見出し画像

そもそも魔王って倒さなきゃ駄目なのか?【第1章 旅立ち編 9】

前話はこちら

第1話はこちら


ーリビングー

ふむ…

来てはみたものの母さん達が居ない

さっきのは悲鳴だよな?

まさか…誘拐か?

おいおい…あんな残念な人達さらうとかセンスねぇぞ

大体そんなさっきまで話してた両親がちょっと目を離した隙に…!みたいなRPG的展開があるか?この俺に?この物語に?

ないない、ないな

ありえない




「イィヤァァァァァァ!!」


「こら母さん!!近所迷惑だから玄関先で騒ぐんじゃない!!」


はーい、ちゃんとないね


―玄関先―


俺のモチベーションと連動するかのように日も沈んでいて、辺りはもうすっかり夜だ

俺は随分と寝ていたらしい


「イ…イヤァァァァ!!」


どうでもいいがやたらと叫ぶなうちの母さんは

恥ずかしい誤解を生むからやめてくれ


「今日は一体どういう日なの!?神様が私達を恨んでるとしか思えない!!」


どうかしたのか?


「勇者!!ちょっと聞いてちょうだい!もしくは魔王を倒しに行ってきて!」

話を聞く  ◀︎
魔王を倒しに行く


良かった、いつもの母さんだ

正直まだ怒ってると思っていたからこの平常運転には安心する

そう一瞬でも思ってしまった俺は一度精密検査の必要があるな


「誰だか知らないけどうちのリトルクリーチャーが入れられてるというポストに大量のいたずらがされていたのよォォォォ!!」


はぁ?

何言ってんだかさっぱりなんだけど

もう一回言ってくれ。母さん


「だからリトルクリーチャーというポストにいたずらがされていたのよ!しかも大量に!!誰がやったかは知らないのだけど!」


動揺しすぎだろ

リトルクリーチャーというポストって何だよ

父さん頼む


「つまり母さんは、郵便受けにたくさんのクリムザリガニが入っていた事に驚いた、誰がやったかは分からないけど許せないと言ってるんだ」

「勇者、お前これに関して心当たりはないか?」


どんな心当たりだよ

あるから凄いくやしい


そういえばグリルのやつ結局どうなったんだ

少し経ったらポスト見とけとか言ってたけど


「う…まだ奥にわんさか居る!おえっ…気持ち悪い…」

「もうこのポストとは今日限りでお別れね、焼き払うしかないわ!」


「落ち着きなさい、母さんは無理をするな。こういうのは男に任せておくものだ」


「あなた…大丈夫なの!?相手は凶器を持っているのよ!?」


いや凶器て


「凶器に屈して妻を見捨てる。そんな薄情な夫と結婚したつもりか?お前は」


良いこと言っているつもりか?

ザリガニ素手で掴むだけだろうが、早くやれよ


「あなた…素敵!!プロポーズしてくれた時と同じくらいカッコいい!」


「こらこら、照れるからやめなさい」


「あなた……」


「母さん……」


きっしょく悪いねぇ、ザリガニバックにさぁ



「───おえぇっ…これで全部だ母さん」


「あなたお疲れ様!背中にケガをしたみたいだけど大丈夫?」


「ふっ問題ないさ、こんなのクリムザリガニに挟まれた程度だ」


まんまそうだろ。つーかどうやったら背中挟まれんだよ


「ふぅ…良かった、一時はどうなるかと思ったわ」


ところで父さん、ポストの中に入っていた物はクリムザリガニだけだったか?

自分で思うが何だこの質問


「ん?そうだが、それがどうかしたか?」


あいつ…諦めたのか?

まぁ、あんな無茶苦茶な理由で貰える訳がないしな。諦めるならそれでいいんだが

てかよくよく考えたら、あいつ養鶏所の場所も知らないんじゃねぇか?

まさか今だに村中探し回ってるとか…ないよな?

う~ん…

夜も遅いしもう寝る
グリルを探しに行く ◀︎


……仕方ない。

どっかから盗んだりとかされても困るからな

あいつ平気で俺の名前を出して事態をややこしくしかねないし



父さん母さん、少し出掛けてくる


「あら、旅立ちなら朝の方がいいわよ?」


違う、思いきったな母さん

何自然に旅立ちをうながしてんだ

ちょっとそこまでの話だよ


「まぁな……父さんもお前くらいの頃は外の世界にあこがれたもんだ。反対はせん」


何の話?何言ってんの?


