史乃

心の軌跡と備忘録。 時々短いおはなしも。

史乃

心の軌跡と備忘録。 時々短いおはなしも。

マガジン

  • がん患者遺族として

    2020年12月末、父が癌で亡くなった。 がん告知から永眠までの間、そしてその後の悲嘆など、これまでの心理的変化を辿る。

  • 短編小説

    投稿した短編小説をまとめています。

最近の記事

泣いていなくても

お久しぶりです。仕事を始めて、苦しい時もありながら、充実した日々を送っています。普通の人ってこんな感じなのかな?普通って何、と普段口酸っぱく言っている私ですが、何より私が私のことを、普通でないと思っているし、そのことが知られずにいたいと思っている。私の思う普通は、苦しいことや、嬉しいことがありながらも、壊れそうになることはなく、破滅的なことも考えず、何だかんだで充実している、そんな感じ。ずっとハッピーじゃなくていいんですよね。基本的にフラットで、でも感情がちゃんと動く、そんな

    • 謙虚なツワモノ

      先日、noteを全部読んだと言ってくれた人がいて、とても驚いたし、とても嬉しかった。最近めっきり「文章」は書いていなかったと気づき、一先ず今考えていることを、書いてみようと思った。 どうやら最近、自分の様子がおかしいと感じる。何がおかしいかと言うと、色々おかしいけど、一番は、なんかすごくメンタルが弱い。評価、指摘にすこぶる弱い。弱いっていうのは、過度に被害的にとらえてしまったり、他責的な感じで出てきて、総じてそこにとらわれてしまう。そしてそこから、回復するための心の弾力が乏

      • 常夜灯が満月に見えた話

        昨日は大切な人と、大切な話をした日だった。トラブルがあったけど、話し合いを重ね、これまでの人生の振り返りや、自分というものについてまで話は及んだ。 この日は帰宅して疲れてしまって、まだ明るい時間帯、昼寝ならぬ夕寝をしていたが、金縛りにあい、うめきながら目を覚ます。隣で心配そうにしている大切な人に、私の心の緊張も少し解け、ふと浮かんだ言葉を、ぽつぽつとこぼしていた。何も言わないその人は、眠っているわけでもなく、ただ何かを考えて、それが言葉にできないように見えた。 外はだんだ

        • 自分にないものを持っている人

          人は自分にないものを持っている人に惹かれうる生き物だ。それは自分がそうなれたらいいと思うのになれないから、その人への憧れを通して自分を補完しようとする試みのように私には思える。その人のようになれない自分の弱さ未熟さに苦しみながら、関わるたびに痛みを感じながら、充電器みたいに自分にその人を挿し込んで、生命の動力を補充することができる。しかし充電される体制が整っていないと、生命の動力を受け止めきれずショートして、憧れは憎しみに変貌する。 好きすぎて嫌いとはよく言ったもので、好意

        泣いていなくても

        マガジン

        • がん患者遺族として
          7本
        • 短編小説
          2本

        記事

          【短編小説】誓い

          「私が幸せにするなんて言わないけどあなたが勝手に幸せになる姿を眺めながら私も勝手に幸せになれると思うの。よかったらあなたの人生の傍らに私を置いて2人で良い時間を作っていかない?」 『幸せにするなんて言われたら“もう幸せです”としか言えない僕のこと、よく知ってるんだね。そんな物知りな君は、勝手に幸せになってる君を見ている時の僕の気持ちは知らないのかな』 「私より回りくどくて嫌味な人はあなたくらい。つまりあなたは私を見ているだけで幸せだって言いたいわけね」 『それを言っちゃ

          【短編小説】誓い

          今日も生きていく

          泥水の上澄みだけを掬って小瓶に詰めるように、どんなに苦しくても美しいものだけはにぎっておきたかった。美しいものには美しいものが出来上がるまでの土台があるから、美しいものを見たらその土台に思いを馳せて、そうして泥水で満たされた体の、その上澄みで涙を流す。そんな悲しさこそが美しい。そんな人に私はなりたい。 大切な人に教えてもらって、初めて聞いた曲、何の楽器かはわからないけど、細やかな音色が、光の粒のように私の耳を鮮やかに彩る。今日も生きていくのだ。私は、真っ直ぐ、歩みを止めない

          今日も生きていく

          冬の煙草

          冬に外で煙草を吸うと、吐いた煙がどこまで煙で、いつから息に変わったのかわからないから、何となく長く吐き出したくなる。そして吐き切ると今度は深く息を吸い込むことになるから、冬の空気と煙の残り香が私を透過して私の中でじんわり溶けていく。 私は冬と一体化して、その瞬間一人の温もりを知る。孤独は人と生きる人にしか生まれ得ない。孤独はその中核にランタンのような明かりを灯して私を包むヴェール。そうして私に、不思議な暖かさをもたらす。 煙草を吸うと、生きていてもなあ、というどうしようも

          冬の煙草

          私という刺繍糸であなたと人生を紡ぐ

          私が自分の友人同士の気が合いそうだと思うとすぐ彼らで仲良くさせたがるのは、私よりもあなたに合う人がいるからその人とこの話をした方がいいという物凄く薄情な真意があったのかもしれない。最初は、どうしてこの人はこんなにも私と合うんだろうと強く惹かれて、惹かれた分素直にアプローチして仲良くなるのだけど、人間は本当に同じであることもなければどこまでもわかりあえることもないのに私はたぶんどこかで人と一体化したいとそう願っているし期待をしているから、そうはなれないと小さく幻滅した瞬間に線を

