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【マークの大冒険】 選択と旅の終点


紀元前44年3月15日、
ローマ市内元老院議場にて___。


マーク「カエサル、ボクらはこれ以上は進めない……」

マークは憂いを帯びた表情で声でそう発した。

カエサル「そうか。では、別れの時だな」

マーク「今ならまだ、引き返せる」

カエサル「それはわかっている。占い師もそんなことを言っていたな。私の身に危険が起こると。だが、ここで逃げる腰抜けは、このまま生きていてもローマを変えることはできない。さあ、今までの報酬だ。俺のコインが欲しいと言っていたな」


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マークの手にカエサルが発行したウェヌス女神のデナリウス銀貨が手渡された。カエサルの手から体温が伝わってくる。生きている。そんな彼がこれからまもなく暗殺されるとは、マークには全く実感が湧かなかった。

カエサル「死など恐れて何ができる」

マーク「カエサル……」

カエサル「この件が片付いたら、お前が言っていたインドより遥か遠く、東の最果てにあるジパング地方に一度行ってみたいものだ。楽園の島国とはな」

マーク「そうさ、ジパングは楽園さ。ボクらは空だって自由に飛べる。地球の裏側の人間とだっていつでも会話できる。24時間開いているお店が数えきれないほどある。それだけじゃない。何だって叶うし、何だって手に入る場所さ。でも、それはキミらが築いてくれた文明のおかげなんだ」

カエサル「そうか、お前のその頼もしい妄想をぜひ確かめたいものだ。ローマを超える国が本当に存在するのか?にわかには信じがたいがな。だが、今はひとまず、あやつらを片付けなくてはな」

瞳「カエサル……!」

瞳は黙っていられず叫び、歩み出した彼の肩を止めようとした。

サポートAIアルテミス「推奨、早急な撤退。これ以上の干渉は、歴史に影響を及ぼす改竄行為となる。改竄を行った場合、後の時代で何が起こるか演算できない。ただちに撤退することを提案する」

瞳「マーク、本当にいいの?このままだとカエサルが......」

マーク「瞳、この先にはボクらは行けない……。これでいいんだ。歴史のシナリオには逆らえない。それに彼が自分の意志で決めたことだ。それは誰にも止められない。ここから撤退し、タイムドライブで帰還する。目的のコインも手に入れることができた。これ以上、干渉するのは良くない」

マークと瞳は元老院議場を後にすると、広場に停めていたタイムドライブに乗り込んだ。

瞳「これで本当に良かったのかな?」

マーク「わからない。でも、歴史の改竄は許されない。後の時代にどう影響してくるかわからないからね。カエサルのような影響力のある人物だと、それこそ180度世界が変わってしまうかもしれない」

タイムドライブは上空にあがると、ローマの街を一周だけ旋回した。美しい街並みがタイムドライブのボディに反射し、鏡のように写っている。これから大事件が起こるというのに、辺りには穏やかな空気が流れていた。これが嵐の前の静けさというものなのだろうか。マークがタイムドライブの操作盤をいじり、現代に時刻を合わせる。機体は虹色の輝きを放ちながら、空気に溶けるようにして時空の彼方に消えた。


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マークは帰還し、無事、自宅の前まで辿り着いた。彼がふと上を見上げると、眩しい青空が浮かんでいた。夏の入道雲の白さがさらに空を眩しくしている。セミがジリジリと鳴き、夏の少し気だるいそよ風がマークの頬をなでていく。

そんなマークを遠くから二人の女性が見ていた。彼女たちはビルの屋上からマークを見下ろし、何やら会話している。


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ジェシカ「無事に帰って来れたみたいだね」

詩瑠久「無難で抗わない、私の人生そのままのような選択」

ジェシカ「ちょっとがっかりしてる?」

詩瑠久「いや、別に」

ジェシカ「それは不服がある時の、別に?」

詩瑠久「さあね」

ジェシカ「あ、それ、ローマコインってやつだ!」

ジェシカは詩瑠久が手にしていたローマコインが目に留まり、指さした。

詩瑠久「私たちの世界じゃ、ただのガラクタだよ。価値を感じようとしない人にとっては錆びついたゴミ。価値を感じようとする人にとっても、所詮は投資の商材にしか過ぎない。あってもなくても、世界にとってさほど重要ではない。私と同じでね」

ジェシカ「ひねくれてるよねー。ねえ、それよりここ、暑くない?かんかん照りだし。私、焼けたくないんですけど」

詩瑠久「そうだね、帰って涼みに行こうか」

二人の女性は、いつの間にか姿を消していた。


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マークは清々しい青空をしばらく眺めると、家に入っていった。すると、玄関のポストに請求書が山のように入っているのが目に留まった。はあ、と溜息をつき、うなだれる。

マーク「夢から覚めた心地だね。いや、悪夢の始まりか」

マークは誰かに問いかけるように呟いた。

マークはカエサルから受け取ったコインを出し眺めてみた。カエサルのユリウス氏族の先祖でもあるウェヌス女神のコイン。その横顔は、可憐で美しかった。太陽を遮る薄い雲が途切れたのか、窓から一筋の陽光が入った。すると、コインはキラリと反射し輝きを放つ。女神の肖像が少しだけ微笑んでいるように見えた。


Fin...


マークの大冒険 古代ローマ編 第一部(終)
そして時代は、第二回三頭政治へ___。


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マークの考察
今回の旅でわかったこと

共和政ローマとカエサル
帝国規模化したローマでは、従来の共和政ではもはや国が回らなくなってきていた。それを誰よりも早く察知し、解決に取り組もうとしたのがカエサルだった。彼が実際に王座を望んでいたか否かは判然としないが、戦勝により広大になり過ぎたローマの領域を防衛するためには、即座の判断で軍を動かす必要性があった。元老院議員600名で話し合いを重ねていては、反乱や侵入に対して早急な対処ができない。即座に一人の人間が国政を決定する方がスピーディーに対応できる。だが、それはローマの伝統である共和政とは相反するものでもあった。結果、カエサルは伝統的な共和政支持者らに暗殺された。
ウェヌス女神の銀貨
カエサルが駐屯基地内で発行したデナリウス銀貨を回収した。コインカタログにも掲載されている著名なものだが、その発行者が実際にカエサルであったことの検証が取れた。やはり彼自身、自分で発行したコインには誇りを持っており、自分の家系や業績を示したものを図案として採用している。カルタゴは兵士を派遣した現地に造幣所を構え、貨幣の製造を行うことがあったが、カエサルもこの手法を参考に遠征中の駐留基地内で貨幣を発行し、兵士への給与支払いや物資調達に利用した。
歴史改竄の考察
歴史改竄を行おうとした際、周りに冷たい風が何度か吹いた。改竄の振り幅が大きいほど、風は強くなっていく。推測だが、改竄の大きさに風の強さは比例していると考えられる。仮にカエサルの暗殺を阻止しようとすると、竜巻レベルの突風が巻き起こるのかもしれない。結果、風の影響で身動きが取れなくなり、改竄は自動で阻止・修復されるのではないか。あくまで推測・仮説に過ぎない。そして、検証のしようもない。


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[ルートα 観測完了]


Shelk 詩瑠久 🦋


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