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11月10日 鮫駅(青森県)~変わりゆくもの変わらないもの~

海に思い耽った私は、駅へと戻る。ホームに立っていると「プワーン」と遠くから汽笛を響かせて、レールの両側のススキをカサカサと揺らしながら、八戸行きが入ってきた。列車は情感で走っているわけではないが、妙に哀愁漂う。

次は鮫駅である。朝来た道を戻ってゆくが、相変わらず海は広い。やがて鮫に近づくと蕪島が車窓に見えてきた。ウミネコの繁殖地として、天然記念物にも指定された島だ。頂上には漁業の守り神である蕪嶋神社があるが、火災で焼失した拝殿は再建されていた。私が知らない変わりゆく光景である。

10時38分鮫駅着。私以外には1人下車があった。多くは八戸、青森へと急ぐ乗客で車内は色めいているが、降りてしまえば実にのんびりしたものである。

すぐに窓口で買い求めれば良かったのだが、11月10日の開業記念日にあやかり、11時10分で入場券を買おうと時間を待つ。入場券には実用として時間制限があり、そのためにきっぷの券面に時間が記されるのだ。誠に稚拙な考えすぎて申し訳ないのだが、一度外に出て、久しぶりに訪れた町を歩いていた。

やがて時間が近づき、駅へと戻るが、明日、神奈川へ出張するというビジネスマンのきっぷ発券に駅員が丁寧に応えていた。そのため、惜しくも私の番が来たのは11時12分であった。少し駅員さんと話をしていると時間は過ぎ、11時20分で入場券は発券された。
「どうしても一人でやっているもので、色々と申し訳ありません」と言葉を頂くのはかえって恐縮してしまうが、私が購入を終えると、窓口のカーテンが閉まった。11時20分から1時間は休憩と裏方事務作業の時間であった。

後ろ髪を引かれる思いではあったが、明日の朝に仕事に戻らねばならないのと、仙台で知人と会うことにしていたので、これで私は鮫を後にした。
駅や町の様子は私の記憶とはそう変わってはいなかった。それでも時間は流れ、どんなものでも少しずつ日々変わってゆくのだろう。

鮫駅(さめ)-大正13年11月10日開業 開業98年


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