          私という刺繍糸であなたと人生を紡ぐ

          人は本当にはわかり合えないのだとしても、

          「苦しんで藻掻いている人のほうが魅力的だと私は思う」と言ったら、それをそのまま復唱してじっくり考え込む私のパートナー。あなたがあなたのような人だから私はあなたを好きになったんだよ。私たちは時々ちがう言語を使うけど咀嚼に使う時間は信頼そのもの。お互いの似てないところは宝物だ。ちがう言語を使うからこそきっとわかり合おうとすることができるのだよね。似てない人やちがう畑の人と一緒にいるためにはわかろうとし合う必要がある。人は本当にはわかり合えないと知った上でそれでもわかりたいと思う気

          人は本当にはわかり合えないのだとしても、

          【短編小説】夕焼け顔の君

          鼻がつんとする秋の冷気の中、犬の散歩を横目に川辺の帰路を歩く。先に教室を後にした君がもしかしたら前を歩いていやしないだろうかという淡い期待が、ほんの少し僕を足早にさせる。淀んだ川だが、その水面に映る金色の雲の煌めきが駆け抜ける様は、淀みすら風景にしてしまうのだった。もっと早く家に着く道もあるけど、質素な住宅街よりも僕はこの道が好きだし、君もきっと友人と歩くこの道が好きなんだろう。 まっすぐな道の先、遠くで君の笑う声が聞こえる。水色の大きなマフラーにすっぽり埋まった小さな頭。

          【短編小説】夕焼け顔の君

          言葉にした瞬間、凝固する。

          私の中には言葉が詰まってる。溢れ出す水には生命が宿ってる。その水は外側で言葉にした瞬間、凝固する。生命の形を決定されるのだ。「そうでありたかった」という声と、「殺しやがって」という声が聞こえる。殺された数の私は死んだのではなく、口を塞がれて、産まれていなかったことにされるだけ。私たちは、気持ちを、思いを、言葉にする。表現する。伝達する。私たちは、私たちの大地たる気持ちを、思いを、たかが言葉に集約する。 それでも私が言葉にするのは、溢れ出す水をただ垂れ流していると、いつか溺れ

          言葉にした瞬間、凝固する。

          女の躰に無機質な殻を見ているような人間を、私は心底軽蔑する。ただしそういう人とそうでない人との分別は極めて困難。 その一方で、分別など端からできないという可能性についても考える。女の躰を見る時、無機質な殻に成り変わるのは女の躰の方かもしれないのだ。 しかし崇高なことに、成り変わったとて、無機質な殻の中には精神が宿る。その精神の存在をいつまでも見ることができないような人間こそ、心底軽蔑するに値する。その人に責任はないけれど。なぜならその目が養われなかっただけで、養おうとする

          死の中に生きている

          1秒前のあなたはもう死んでいるのだと本で読んだのだけど、なるほど、そうかもしれない、毎分毎秒わたしは死んでいる。そしていつかわたしが寿命を迎え死んだとき、死んだわたしはどうやらその1秒前に死んだわたしが行ったところへいくらしい。 1秒前のわたしの死と一緒に、今のわたしは、毎秒死なない選択をしているのかもしれない、それはとても無意識的に、受動的に。そうではなくて、死なない選択をしたその瞬間、一瞬前のわたしが死んでいるのかもしれない。わたしはそれは幸せに、生きていてよかったと思

          死の中に生きている

          私の解離体験―正常解離について考える

          この頃、解離という現象に関心があり文献を読んでいると、小・中学生の頃の私が体験していたことに近しい内容が書かれているということあり、大変興味深く思う。しかしそれはいずれも病的な解離ではなく、心の機能としての正常な解離であると考えられる。 『こころの科学』221号において、柴山雅俊氏は解離症の症状を、空間的変容に基づく症状、時間的変容に基づく症状、精神病様症状の三つに大分している。さらに空間的変容について、「「いま・ここ」にいる自分を「世界の中の存在者としての私」と呼び、他人

          私の解離体験―正常解離について考える

          改めて自己紹介

          noteを始めた頃一度自己紹介をしましたが、その頃からは色んなことが変わっているので、改めて自己紹介します。 私は臨床心理学を専攻する21歳の大学院生です。 感受性の個人差、フォーカシング、ターミナルケア、グリーフケア、身体疾患を持つ方の心理的支援などに関心があります。 それから私自身発達に特性を持っていたり、家庭環境に色々思うところもあります。 昔から考えついたことを文章にすることが好きで、noteをはじめた理由もそんな感じでした。 ちょうど1年前の大学4年生の冬、父親

          改めて自己紹介

          悲しみに形を持たせること

          父を亡くして1年。 今回は、私が愛する人を失った悲嘆を受け入れようとする中で考えたことをお話しする。 約3ヶ月前、重度訪問介護のアルバイトを始めるため、資格を取得した。その後紆余曲折あり、結局そこでは働かず、心理系オフィスでのアルバイトを開始することになった。 新しいバイトは、自分の目指す道筋と直接関わっている分野であるし、待遇もよく、とても充実している。そこで、重度訪問介護をやろうと思った当時の私について、少しだけ、思いを馳せた。 重度訪問介護では、ALSなどの難病を

          悲しみに形を持たせること