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#エッセイ

午前休をとって、ワクワクさんに会いに

午前休をとって、ワクワクさんに会いに

会社には「私用のため午前休を頂きます」と伝えておいた。この場合の私用とは、ワクワクさんに会いにいくことだ。私用とは便利な言葉である。
行く予定もない土地に建つ建物の3Dモデルを立ち上げるのもちょっと飽きてきたので、とてもよい気分展開になりそうだと思った。

壇上にはワクワクさんがいて、その手前には子どもたちがきちんと列をつくって座っている。家では落ち着きのないうちの息子もいて、集団生活をちゃんとや

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奄美の残像のなかで

奄美の残像のなかで

千葉に戻ってから、奄美の残像のなかにいる気がする。

沈んでいく太陽が浮かび上がらせる山のシルエットだったり、そこいらに生えている葉っぱの野生みのある色や形だったり、集落で会う人たちの穏やかさだったり、庭でひらひらと戯れる蝶々だったり。

奄美では、雨が唐突に降り、唐突に止む。わたしたちは抵抗することもできずに、ただ受け入れるしかない。人間は蝶々のように儚く、弱い。

縁側に出て、宙を眺めて、そこ

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窓から入り込んだ、まっくろくろすけ

窓から入り込んだ、まっくろくろすけ

夫に先立たれたある女性は、その家で亡くなった夫に話しかけながら生活を送っていた。その場にいないはずの夫ではあるけれど、彼女のなかに、あるいは、その家のなかに夫はいて、夫に話しかけることが彼女にとって癒しになっていた。
やがて、彼女の元にも病が訪れ、彼女は家から離れた病院に入院することになった。入院してしばらくして、彼女はこう言った。「病院には夫は付いてきてくれなかった」

たしかこんな話しだった。

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ミニストップの駐車場にある幸せ

ミニストップの駐車場にある幸せ

たぶん、これ以上の幸せはもうないだろう。
週末の昼下り、家族で車で出かけた帰りに、ミニストップの駐車場でソフトクリームを食べながらそう思う。最近、毎週のようにそう思う。悲観的でもなんでもなく、単純にそう思うのだ。

たとえば、天国というものがあって、そこは見たこともないほどの美しい景色で、そこに流れる音はこれ以上ないほど心地良く、食べ物もすばらしく美味しいとしよう。だけれど、そこに住まう人の幸せは

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中谷美紀と、綺麗な言葉で溢れる世界について_2021.12.18

中谷美紀と、綺麗な言葉で溢れる世界について_2021.12.18

テレビに映る彼女はただの綺麗な女性で、僕にとってはそれだけだ。それにテレビに映る女性は大抵が綺麗だし、美人というのは顔の均整がとれている、つまり特徴が少ないということだから、それもあって彼女はさらに印象を残さず、ただ僕の脳裏を通り過ぎていく。

だけれど、テレビに映る彼女には、テレビが排除したはずの何か翳りみたいなものがほんの少しその表情のなかに沈んでいた気がして、それがぼくにとっては少しばかりの

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ZORNを聴いて思うこと/2020.12

ZORNを聴いて思うこと/2020.12

12月は、慌ただしさのなかで日々がいつのまにか過ぎていき、気が付いたらなんとも言えない余韻を残して、無理やり年が終わっていく。毎年そんな感じがする。

発せられることのない声転職して2ヶ月程経った。
この辺になってくると、同僚たちの個性とその裏側のストーリーも少しずつみえてくる。
僕たち設計者の仕事は地味だ。あくまで建物を設計するものとして存在しているので、スター建築家でもなければ、僕らの個性とい

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