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校長の頭の中【後編】 | 教員はデザイナーであるべき -「人間力」向上と全日制高等学校の魅力

創立120周年を迎える学園の歴史を重んじつつ、世の中に合わせた変化を遂げている品川学藝高等学校。

特に校長・若林彰が着任してからこの2年は変化が加速している。「教員は生徒一人ずつに合わせた教育を提示するデザイナーとなるべき」という若林校長は、校則の見直しにも着手した。

どのような想いで日々生徒や教職員に関わり、学校経営にあたっているのかを知るべく、若林校長にインタビュー。その様子を「校長の頭の中」と題し、2回に分けてお伝えする。(前編はこちら

インタビュー後編では本校が目指す「人間力」とはどのようなものなのか、そして特色ある教育を「全日制」で行う魅力は何かなど、教育活動全体をリデザインしている背景に迫った。(取材・文 荒川ゆうこ)

知性とは、知識だけではない

- 「知性と感性の融合」を教育理念として掲げています。校長先生はどのように捉えているのでしょうか?

「知性と感性の融合」は三浦理事長がよく口にする言葉で、建学の精神「愛と和と誠実」と同様に大切にしている教育理念です。

「知性」は「知識」とは異なります。知識を磨くことはもちろん大切ですが、知性には問題解決能力や人間関係のスキルを含みます。そしてさらに様々な「経験」を重ね、人間性が加わったときに形成されるのが「知性」と捉えています。

また「感性」は生まれ持った直感的なものや美的感覚として捉えられていますが、知性同様に知識や経験が加わった時に「感性」が形成されると考えています。

異なる領域である「知性」と「感性」を融合させて初めて「人間力」※が高まるというのが本校の核となる考えです。

※ 人間力
社会を構成し運営するとともに、自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」であると明確に定義されていて、「知的能力的要素」「社会・対人関係力的要素」「自己制御的要素」の3つで構成されるものとされています。

内閣府「人間力戦略研究会報告書」

- 「知識」は学べば身に付けられるものですが、「知性」に変換するにはどのようにすればいいのでしょうか。

「知識」を「知性」にするには、他者との関わりの中で実際の本物の体験を積む必要があると考えます。インタビュー中も、生徒たちがバイオリンの練習をしている音色が聴こえてきます。これも一つの実地体験ではあるけれど、一人で練習しているだけでは知性は高まらない。上達したものを、一人部屋の中で弾き続けているのではなく、他者と共有することで人間性が加わり、はじめて「知性」や「感性」が磨かれます。

他にも修学旅行においても、ただ観光で終わらせるのではなく、実際の本物の体験を加えることにこだわりました。自分たちで足を運んで、聞いて、肌で感じて、という学びに昇華させたかった。教育活動の中では本物の体験を大切にしています。

学習指導要領においても、生徒たちの育成すべき資質・能力として
「知識・技能」
「思考⼒・判断⼒・表現⼒」
「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)
」を挙げています。


この学力の三要素からも分かるように、知識・技能を身につけ、どう思考・判断し表現していくのか、そして自分はどこにモチベーションを感じ、学びをどう使って社会に向かっていくのか。知識を得るだけに留まらず、知性に変えて活用することが大切とされています。

- 「知性と感性の融合」が歴史ある音楽科での学びには欠かせないものだったのですね。2023年度からは新たにeスポーツエデュケーションコースとリベラルアーツコースを新設します。長く芸術の学校として知られてきたので、違う分野への挑戦に驚かれる方もいるかもしれません。

新設のeスポーツエデュケーションやリベラルアーツでも「知性と感性の融合」は必要です。今回新設するコースは確かに芸術分野ではありませんが、教育の方向性としては同様だと捉えています。

本校のバレエ専攻には文“舞”両道という言葉があります。英語や数学などの一般教科についてもしっかり取り組みながら、バレエへの理解、表現力を深め、実力を伸ばしていく。ほかのコースや専攻も同様で、本校は学業と専門分野の両立をめざす教育を行ってきた学校です。eスポーツエデュケーションコースの場合はそれが学業と情報分野の両立となります。学校設定科目でeスポーツやそれに関する理解を深めていくと、ゲームの技術的な学びも然る事ながら、コミュニケーション力、創造力や企画力など、さまざまな力が身に付くでしょう。それらは必ず学習全体を高めます。

本物の体験を大切にしながら「知性と感性の融合」を通じて人間力の向上を目指す教育は、新設するコースでも同様です。

全日制高等学校だからこそ身に付く力

- eスポーツを全日制高校で学べるコースは本校が日本初ですが、通信制高校では学べる学校が多数あります。若林校長は、全日制高校で学ぶ意義や良さは何だと思われますか。

全日制高校で、より全人格的な教育を進めたいと考えています。成長し続ける子ども達のことを考えると、生徒たちに学ばせたいことは義務教育だけではなく、16歳から18歳の時期に、知性も感性もさらに伸ばす必要があります。

バレエをやりたい生徒にはバレエを、勉強をやりたい生徒には勉強を、というように、生徒のやりたいことを学ばせる環境が高校時代にも重要です。そういう点から通信制高校も、個性的な授業を行っている学校もありますし、自分の興味関心のあることに多くの時間を使えるので魅力的です。

またオンライン教材などを筆頭に、知識を得るだけならいつでもどこからでも簡単にアクセスし、吸収できるようになりました。新しい知識が次々に生まれる時代ですから、従来の教育のスタイルである、教員が知っていることを生徒に教えるという教育だけでは成立しません。

これからの世の中では、教員は学びのデザイナーとして関わることが必要でしょう。たくさんの情報から生徒に必要なものを選び、より効果的な学びができるよう、生徒の学びをデザインする関わりが、今後の教育者には求められるのです。

- 校長先生は、全日制高校である品川学藝高校で生徒たちの「人間力」を向上させる教育活動の先に、どのようなことを願っているのでしょうか。

学校教育の中で、生きていく上で必要なものの大半を伝えることができた時代もありましたが、今はそうではありません。学校で教授しきれないとなると、生徒につけてあげるべき力は、変化に富んだ時代に対応するためのモチベーションや、新しいものに対して立ち向かっていく力です。

品川学藝高等学校では、学校設定科目で生徒のやりたいことに合わせて個性を伸ばしつつ、学業との両立ができるようなカリキュラムを構成しています。また全日制高校で、同じものに関心のある生徒と一緒に学べる環境は素敵です。

バランスよく学び、一人で知識を得る学びだけでは得難い人間力向上をめざす。そしてより全人格的な学校教育を行い、関わる生徒すべてに最高の教育環境を提供したいと考えています。


校長の頭の中【前編】はこちら▼


●品川学藝高等学校について
学園創立120周年を迎える2023年を機に、日本最古の私立音楽学校をルーツとする日本音楽高等学校が生まれ変わりました。校名は品川学藝高等学校、男女共学校として新たに出発します。建学の精神に「愛と和と誠実」を掲げ、知性と感性の融合を通した「人間力」向上を重要目標とする教育を実践。設置コースは普通科(リベラルアーツコース、eスポーツエデュケーションコース)と、音楽科(ミュージックコース、パフォーミングアーツコース:バレエ専攻、ミュージカル専攻)の2科4コース。大学受験対策を校内で完結できるよう、外部教育機関の校内予備校を設置するほか、学費無料制度など支援体制が充実しています。またリニューアルする新制服はファッション誌「FUDGE(ファッジ)」とのコラボレーションです。


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