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自分にないものを持っている人

人は自分にないものを持っている人に惹かれうる生き物だ。それは自分がそうなれたらいいと思うのになれないから、その人への憧れを通して自分を補完しようとする試みのように私には思える。その人のようになれない自分の弱さ未熟さに苦しみながら、関わるたびに痛みを感じながら、充電器みたいに自分にその人を挿し込んで、生命の動力を補充することができる。しかし充電される体制が整っていないと、生命の動力を受け止めきれずショートして、憧れは憎しみに変貌する。

好きすぎて嫌いとはよく言ったもので、好意や憧れは嫉妬や憎しみと紙一重。せめてものその憧れの人から全身全霊で愛されたならば、こちらが返すかはまた別問題として、自分の側の痛み苦しみは切り捨ててしまうこともできるのだろうが、そういう人に限って自分を愛さないとわかっているから、そもそも惹かれるのだろう。

私は人からそういう好意を向けられると、それをどこかでわかって、とりあえず愛してしまうところがある。そうすると、向こうは何だか満足げに、私を切り捨てようとし始めるから、私はそれをいい頃合として、若干の距離を置く。私のずるさを見破って、いっそ罵倒してくれたらいいのにな、と他力本願で背を向けて歩き始める。私は愛情深く素直な振りをしながら、蛇のように生きることしかできない虚しい人間だ。

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