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ウーパールーパーのエサ代用|ゲーム性にしか興味がなく、生き物の命に無関心だったわたしがネット検索するまで

「どうしよう。もうダメだ。この子を死なせちゃう。ウグ、ウググググ」

人前で決して泣いたことがない親友が絶望感に打ちひしがれて、嗚咽を漏らしていた。

* * *

「あと1㎝くらい右。気持ちもう少し奥」

辿ること1時間前、親友とわたしは大型ショッピングモールの中にあるゲームセンターの中にいた。

そこのUFOキャッチャーの景品の一つが≪ウーパールーパー≫だったのだ。もちろん、生きている。

犬も熱帯魚も鳥も飼っている大の動物好きの親友は、早速、そのUFOキャッチャーに挑戦してみることにした。

それは、あわよくばウーパールーパーを安く手に入れられるかもしれないという下心や邪心があってではなく、UFOキャッチャーの中で展示されているウーパールーパーが不憫に思えたからだ。

「水温やエサは大丈夫なんだろうか」

展示されているウーパールーパーを愛でるというよりは、泣きそうな表情で親友はウーパールーパーをじっと見つめた。

ゲーム自体は、ウーパールーパーの写真が貼られたカードをアームで吊り上げて、そのカードを穴に入れたら、スタッフが展示されているウーパールーパーが入ったミニ水槽ごとプレゼントしてくれるようになっていた。

「さっきよりは、気持ち左で、気持ち手前で」

わたしはUFOキャッチャーの真横に立って、アドバイスし続けた。

500円で3回チャレンジできるのだが、100円玉がどんどんUFOキャッチャーに吸い込まれていった。その都度、わたしがゲームセンター内にある両替機に走り、1000円札を100円玉10枚に両替した。

何度目かのチャレンジで、ウーパールーパーの写真が貼られたカードを吊り上げて、そのカードが穴に入った。親友の代わりに急いでスタッフを呼びに行った。

スタッフは、カギを使ってUFOキャッチャーのケースを開けると

「どのウーパールーパーがよろしいですか」

と親友に聞いてきた。

「この子です」

親友が指差したウーパールーパーをスタッフが取り出すと、ミニ水槽ごと

「おめでとうございます!」

と言って渡すと、すぐにUFOキャッチャーにカギを閉めてスタスタと行ってしまった。

「えさ……くれなかった」

親友がポツリとつぶやいた。

「他の子たち、ごめんね!」

と、UFOキャッチャーに残されたウーパールーパーたちに名残惜しそうに別れを告げると、親友は突然駆け出した。

「シイラさんも急いで!」

訳が分からないまま、親友を追って駆け出した。

* * *

「ペットショップに行くよ!」

親友が運転する車に飛び乗ると、開口一番に親友がそんなことを言い出した。

「でも、今、午後9時15分前だよ。ペットショップ閉まってるんじゃあ?」

「いいから、行くの! じゃないと、この子が死んじゃう」

UFOキャッチャーでゲーム性だけ楽しんでいたわたしには、その後の動物の生についてまで考えていなかったことに気づかされた。

ペットショップの駐車場に着くと、親友がバックで車を停めている間に、わたしは閉店間際のペットショップに駆け込んだ。

「すいません! ウーパールーパー専用のエサはありませんか?」

先ほど親友といた車内で聞いたばかりの単語を声に出した。

「申し訳ありません。当店では取り扱いございません」

「ウーパールーパー専用のエサって無いって」

親友は、似たようなエサが売られているコーナーを一瞥した後

「次、行くよ」

と駆け出した。カーナビで、今からでも間に合いそうなペットショップに向かった。

「ほんとうに『ウーパールーパーのエサ』なんて、そんなドンピシャな商品があるの?」

「うん。聞いたことがあるの」

2軒目のペットショップはシャッターが閉まりかけていたが、半ば無理矢理入った。

が、しかし、そこのペットショップにもウーパールーパーのエサはなかった。

親友は力なく車に乗り込むと、ペットショップの駐車場をあとにして、人気の無い車道の路肩に車を停めた。

「ウーパールーパーをUFOキャッチャーから救い出したいなんて、おごっていた。エサのことまで考えていないなんて、失格だ」

親友は酷くうなだれていた。

「明日、もっと大きなペットショップに行って、そのウーパールーパーのエサとやらを買えばいいじゃない? 今晩一晩くらいエサがなくても大丈夫だよ」

わたしは落ち込んでいる親友を慰めようとした。

「仕事が忙しすぎて、3日間は買いに行けない。どうしよう。もうダメだ。この子を死なせちゃう。ウグ、ウググググ。わたしがUFOキャッチャーから出さなければ、まだまだ生きられたのに」

車内に親友の嗚咽だけが漏れていた。

「なんか、全然意味が分からないんだけど、読み上げるね」

「う、うん?」

うなだれて泣いている親友の横で、ガラケーの画面に書かれている内容を棒読みした。

「冷凍アカ虫、冷凍イトミミズ、沈下性の金魚のエサ……、なにこれ。そんなのないよね? 家に」

「あるよ。あるよ、全部」

「『ウーパールーパーのエサ代用』で検索したら、出てきたんだけど」

「なに!? なになになに! 見せて」

親友がわたしからガラケーを奪うように取ると、画面を何度も何度もスクロールして食い入るように読んだ。

「生きられる! ありがとう!」

先ほどまでドップリ落ち込んでいたのが信じられないくらい、親友は破顔して笑い出した。

【あとがき】数年前に実際あった話に、上記のサイトを参考にして仕上げました。

しかし、自宅の冷凍庫に、アカ虫やイトミミズが常備されているなんて。

ところで、沈下性(ちんかせい)って、なに? 金魚のエサでも水に沈むのがあるんだ。

親友といると、知らない世界をたくさん見せてくれます。

まさか、自分が「ウーパールーパーのエサ代用」をネット検索する日が来ようとは、予想だにしませんでした。

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