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シンプルに怖い!王道の恐怖演出とエグすぎ特殊メイクが冴え渡る良作ジャパニーズホラー「編集霊 deleted」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(778日目)
「編集霊 deleted」(2022)
千葉誠治監督
◆あらすじ
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撮影が終わったばかりのホラー映画「damned caves」の仕上げ作業が下っ端のアシスタントプロデューサーの良成と編集助手の和佐に任されることになった。編集を始めた和佐は洞窟のシーンに謎の白い物体が映り込んでいるのを発見し、上司である朽海に相談する。朽海はろくに確認もせずにそのカットをボツにし、別カットを使用しろと命じる。しかし、その晩に朽海が何者かに惨殺される。プロデューサーの菊池は朽海が死んだことも構わず、仕上げを続けろと良成と和佐に命じるが、さらなる殺人が起こってしまう。(映画.comより抜粋)
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公式サイト↓
『不可解なモノが映り込んでしまったホラー映画に携わるスタッフが次々と凄惨な死を遂げる…』という、ジメジメした雰囲気が漂う王道のジャパニーズホラーです。
60分程の短い作品なので物語の深みや視聴後の余韻を楽しむというよりかは、作中の恐怖演出やあまりにもエグいグロ描写と特殊メイクを堪能するというスタンスで見た方が良いかもです。
もちろんストーリーも十分に面白いんですけど、個人的には怖いシーンのインパクトが凄すぎて、そちらの方が印象に残りましたし、なんならそういう怖いシーンだけ見返したくなりました。それくらい凄いです。
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何を隠そう今作のハイクオリティな特殊メイクを担当されたのはTVチャンピオンの第7回特殊メイク王(’07)で優勝した実績を持ち、90年代から現在に至るまで数え切れない程の映画、ドラマ、PVなどに携わってきた特殊メイク界の大御所•梅沢壮一氏です。
同氏は高校時代より独学で特殊メイクの勉強を始め、卒業後には某美術大学を受験するも3年間の浪人生活を経ても願いは叶わず。地元映画館で映写技師として働きながら、23歳の頃からフリーランスとして特殊メイクの仕事をスタートし、その後は様々な特殊メイクや特殊造型の会社で経験を積んでいきました。
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1997年にはご自身の工房(CUL:Creation of Unknown Livings)を設立。TVチャンピオンの出演等を経て、2009年に株式会社ソイチウムを設立しました。
2014年頃からは監督業も始め、主に短編作品を手掛けておりますが、2017年に発表した長編「血を吸う粘土」はトロント国際映画祭2017においてミッドナイト•マッドネス部門招待、テキサス•ファンタスティックフェス2017ではホラーフューチャー部門の特別賞受賞、スペインシッチェス•カタロニア国際映画祭2017にも招待等など、世界的にも高い評価を受けました。
こちらもアマプラやDMMTV等で視聴可能なようなので近いうちに見たいと思います。ちなみに同氏は今作では特殊メイクの他に脚本と演出協力でもクレジットされています。
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そして、そんな極上なホラー描写の数々を見せてくれる今作で監督•原作•脚本•編集を務めたのは千葉誠治氏です。
同氏はロサンゼルス•シティー•カレッジの出身で、帰国後は自主制作の映画に携わったり、映像制作会社にてプロデューサー業なども務めました。
2003年頃からは海外に向けて主に忍者映画を数多く製作し、2010年に世界20カ国で公開された「AVN/エイリアンVSニンジャ」はその奇抜な設定が海外で大ウケし、アメリカからはリメイク化権の購入依頼が殺到したそうです。
エイリアンも登場するようなのでこれはギリギリホラー映画でしょう。こちらも近いうちに見させてもらいます。
2012年あたりからはホラーの分野も開拓し、舞台俳優や声優等をキャスティングするなど、唯一無二の世界観を確立しているクリエイターです。
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あとこれは余談なんですけども、私は今作を見ていて、2000年代にフジテレビの深夜枠で時たま放送されていたオムニバスのホラードラマ「トリハダ〜夜ふかしのあなたにゾクッとする話を」を思い出しました。
深夜の放送にも関わらず、“あまりにも怖い”と口コミで広まり、シリーズ化。なんと劇場版が2作も公開され、あのネットミーム化もしている伝説の「責任取れよ♡」はこれ発信です。
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今作のジメジメかつ少々理不尽なテイストがなんとなくトリハダに近しいように思いました。なもんでトリハダのファンの方は今作も好みだと思います。
現在Amazonプライム、U-NEXT、DMMTV、FOD、hulu、Leminoにて配信中です。
