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小説『サークルアンドエコー』

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近未来のヒューマンドラマ 「輪廻から抜け出さないと、私たちは生きたまま死んでしまう」
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終章「輪廻」 小説『サークルアンドエコー』

終章「輪廻」 小説『サークルアンドエコー』

 ……さて。
これが私とエリーの第三ステップ。今思うと、無茶だろってくらい怒涛の勢いで突き進んでいたね。
 運命からは逃げられない。けれど、運命を自分のものにしてしまうことはできる。そうすれば、私が運命を捕まえて逃がさないのだ、という強い気持ちになる。
 ……私たちは過激だったよね、絶対。宇宙船に忍び込んでハイジャックするなんて犯罪だもん。宇宙空間に放り出した男は今頃何をしているかしら。
時は巨大

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第十八章「革命」 小説『サークルアンドエコー』

第十八章「革命」 小説『サークルアンドエコー』

 機体が震え始めた。機体を支えるアームが次々と外れ始めた。人々の喚き声は轟音でかき消され、地球との接続が一つずつ途切れていく。
「皆さま、いよいよ火星移住計画の最終段階にきております。この宇宙船が地球を離れ、火星にたどり着いた時、我々人類は新たな歴史をこの宇宙に刻むことになるのです」
「――しかし、前回は宇宙空間にいく前にエンジン部分が爆破……」
 宇宙船は震えたまま白煙を噴き出し飛び跳ねた。
 

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第十七章「行動」 小説『サークルアンドエコー』

第十七章「行動」 小説『サークルアンドエコー』

 そこからの展開は、私自身でも自分が行動したとはにわかに信じがたい、冒険譚と呼んでも許されるくらいに壮大なものだった。SFチックで、おとぎ話のようにゆるやかで、夢でも見てるみたいに不完全で幻想的だった。
 空き缶を持ってエリーの家に帰ると、エリーは安堵の表情を浮かべて駆け寄り、ハグをしてくれた。それで十分。心の隅の隅にもしかしたら残っていたかもしれない微かな後悔すら綺麗さっぱりと消え去った。
 夕

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第十六章「決別」 小説『サークルアンドエコー』

第十六章「決別」 小説『サークルアンドエコー』

 エリーと暮らす一週間はあっという間に過ぎ、いよいよ計画の実行が明日に迫っていたその日、私は実家に忘れ物をしていることを思い出した。
「何を忘れたの?」
「空き缶よ。この間古着屋で買った」
 どうしてあれほど大事なものを忘れてしまったのだろう。あの空き缶は、地獄のような私の部屋で今も白色の魔物たちと一人で戦っているのだ。そう考えると、救出したくてたまらなくなった。
「家に取りに帰るの?」
 私は頷

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第十五章「至福」 小説『サークルアンドエコー』

第十五章「至福」 小説『サークルアンドエコー』

 ずぶ濡れになって帰ってきた私を見て両親は驚きのあまり飛び跳ね、心から私を心配して接してくれたけれど、私にはそれを跳ね返すだけの覚悟があった。
 風呂に入り、晩ご飯を食べ、次の朝。風はまだ強烈だったが、雨が止んだタイミングを見計らって、私は荷物を持って家を出た。
 学校にいくわけではない。学校の前ではエリーが笑顔で待っていて、二人は並んで学校からも私の家からも遠ざかった。
 エリーの家は、六丁目の

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第十四章「交錯」 小説『サークルアンドエコー』

第十四章「交錯」 小説『サークルアンドエコー』

 近年でも稀に見る規模の台風だった。空が黒色の雲で覆われる前からまず風が猛威を振るい出し、トウモロコシ畑の全てを刈り取ろうと意気込んでいるようだった。家の壁にも強風が打ちつけてガタガタと揺れた。お隣さん家の手作り犬小屋があっという間に吹っ飛ばされてどこか遠方に消えていった。家を失った犬の虚しい泣き声が風のビュウビュウという音の中に混ざっていた。「犬なんて飼うからだよ」とお父さんは意味のわからない発

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第十三章「願望」 小説『サークルアンドエコー』

第十三章「願望」 小説『サークルアンドエコー』

「私はエリーになりたい」
 唐突に私はエリーに言った。エリーは驚かなかった。微笑すると、私を真正面から見つめた。私は慌てた。
「いや、その、確かにエリーの顔は小さくてめっちゃ綺麗だけど、そういうことじゃなくてさ、その――」
「わかってる。でも、それなら私は環ちゃんにならないと」
「え」
「私たちは、そういう存在だと思うの」
 エリーは悲しげにそう言うと、下唇を噛んで俯いた。
 悲痛な沈黙に身を置き