「だが、ただ1つ…父親としてこれだけは言わせろ」

「父さんより先に死ぬんじゃないぞ」

今更ながら誰か助けてくれ。父さんと母さんが病気だ


ー始まりの村 ドミリア(夜)ー


マサアキ
HP 32
MP 0
LV.2


結局旅立ちに備えて修行をしてくるというていで落ち着いてしまった

ただじゃ好きに出掛けさせてすらくれないのか?

ほんと、何だこの人生

はぁ……

早いとこグリルを見つけて帰ろう…



こういう場合闇雲に探し回るのは得策じゃない

まずは情報集めが定石セオリーなんだが


村人に聞いて回る
養鶏所に行く  ◀︎


まず一番有力なのはあそこだろうな……

行きたくねぇ……養鶏所

つーか夜もだいぶふけて来てるがまだ起きてるのか?


ードミリア 養鶏所(夜)ー


「あれ?あれあれあれ?ひょっとしてひょっとすると勇者マサアキじゃないか!?」


起きてたよ

もう間もなく日付かわるぞ。いつまで卵売ってんだ


「久し振りじゃないか!14時間48分と24秒ぶりだね!」


もうこえーよ父さんの仕事仲間


「何しに来たんだい!?僕ちゃんの恥ずかしい失敗談でも聞きに来たのかい!?」


違います

どんだけ暇ならこんな時間にそんな話聞きに来んだよ


「それはそうとしてウチの卵はどうだった!?」


あ、あぁー…良かったです


「だろ!?一度食べたら病み付きになるだろ!?なんと言ってもウチの卵の強みは黄身なんだ!!君じゃないよ?卵の黄身の事だからね!?まったく馬鹿だなぁ勇者マサアキは」


あの、そんな事よりちょっと聞きたい事があるんですよ


「恥ずかしい失敗談!?」


恥ずかしい失敗談じゃねぇよ


「あ~話したいなぁ話したいなぁ。だれか僕ちゃんの恥ずかしい話を聞いてくれる人は居ないかなぁ20Rルークで」


何さりげなく依頼にしてんだ。変態のおっさんしかいねーのかよこの村



「──男の子かい?」


はい、角と翼と牙と尻尾……はねぇか

そういうなんかこう…変わった格好をした7歳くらいの男の子がここに来ませんでしたか?


「あ~…どうだったかな~そんな子が来たような来なかったような…ん~…駄目だな最近…年のせいか記憶力がどうにも駄目だ」


じゃあさっきの秒単位の逆算は何だったんだよ


「……あぁ思い出した!そういえば来たね!来た来た!確かあんたの友達だ卵くれとか言って来た男の子が似た特徴をしていたよ!」


そいつです

しかし以前聞いたものより随分と短縮されたな

なんだその出会い頭の友達宣言



ちょっと、それに関してもっと詳しく教えてもらえますか?


「う~ん…なんだが執拗しつようにくれくれ言われてさ~もしかしてお腹空かせてるのかなと思ったんだけど、知らない子にいきなりねだられても流石さすがにね~」


まぁそうだろうな、普通


「けどどうせすぐまた産むしいっか!と思ってあげたんだよ」


あげたのかよ


「そしたらその場で嬉しそうに食べてね」


食べたのかよ

馬鹿ばっかりだな


「それで食べ終わって満足したかと思ったら急に焦りはじめて引きちぎられる〜!とか何とか言いながらどっか行っちゃったよ」


一体何をやってるんだあいつは…


「じゃあね~、あと2時間で閉店だから何かあったらまた遊びに来てね~」


なんか耳を疑う情報が飛び込んできたが、冗談だと信じよう。それよりも…

どっかに行っちゃったか、まいったな。

あまりにも無邪気なので忘れられがちだが、グリルは魔族

それ故、この村に家族もいなければ家もない

村の中にある木の上や適当な岩場などを寝床にしているが、日によって場所は異なるらしい

だから探すとなったら一手間も二手間もかかる

しかし厄介な点はこれだけじゃない

普通ならもうどこかで寝てそうなものだからと諦めてしまうところだが、それはあくまでも相手が常識人の場合だ

あいつが魔族だという以上に忘れてはならないことは何か?

