マガジンのカバー画像

がん患者遺族として

7
2020年12月末、父が癌で亡くなった。 がん告知から永眠までの間、そしてその後の悲嘆など、これまでの心理的変化を辿る。
運営しているクリエイター

記事一覧

泣いていなくても

泣いていなくても

お久しぶりです。仕事を始めて、苦しい時もありながら、充実した日々を送っています。普通の人ってこんな感じなのかな?普通って何、と普段口酸っぱく言っている私ですが、何より私が私のことを、普通でないと思っているし、そのことが知られずにいたいと思っている。私の思う普通は、苦しいことや、嬉しいことがありながらも、壊れそうになることはなく、破滅的なことも考えず、何だかんだで充実している、そんな感じ。ずっとハッ

もっとみる
悲しみに形を持たせること

悲しみに形を持たせること

父を亡くして1年。
今回は、私が愛する人を失った悲嘆を受け入れようとする中で考えたことをお話しする。

約3ヶ月前、重度訪問介護のアルバイトを始めるため、資格を取得した。その後紆余曲折あり、結局そこでは働かず、心理系オフィスでのアルバイトを開始することになった。

新しいバイトは、自分の目指す道筋と直接関わっている分野であるし、待遇もよく、とても充実している。そこで、重度訪問介護をやろうと思った当

もっとみる
伝えたかったこと

伝えたかったこと

4月から大学院に入学した。
半年前、最愛の父の最期が近づき、卒論の提出にも追われる中、試験勉強をしなければならなかった。

チャンスは1年間に2度。
1度目は父のことで大変に混乱し、勉強が全く手につかなくなった。気管切開された父は、病床で私に「次は受かれよ」と、かすれる声で言った。

自分で言ってはなんだが、父にとって私は自慢の娘だったそう。私が何かを成し遂げることは、父の人生にも大いなる意味があ

もっとみる
死と愛する者との別れを混同してはならない

死と愛する者との別れを混同してはならない

それは多くの人が知っている事実だが、大切な人を失うということが、どれほど悲しいのか、私は知らなかった。確実にこの世にあったはずの命が、本当はなかったんじゃないかと不安になるような気持ちを、私は知らなかった。

2020年12月28日午前9時12分、最愛の父が永眠した。

こんな歌があったことを、ふと数日前に思い出した。私は、最愛の父の墓の前で、泣かなかった。火葬前最後の別れの瞬間も、火葬中も、家に

もっとみる
今どうしても言葉にしておきたいこと

今どうしても言葉にしておきたいこと

父の胆管に末期の癌が見つかり、宣告された余命の1年が過ぎた。7月以降、2度目の入院となり、覚悟を決める時がきている。

今回は、末期がん患者の家族として、1年間の心境の変化をここに記す。

----------

私はこの1年間の多くを、現実から遠く離れたところに身を置いて過ごしていたと思う。私が幼い頃から父は「100歳まで生きる」といつも言っていたし、私はそれを信じて疑わなかった。病気を知らさ

もっとみる
530円で買った心の休息

530円で買った心の休息

今日「喫茶店で読書をしたい」とふいに思い立った私は、家のすぐ近くにある喫茶店に立ち寄った。一人で喫茶店に入るなんていつぶりだろう。少し緊張していた。

店主は初老の綺麗な女性で、素敵な笑顔で冷たいお水をサーブしてくれた。メニューの一番上にあったレギュラーコーヒーを注文。

店は喧騒から外れた穏やかな雰囲気を漂わせていた。喫茶店独特の煙草の曇った匂いが、ブラウンを基調とした店内を優しく包んでいる。座

もっとみる
ありきたりな後悔

ありきたりな後悔

後悔はするな、反省をしろ。

そう思って生きているつもりだった。
後悔なんて無意味なもので、反省として次に繋げなければならないと。

しかし、突然親と意志疎通がとれなくなった今、身に染みて感じているありきたりな後悔がある。
もっと連絡をとっていればよかった。
自分の時間を優先せずに、もっと会っていればよかった。
私は実は、こう思わない自信すらあったのだが、抱かざるを得ない後悔というものがこの世には

もっとみる