見出し画像

第十三章「願望」 小説『サークルアンドエコー』

「私はエリーになりたい」
 唐突に私はエリーに言った。エリーは驚かなかった。微笑すると、私を真正面から見つめた。私は慌てた。
「いや、その、確かにエリーの顔は小さくてめっちゃ綺麗だけど、そういうことじゃなくてさ、その――」
「わかってる。でも、それなら私は環ちゃんにならないと」
「え」
「私たちは、そういう存在だと思うの」
 エリーは悲しげにそう言うと、下唇を噛んで俯いた。
 悲痛な沈黙に身を置き、そこからどう脱出しようか考えていると、私のスマホが振動した。
 ソフトボール部のグループラインだった。雨ちゃんから全員に向けたメッセージだ。
「決勝戦について監督から話があるみたい。三年七組集合」
 決勝戦はいよいよ今週末に迫っていた。今更緊急で話すことはない。誰か怪我でもしたのだろうか。エリーと別れ、私は多少イライラしながら七組に向かった。
 監督が深刻そうな顔をしていたせいで、部員一同も緊張して背筋を正したが、その内容自体は大したことではなかった。
「今週の決勝戦だが、台風の影響で会場までいくのに危険があると判断され、一週間後に延期になった」
 一瞬の間があった後、皆は胸を撫でおろした。
「ちょっと、監督、そんな怖い顔で言わないでくださいよ。一体何かと思った!」
「焦ったぁ!」
 と冬音。皆も口々に騒ぎ出し、和やかなムードが戻ってきた。

 さて、ここまでが私たちの第二ステップ。そうよね? なんというか……モヤモヤしていた。言葉のニュアンスにちょっとした違和感を抱いたかもしれないけれど、そうね、私の記憶がその時の監督の顔や皆の表情を現実とは違う印象として捉えているかも。この時の私は、メトロノームのように左右をグラグラと揺れていたから。
そして、もし決勝戦が台風で延期になっていなかったら、私の人生は順路通りの素晴らしい出来になっていたかもしれないね。
























この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?