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「ジウ」 第4滴


『とある町には魔女の末裔がいて奇妙な魔法をつかうらしい』

遠い世界のおとぎ話はファンタジーなんかじゃないと身をもって知ることになる。

僕が小さい頃は父さんが行商に成功して、それなりにお金もある豊かな暮らしをしていた。
父さんも母さんも僕を愛してくれていることを肌身で感じられてそれなりに幸せに暮らしていたと思う。

ある日、手を滑らして父さんが旅先で手に入れた珍しい骨董品を割ってしまった。相当気に入っていた物らしく、父さんは僕の頬を思いっきり引っぱたいた。あまりの痛みと殴られた悲しみで胸がいっぱいになり、つらい感情が身体から溢れ出たように泣いた。

すると晴れきった空が暗い雲におおわれて雨が降り始めた。

雨が降らない国で起こった突然の出来事に驚いた人々はしばらくこの話で持ち切りだった。
それも1度や2度じゃない。僕が泣くと快晴でもたちまち雨に変わる。これに気づいた両親は僕を次第に気味悪がった。
父さんが「言い伝えの魔女の末裔だ」と言って僕を殴る。涙が零れて雨が降る。母さんが「親を睨む目付きが恐ろしい」と言って僕を腫れ物のようにあつかう。また涙が溢れて雨が増す。
僕が暮らす町は「雨の降らない快晴の町」から「雨が降り止まない梅雨の町」に成り果てた。

いつしか自分の体質も両親の態度もなにもかも夢を見ていたような気分で、もうどうでも良くなっていた。
ただただ僕のことを誰も知らない場所へ行きたい。

月が夜を煌々と照らす晩、そっと家を出て町から逃げるように遠くへ向かった。遠くならどこでもよくて、ここじゃなければそれでよかった。

疲れてしまった僕は新しい町、新しい人、そして新しい自分を欲した。そしてそれ以来、一切泣かなくなった。

なのに。

出会ったばかりの少女の言葉は僕の心を囲っている壁を壊した。
久しぶりに流した涙、そして降り注ぐ雨。天から降る雫たちは乾ききった空気を湿らせ僕らを濡らした。
..................またバケモノ呼ばわりされるのだろうか。

するとヒナタは言った。

「すごい。あなたって慈雨だったのね。」

「...............「ジウ」?」

「慈雨、恵みの雨と書いて慈雨よ。この世の全てを潤し育ててくれる救いの雨のこと。砂漠に雨を降らせちゃうなんてすごいよ、メグミ。」

ヒナタはにっこり笑って初めて見る雨に感動していた。

僕はまた泣いた。暖かな布に包まれたみたいな安堵から涙を流したのは生まれて初めてだった。

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