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【マークの大冒険】 運命と旅の終焉


前回までのあらすじ
カッシウスとブルートゥスにより完全に追い詰められたマークと瞳。マークがホルスと結んでいたウジャトの契約の発動条件は、狡猾なカッシウスに読まれていた。そして、再び勝利の女神ウィクトリアの救援があったものの、先の戦いで攻略法を見抜いたカッシウスとブルートゥスは、女神の槍を全て打ち砕いていった。完全に勝算がなくなったことを悟ったマークは降参し、カッシウスらの条件を飲むことにした。


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カッシウス「それで、カエサルはどこにいる?」

マーク「カエサルはタイムドライブの中にいる」

マークはタイムドライブのステルスを解き、機体の方向を指差した。

カッシウス「ほう、あの奇怪な乗り物の中にか。お前は本当に面白いものをたくさん持っているな。オリエントというのは実に面白い。まあ、ローマには到底及ばないが」

マーク「これからどうする気なんだ?ボクらを解放した後、やはりカエサルを殺すのか?」

カッシウス「そんな手の内を明かすような話をすると思うのか?でも、どうしても聞きたいのか?」

マーク「ああ」

カッシウス「全員、殺す。全て吐いたお前らにもう用はない。それに、お前らは生かしていたら脅威になる」

マーク「そんな……。最初からそのつもりだったんだな!」

カッシウス「お前の命乞いを聞いてられるほど暇でもないんでな。ブルートゥス、お前はそっち女を殺れ」

ブルートゥス「ああ」

そう言ってカッシウスとブルートゥスは、プギオを握り近づいてきた。周囲はマルスとアポロに取り囲まれており、逃げる術がない。完全にマークたちの敗北だった。カッシウスのプギオが振りかざされ、マークを貫こうとしていた。隣では瞳が激しく怯えている。だが、次の瞬間、走馬灯のように周囲の動きが遅くなり、マークの耳にどこからともなく声が聞こえてきた。

ホルス「契約を結ばれたこのままの状態でお前に死なれると、俺も消えることになる。ので、契約の条件を少し見直そうじゃないか」

マーク「ホルス……なのか?」

ホルス「もう時間がない。お前に問う」

マーク「……」

ホルス「生きたいか?」

マーク「生きたい……」

ホルス「カエサルも救って、自分もたちも助かりたい。そんな都合の良い願いを望んでいるのか?」

マーク「それを、望む……」

ホルス「そんな都合の良い願いが叶うと思うのか?どちらか片方叶うだけでも、運が良い状況だというのに」

マーク「……」

ホルス「貪欲は全てを失う」

マーク「……」

ホルス「だが、こちらの世界でなら、そんな願いさえ叶うのかもしれないな」

マーク「えっ?」

ホルス「お前は本当に運が良かったな。こちら側で」

そんな幻想のようなトーンで響くホルスの声がした後、ウジャトが光り出し、カッシウスが悲鳴を上げた。

カッシウス「クソ、熱い!なんだこれは……!」

カッシウスは、その熱さからウジャトを落とした。ウジャトは地に転がり、閃光を放った。そして、突如黄金が吹き出した。それらはマークと瞳を取り巻き、護るかのように宙を舞っている。アンク、ウアス、シェンなどエジプトを象徴するシンボルが黄金色を放ち、ぐるぐると二人の周囲を回っている。それは数え切れない量で、土星の輪のような層になっている。

マーク「なんだ……これ?」

そしてまた、どこからともなくホルスの声が聞こえてきた。

ホルス「神域が遠すぎて、ここでは本領を発揮し切れない。二対一で、それも相手が最も力を発揮できる神域下ってのも問題だ。力づくじゃ敵わない。だが、俺はファラオだ。この世界のものは本来、全て俺のものだった。後代の神や人間がこの世界を支配しようなど、浅はかで傲慢にもほどがある。それに、王の存在を否定するローマ人だけは許せない。最後にもう一度だけ、お前に問う。生きたいか?」

マーク「生きたい!」

ホルス「ディ・アンク!(古代エジプト語で、生きよの意)」

次の瞬間、巨大な黄金の翼が出現し、空と大地を覆っていく。空中に黄金色の卵のような球体が現れ、その中に万物が勢いよく吸い込まれていく。視界が歪み、真っ白になる。そして、マークの意識は飛んだ。


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マークが目覚めると、自宅の天井が見えた。ベッドの上で寝ていたようだ。

マーク「ここは!現代!?戻ってきたのか?結局、あの後どうなったんだ?途中で意識が飛んで思い出せない」

マークは起き上がり、周囲を見渡した。すると、枕元に手紙が置かれていた。



まずはお礼を述べよう。感謝する。カッシウスとブルートゥスによる暗殺事件は未遂に終わり、私はこうして生きている。

奇妙なことに彼らの記憶は改竄されており、誰もが私が死んだと思っている。そして、戦いで倒壊したはずの建物も全て元通りになっていた。私はこの手紙をローマから離れた辺境の地で書いている。あの事件の後、ホルスと名乗る男が私の元に訪れた。二度とローマに戻らない誓いを立てろとのことだった。従わない場合は、ここで首を飛ばすと。誓いを破った場合は、いつでもその心臓を槍で貫くと。そして、お前の名が挙がった。友の好意を幸運に思えとな。また、生きている証拠として手紙を書くように求められた。それゆえ、私はこうして今、手紙を書いている。

