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冬の煙草

冬に外で煙草を吸うと、吐いた煙がどこまで煙で、いつから息に変わったのかわからないから、何となく長く吐き出したくなる。そして吐き切ると今度は深く息を吸い込むことになるから、冬の空気と煙の残り香が私を透過して私の中でじんわり溶けていく。

私は冬と一体化して、その瞬間一人の温もりを知る。孤独は人と生きる人にしか生まれ得ない。孤独はその中核にランタンのような明かりを灯して私を包むヴェール。そうして私に、不思議な暖かさをもたらす。

煙草を吸うと、生きていてもなあ、というどうしようもない寂しさが、煙と共に癒えていくのだけど、それが煙のもつ効果か、有害物質の為せる技か、口の感覚の話かわからず、ずっと考えていた。最近、すこしわかった気がする。

煙草を吸うと、一人でいるのに、誰かといる気持ちになるのかもしれない。それは、誰かと煙草を吸うとき、誰かといるのに一人でいる感覚になるのと、似ているのかもしれない。煙草には思い出が詰まってる。誰かと過ごした時間や感覚や、空気や、あたたかさや楽しさ、切なさが、匂いによって喚起されるから、一人ではない気がしてくる。そんなように思える。

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