢を見た。

四角い箱の中で私はひとり佇んでいる。
中身は見渡す限りのミントグリーンで目の前にある一際目立つステージをスポットライトが照らしている。

ただただぼんやりステージを見つめていると、純白のドレスに身を包んだ女の子が現れた。

ステージに立った女の子は大きく口を開け、さざなみのように歌い始めた。
歌に合わせるようにしてどこからか琴の音が聞こえてくる。

私は彼女の歌を聴

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「夢のまた夢」第3夜

「夢のまた夢」第3夜

こんな夢を見た。

男の子と女の子と私の3人で遊園地にやってきた。
園の中央には白い山がそびえていて、お客さんは私たち以外みんな人魚だった。

私たちは人魚たちに混ざって遊園地を思いっきり楽しんだ。

珊瑚の形をしたレストランに入ると、若葉色のグリーンティーと丸々とした肉だんごが運ばれてくる。
タコのシェフが目の前で焼いてくれた肉だんごはとびっきり美味しかった。

それからメリーゴーラ

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「夢のまた夢」第4夜

「夢のまた夢」第4夜

こんな夢を見た。

目前の壁いっぱいに大きなスクリーンがある。

私のとなりには男の子、そのとなりには女の子、はたまたそのとなりには色白のお兄さんがいる。
私たちは何かが起こる瞬間を待ち望んでいた。

すると、その時。スクリーンに雄々しく美しい魔物の姿が映し出された。
さらに流れてくる音楽は荒々しく心臓の音は呼応するかのように高鳴った。

真っ赤な魔物は咆哮を上げた。

私たちは頭を

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「夢のまた夢」第5夜

「夢のまた夢」第5夜

こんな夢を見た。

そこは不死鳥が治める土地だった。

肌のやけに白いお兄さんはレンガ造りの建物へと入っていく。
私もお兄さんの後を追って中へ踏み入る。
扉は炎で囲われていたけれど、何故だかひんやりと冷たい。

建物の中は大きな画面と人ひとりが寝転がれそうなくらいのクッション。
緑色のかわいらしいバケツはキャラメルの香りがするポップコーンでいっぱいだ。
ピンク色のバケツにはシンプルな

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「夢のまた夢」第6夜

「夢のまた夢」第6夜

こんな夢を見た。

私はゴールデンレトリバーだ。

毛並みがよく、もふもふしていて、人に覆いかぶさってしまえるくらいに身体が大きい。
ご主人様からもらった首輪が自慢で1番の宝物にしている。

ソファにもたれかかっているご主人様にのしかかると「しょうがないな」と言いながらも、私の頭を撫でてくれる。
わしゃわしゃとしばらく撫で回されて次第にウトウトしてくるとご主人様の隣に丸まって座り、ぐっす

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「夢のまた夢」エピローグ

「夢のまた夢」エピローグ

夢を見ていた。

覚めることの無い夢を。

少女はひんやりと冷たいアスファルトの上でこの上なく静かに眠っている。
傍らには白百合が見守っているかのように咲いていた。

おそらくもう目覚めることはないであろう。それは永久の幸福である。

「ジウ」 プロローグ

「ジウ」 プロローグ

慈雨

万物をうるおし育てる雨。また、ひでりつづきのときに降るめぐみの雨。甘雨。―『精選版 日本国語大辞典』より

「ジウ」 第1滴

「ジウ」 第1滴

小さい頃、眠る前にかあ様が読んでくれた絵本。

物語の中には女の子がいて、男の子がいて、花も咲いていて、美味しそうな食事があって。

それから.............。

『かあ様、お空から地面に落ちてるこれってなあに?』

『それはねヒナタ、"雨"というのよ。』

『あめ?お空からキャンディが落ちてくるの?』

『ちがうわ。飴玉じゃなくて雨よ、空から雫が降ってくるの。それもたくさ

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「ジウ」 第2滴

「ジウ」 第2滴

もう私はあと1ヶ月で18歳になる。
十分大人と言っていい歳だし、いつまでもかあ様ととと様がいないと1人じゃ何も出来ないままはイヤ。
だから、誕生日プレゼントの前借ということにして私は人生で初めての試みをやってのけた。

『 かあ様、とと様へ

雨を見にほんの少しだけ離れた町へ出掛けます。
2,3日で戻るから心配しないでください。

ヒナタより。』

2人がぐ

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「ジウ」 第3滴

「ジウ」 第3滴

どうやら話を聞いていると、メグミは故郷に帰る途中で歩き疲れてちょうど見つけたオアシスで休憩中のところだったらしい。

「ヒナタ......はどこに行きたいの?」

「私は雨の降る町に行きたいの。聞いた話だとこの辺にあるみたいで、どうしても見てみたいから1人で旅してる。」

「そっか。..........たぶんそれ僕の住んでた町のことだと思う。よかったら一緒に行く?」

「え!いいの!?」

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「ジウ」 第4滴

「ジウ」 第4滴

『とある町には魔女の末裔がいて奇妙な魔法をつかうらしい』

遠い世界のおとぎ話はファンタジーなんかじゃないと身をもって知ることになる。

僕が小さい頃は父さんが行商に成功して、それなりにお金もある豊かな暮らしをしていた。
父さんも母さんも僕を愛してくれていることを肌身で感じられてそれなりに幸せに暮らしていたと思う。

ある日、手を滑らして父さんが旅先で手に入れた珍しい骨董品を割ってしまっ

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「ジウ」 第5滴

「ジウ」 第5滴

「本当はね、早く言うつもりだったんだ。」

私たちに降り注ぐ雨が止み、かすかに人の住んでいた気配が残る町の跡を歩いた。
メグミの案内で町にたどり着くと「雨の降る町」に人はおらず、建物はただの抜け殻と化していた。

「町が雨を降らせているんじゃなくて、僕がいるから雨が降るんだって。でも言えなかった。また気持ち悪がられるのかなって思うと言葉が出てこなくてさ。」

「ビックリはしたけど全然怖くな

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