答えはアホ

そして遊びに対する嘘みたいな体力

最近教えた釣りが今のブームらしいが、遊びという遊びはほぼストライクゾーンに入るし、酷い時は空腹でぶっ倒れるまでずっと遊んでいる。

それぐらいのレベル

何かに関心を持ち動いている時のあいつを一般の倫理観で考えてはいけない。それがグリルだ

どこかにとどまっているだけならまだしも何処で何をしているかわからない

さらには現在夜という状況下であいつを探しだすのは至難しなんに値する

今思い返せばあいつを自分から見つけた事はほとんどないしな

しかしだからといって野放しにしたら何処かから卵を盗むのではないか、という懸念がいよいよ現実味を帯びてくる

とんだジレンマだよ。何なの本当にこの仕打ち

もう次の日になるよ?

俺なんかしたか?


ふぅ……

だからと言って愚痴っていても仕方ない

とにもかくにもまずは行動に移さなきゃな

幸い夜だといっても村にはまだちらほら人がいる

目撃情報があったか調べよう


一人目は…あの女の人でいいか


すいません


「ここから北の方角にはモンバルという町があるわよ」


へ?……あ はい…

えと、そうではなくて人を探してるんですが

角と牙と翼が特徴的な見た目7歳ぐらいの男の子を見ませんでしたか?


「ここから北の方角にはモンバルという町があるわよ」


どうしました?からかってんですか?


「ここから北の方角にはモンバルという町があるわよ」


この人怖っ

聞いてねぇし町があるからなんだよ

違う人に当たろう


次、あの男の人にしよう

──あの、少しいいですか?


「村長の娘さんって可愛いよな。明日声掛けてみようかな」


………そうですか

それよりもかくかくしかじかの男の子を見ませんでしたか?


「村長の娘さんって可愛いよな。明日声掛けてみようかな」


聞けよ人の話

ポンコツかこいつら


「村長の娘さんって可愛いよな。明日声掛けてみようかな」


勝手に掛けろよ

お前みたいのが行き過ぎてさかったおっさんになるんだ



───グリル探しを始めて二時間

大方村はまわったが、依然として大した情報は得られずじまいだ

みんな聞いてもいない事をベラベラ話しやがる

夜の村がこんなにもクレイジーだとは知らなかった。少々トラウマだ

もう夜もだいぶ深い

嘘か誠か、養鶏所のおじさんですら店仕舞いする時間帯だ

…………もういいか、遊んでたとしても流石に疲れ果てて寝てるだろ


ん…?

【マサアキは足下を調べた!】


これは…


【なんと!マサアキはグリルの羽を手に入れた!】

グリルの羽

グリルの羽……か?

ん、あっちにもある


【マサアキはグリルの羽を手に入れた!】


どういう事だ?グリルの羽があちこちにたくさん抜け落ちている

ストレスか?

溜まるような生き方してないだろ

とにかくあるだけ集めてみよう。何か手がかりになるかもしれない


【グリルの羽を手に入れた!】

【グリルの羽を手に入れた!】

【グリルの羽───】









───で、どうやら村の外に続いているみたいなんだが

グリルよ、どこまで手こずらせるつもりだ


だいぶ不味まずいことになってきた

村の外には当然魔物がいる

魔物はマギアの影響により突然変異を起こした化け物で、人形ひとがたである魔族とは一線をかくす存在だ

この二種族は仲間だと認識されやすいが、実はそうじゃない

確かに魔族が魔物を従えているという側面もあるにはあるが、厳密に言うと魔族が自らのマギアを魔物に分け与える事で使役しえきしているのだ

マギアというえさを与えられた魔物は、その間魔族の従順なしもべとして働くが

逆を言えばその主従関係にない魔族に対しては容赦なく牙を

とこの前情報番組アサマホーでやっていた



何よりも不味いのは、あいつがそんな事実など知っているわけもないこと

そして現在の分け与えるマギアに余裕もないこと

そのため、もしグリルが魔物と遭遇すれば戦闘は避けられない

というより、仮に知っていて分け与える余裕があったとしても、あいつに使役される物好ものずきな魔物なんかいやしねぇ


………さ~てと、だ


自業自得だろ
グリルが危ない!  ◀︎


見つけたらお仕置きだぞ、グリル

体に生やした余分な部分を全部引きちぎってただの少年にしてやる…!


~To be continued~

スキ、フォローをして更新を催促する  ◀︎
魔王を倒しにいく

次のエピソードはこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?