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◇ホラー映画「damned caves」の撮影が終了し、後は編集作業という段階になった。しかし、監督の切山は次の作品の撮影で手が回らず、プロデューサーの菊池と編集の朽海も次作に駆り出され、若いアシスタントプロデューサーの良成と編集助手の和佐にお鉢が回ってきた。順調に編集作業を進めていた和佐は洞窟のシーンで主演女優•黒川の背後に白い何かが映り込んでいるのを見つけ、朽海に報告する。しかし朽海は碌に確認もせずにそのシーンをカットし、別のシーンを使うよう命じる。しかしその晩、朽海は何者かに顔面を削がれて死亡する。プロデューサーの菊池は予算とスケジュールに追われ、朽海の死など気にも止めず、納期通りに編集を終わらせるように圧力をかける。しかし今度は菊池が朽海と同じような不審死を遂げる。良成、和佐、そして撮影現場でその白い何かを目撃していた若手俳優の須賀原は事件の謎を追うも、そこには恐ろしい真実が隠されていた…
というのが今作の細かめのあらすじです。
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今作は60分程とコンパクトな尺ながら、しっかりと見せたいものを見せている感じがして非常に好印象でした。
ただ、数名の役者さんの声先行の芝居がかなり気になってしまいました。もちろん良いお声なので嫌とかではないんですけど、「感情の流れとか演技云々の前に自分の良い声を聞かせたい」という欲というか演じ手の自我みたいなものが見えてしまい少々引っかかりました。
そういった方々の演技が主に舞台俳優として活動している方々の自然な演技とあまり噛み合っておらず、ここは好みが別れる気がします。
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三枚目のナチュラルな演技がとても良かったです。(https://youtu.be/fYrwlC6Cgbc?si=w4p0NXQH2pQ7e_LQより引用)
尺も限られているため、中弛みするシーンがほとんど無く、“不可解な映像の謎を解き明かそうと奮闘する良成と和佐のパート”と“現地に赴いて調査する若手俳優の須賀原のパート”がポンポンと小気味よく交互に展開するのがとても見やすかったです。
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特に『良成が菊池の自宅で顔面がずり落ちる菊池を目撃して絶叫するシーン』や『須賀原が現地に赴いたことで事件の真相に迫るヒントを手に入れるシーン』なんかはめちゃくちゃ良かったです。
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そんな今作に登場する霊の正体は“俳優として大成する”という夢に敗れた俳優志望の女性の霊でした。
彼女は過去に切山監督の映画のオーディションに参加するも不合格。それに納得がいかない彼女は撮影現場に押しかけ、自分を出演させるよう監督に迫ります。しかし当然のごとく袖にされてしまい、精神的にも参っていた彼女は自死なのか事故なのかは定かではありませんが、その後すぐに亡くなってしまいます。
そんな彼女の“映画に出たい”という生前の思いはあまりにも強く、霊となって映画に映り込んでしまったというわけです。
にも関わらず、そんな事情を知らない朽海はそのシーンをカットしようとしたために恨みを買い、顔面をカットされてしまいます。
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なんですけどもそれ以外の菊池や黒川はなぜ被害に遭ってしまったのでしょうか?
菊池がその該当シーンをカットしようとする描写もなく、「そんなのどうでもいいから早く完成させろ」と言うくらいのものですし、黒川は自身の出演シーンを覗き見しただけです。その白い何かを“キモい”とは言いましたが…
またクライマックスでは事情を察した良成と和佐が該当シーンをカットしないことを約束し、それに安心したのか霊に後光が差して天に召されます。しかしその後、一人で作業をしている切山監督のところへおそらくは殺害目的でやってきているため、監督に対しても恨みがあったと思われます。
これはシンプルにオーディションに落とされたことに対する恨みとも取れますが、もしかしたら『オーディションの後に切山やプロデューサーの菊池に枕営業を仕掛けていたのに落とされた』とか『性的暴行を加えられていた』とかそういったことも想像できます。
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霊は非常に醜い顔をしており、それを能面のようなお面で隠しています。この容姿が元からなのか、それとも暴行を加えられた結果なのか、判断材料はほとんどありません。ですが、歯に矯正器具がついていることから元々容姿にコンプレックスがあったのかもしれません。とすると、枕営業や暴行の線は薄そうです。
シンプルにオーディションに落とされた恨みからくる犯行だったのでしょうか。だとするとラストシーンの霊に対する「オマエか」みたいな感じの切山の素っ気ないリアクションが気になるところではあります。
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この辺りが非常にモヤモヤしました。もう少し尺を伸ばして80〜90分くらいにして霊について掘り下げたバージョンも見てみたいです。サクッと見られる尺ですし、先述したような恐怖シーンやグロ描写は出色の出来ですし、映画の編集現場の裏側みたいなものが見れて楽しいです。面白かったです!
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