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第十二章「限界」 小説『サークルアンドエコー』

第十二章「限界」 小説『サークルアンドエコー』

 当然、授業後にエリーと空き教室で会話をしていたら部活に遅れるわけで、私は最初の挨拶やウォーミングアップを欠席するようになっていた。最初の方はいちいち理由をつけて自分の正当性を保っていたが、いつからかそれをやめ、単純に遅刻する最低なキャプテンに成り下がっていた。もちろんその後の練習はちゃんとやったし、キャプテンとして振舞った。私の実力と立場があったことは事実だから、後輩はもちろん雨ちゃんを始めとす

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第十一章「理屈」 小説『サークルアンドエコー』

第十一章「理屈」 小説『サークルアンドエコー』

 そういえば、季節でさえも必ず夏からは秋になる。秋からは冬にしかならない。この時代でも日本には辛うじて四季があった。
「それでも美しいよね」
 私がそう言うと、エリーは肩をすくめた。
「それでも悲しいわ」
 三年生が卒業したら一年生が入ってくる。一年生が二年生になったら、二年生は三年生になる。
「当たり前よね」
「当たり前でしょ」
 エリーは非難がましく言った。
 戦争、戦争、戦争、戦争。歴史の教

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第十章「古着」 小説『サークルアンドエコー』

第十章「古着」 小説『サークルアンドエコー』

 決勝戦までは二週間あった。一日だけ貰えたオフに、私は雨ちゃんを買い物に誘った。普通に買い物がしたくて友達の雨ちゃんを誘った、というありきたりな構図だ。だが、誘った私も承諾した雨ちゃんも、前回の試合が脳裏に刻み込まれていたことは確かだった。
何の策略もなかったが、二人で並んで歩くだけで知らず知らずのうちにこの不気味なぎこちなさは解決されるんじゃないかな、と私は能天気に思っていた。そもそも先日の試合

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第九章「亀裂」 小説『サークルアンドエコー』

第九章「亀裂」 小説『サークルアンドエコー』

 私はマスクを外して、投手――雨ちゃんの元に駆け寄った。雨ちゃんは虚ろな瞳で額の汗を拭った。
「雨ちゃん落ち着いて、まだ準決勝。相手の実力なんか大したことないよ。いつも通りの球を投げればいい、大丈夫よ」
 いつも静かに頷き、笑顔を返してくれる雨ちゃん。私たちは最高のバッテリーだと確信できる瞬間で、調子が悪い今日も、二人でなら乗り越えられると信じていた。
 しかし、雨ちゃんは協力的とは思えない目で私

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第八章「迷走」 小説『サークルアンドエコー』

第八章「迷走」 小説『サークルアンドエコー』

 私たち三年生にとっての最後の大会が始まった。私たちは一丸となって努力に努力を重ねて練習した。いい手ごたえはあったし、先生も創立史上一番のチームだと毎日のように言ってくれた。私と雨ちゃんの相性も最高。外野には頼もしい冬音もいる。緊張より期待が大きかった。
 下馬評通り、私たちのチームは予選を易々と勝ち抜き、他の学校からは驚愕の眼差しを受けた。
 しかし、チームが勝ち進むにつれて、私は奇行の衝動にか

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第七章「侵食」 小説『サークルアンドエコー』

第七章「侵食」 小説『サークルアンドエコー』

 あの日を境に、エリーが私に喋りかけてくれることが増えた。私のエネルギーを彼女が吸い取って、私が少し落ち着いて、エリーが少し活発になった気がする。二人の関係性の均衡がとれていた。それまでうまくいかなかったのは、私の空元気が原因だったということだろう。これが二人にとって正解のバランスだった。
「環菜さん、おはよう」
「環菜ちゃん、おはよう」
「環ちゃん、おはよう」
 段々と呼び名も変化を遂げ、ついに

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第六章「問答」 小説『サークルアンドエコー』

第六章「問答」 小説『サークルアンドエコー』

 とある日の部活帰り。私はキャプテンなので、居残って先生と練習方法や今後の大会について打ち合わせをしていた。結局ここで話したことはそのまま雨ちゃんに伝わり、雨ちゃんが影キャプテンとして躍動するわけで、この居残りがとんだ時間の無駄であることを先生は知らない。
 屋根つきグランドから出た時には既に日が落ちていた。先に帰るよう伝えていたので雨ちゃんたちはいない。
暗くモヤモヤした夜闇を一人で帰る。学校の

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