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「ジウ」 第5滴


「本当はね、早く言うつもりだったんだ。」

私たちに降り注ぐ雨が止み、かすかに人の住んでいた気配が残る町の跡を歩いた。
メグミの案内で町にたどり着くと「雨の降る町」に人はおらず、建物はただの抜け殻と化していた。

「町が雨を降らせているんじゃなくて、僕がいるから雨が降るんだって。でも言えなかった。また気持ち悪がられるのかなって思うと言葉が出てこなくてさ。」

「ビックリはしたけど全然怖くなかったよ。ずっと雨を見てみたくてここまで来たから、やっと見られて嬉しかった。」

「普通はもっと怖がるものだと思うけどなあ。ヒナタが変わった子でよかったよ。」

降り止んだ後、また日差しが照りつけ始めていたのに不思議とここは涼しい。
水路には透きとおるくらいに濁りのない水がさらさらと流れている。所々にある丸みのある池には睡蓮の花が咲いている。
メグミはずっとこの景色に囲まれて育ってきたのかな。

「僕が逃げてから町に人がいなくなったって聞いてさ。当時は雨が降り続けていたけれど、もう降らなくなっちゃったから。遊牧に暮らしを切り替えて皆で町を出ていったらしいよ。」

「雨が降らなくなったから作物や水がなくて困っちゃったってこと?」

「そういうこと。町では貿易もほとんどしてなかったしね。」

「そんなの全然考えたこともなかった.........。それならメグミの力ってすごく町のためになってたのね。」

「あー、考えてみたらそうなるのかもしれないね。だからさ、町が機能してないって知ってて案内してたわけだから。本当のことを知ってて僕はヒナタに嘘をついてたんだ。ごめんなさい。」

メグミはその場で私に頭を下げて謝った。

「全然気にしてないよ。こうやって町に連れてきてくれたし。嘘つきじゃないもん。」

「でも怖がられたくなかったから本当のこと隠してた。絶対に言おうと思ってたのに、ヒナタと話してると楽しくて......嫌われたくなかったから。」

「嫌いになんかなってないよ。雨もちゃんと見られたし。私、メグミのお陰で素敵な旅ができたんだよ。一緒に来てくれてありがとう。」

「ヒナタ............ごめん、じゃなくて、ありがとう。」



それから2人で冷たいコンクリートの上で水の流れる音を聞きながら寝転がった。
ちょうど背の高い建物の影になっていて太陽の日差しが当たらない、お昼寝には最高の場所だった。
身体の力を抜いてだらだらと時を過ごす。空は青くて雲ひとつない。
くたくたに疲れていた身体が風にさらされて気持ちがよかった。


「それで願いが叶ったわけだけど、ヒナタはこれからどうするの?」

「かあ様ととと様に書き置きして家を飛び出してきちゃったから、なるべく早く帰らなきゃいけないの。」

「なんだよそれ。なかなか思い切ったね。」

「まあね。きっと2人とも心配してる。メグミはどうする?」

「久しぶりの故郷も見れたし、どこか別の新しい町に行こうかなって。」

「そっか...............。これはここだけの話なんだけどうちの町の名物になってる干しブドウのパン、ほっぺた落ちるくらい美味しいよ。」

「それはまた一緒に旅しようってこと?」

「だって怒ったかあ様、鬼みたいに怖いから帰り道だけでも...。」

「............仕方ないな、一緒に謝るよ。」

「やったあ!!!メグミありがとう!!!」

いつの間にか隣にいるメグミはすやすやと幸せそうに眠っていた。
寝ている顔はやっぱり幼くて、私と同じくらいの年に見える。
起きたら次はどんな話をしようか、そう考えいるうちに私も午睡に誘われた。


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