お前は確か、黄金の国ジパングから来たと言っていたな。私は東の最果てにある、お前の故郷が見てみたい。インドより東に存在する楽園の島国を。かのアレクサンドロス大王さえ到達できなかった地へ。残りの人生は政治家として国を動かすのではなく、旅人として世界を周りたいと思う。よそであれば、私の顔も割れていないからな。

そして、最後に感謝のしるしとして、このウェヌスのコインをお前に贈る。コインを熱心に集めていたようだからな。ウェヌスは我らがユリウス家の守護神であり、先祖でもある。きっとお前にも幸運をもたらすことだろう。

ウェヌスの加護と永遠の祝福を___。

ガイウス ・ユリウス ・カエサル


最後には、カエサルの署名が綴られていた。マークの手のひらで、美と愛の女神ウェヌスを描いたデナリウス銀貨がチラリと光る。


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マーク「カエサル、生きていたのか」

マークはベッドから降りると、瞳を探しに一階に降りた。すると、瞳はソファーで座りながら眠っていた。マークはふと、安堵する。

マーク「良かった。全て終わったんだな。無事に」

マークの表情に笑みが浮かんだ。瞳を起こさないように彼はそっと玄関のドアを開け、外に出た。空には眩しい青空が浮かんでいた。夏の入道雲の白さがさらに空を眩しくしている。セミがジリジリと鳴き、夏のそよ風がマークの頬をなでていく。

そんなマークを遠くから二人の女性が見ていた。彼女たちはビルの屋上からマークを見下ろし、何やら会話している。


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ジェシカ「無事に帰って来れたみたいだね」

詩瑠久「彼らは主役だからね、何者にもなれなかった私と違って」

ジェシカ「ジェラシー?」

詩瑠久「いや、ただの羨望だよ」

ジェシカ「嫉妬と羨望は表裏一体?」

詩瑠久「さあね」

ジェシカ「あ、それ、ウジャトってやつだ!」

ジェシカは詩瑠久が手にしていたウジャトが目に留まり、指さした。

詩瑠久「私たちの世界じゃ、ただのガラクタだよ。価値を感じようとしない人にとっては、埃をかぶったゴミ。価値を感じようとする人にとっても、数ある中のひとつの歴史資料にしか過ぎない。あってもなくても、世界にとってさほど重要ではない。私と同じでね」

ジェシカ「ひねくれてるよねー。ねえ、それよりここ、暑くない?かんかん照りだし。私、焼けたくないんですけど」

詩瑠久「そうだね、帰って涼みに行こうか」

二人の女性は、いつの間にか姿を消していた。


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マークは清々しい青空をしばらく眺めると、部屋に戻っていった。すると、ポストに請求書が山のように入っているのが目に留まった。はあ、と溜息をつき、うなだれる。

マーク「でも、生きていれば、どうにだってなる。そうでしょ?」

マークは誰かに問いかけるように呟いた。

マークの目の前に窓からの陽光で照らされる瞳の姿があった。その寝顔は無防備で、無垢だった。すきま風で彼女の髪の毛が僅かに揺れる。すると、彼女が少しだけ微笑んだ気がした。


Fin...


マークの大冒険 古代ローマ編 第一部(終)
そして時代は、第二回三頭政治へ____。


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マークの考察
今回の旅で分かったこと


降神について
降神とは契約により神を呼び出すこと。大きく分けて直接契約と間接契約に分けられる。間接契約においては、発動媒体が必要となる。ホルスの場合、ウジャトのアミュレットが発動媒体に相当する。ホルスとは契約を互いの同意の上で結んだが、瞳のウィクトリアの場合は、ウィクトリアのコインを所持しているだけで一方的に契約が結ばれていた。ウィクトリアのような例を契約と呼ぶのは少し無理があるかもしれないが、区分としては降神に媒体を要するので間接契約の一種となる。
また、カッシウス及びホルスの発言から、神は自身の神域が近いほど、その能力を最大限に発揮できるようだ。ホルスであればエジプト、マルスやアポロであればローマが最も力を発揮できる場所となる。
直接契約について
直前契約についてだが、多くが謎に包まれている。その存在についてはカッシウスとブルートゥスらに対峙して初めて知った。契約媒体を用いず、身体中に降神陣が浮き出るあり得ない現象を観測した。降神陣で神を呼び出したケースはこれまでにも報告されているが、一般的には地面や壁面に描かれる。人体から痣のように浮き出てくるなど、目撃証言がかつてない。それに降神陣は多大な労力を必要するもので、また費やす時間も膨大となる。ブルートゥスやカッシウスらのように一瞬で降神するなど、通常はあり得ない。契約者の人体にどれだけの負担・影響があるかは不明だが、次回降神までの発動待機時間はほとんどないと思われる。歴史の改竄を恐れて、神が特別な力を貸したと推測する。
契約突破について
神との契約についてだが、今回、特例で契約の見直し、契約を超えた力の解放が行えるケースがあることを実証した。ホルスとのウジャトの契約では、発動してから次回の発動までにはムウト女神が出産のために要した休息時間、すなわち120時間(5日間)の発動不能時間が存在する。だが、今回のホルスの提案により契約が見直され、本来なら待機時間であるにもかかわらず、降神が成立した。
黄金の翼と卵の観測
ホルスの属性のひとつに時空を司るというものがある。彼はウジャトが開眼して以来、時空を超える力を手にしたというのは神話でも語られている。最後にホルスが行った秘策とは、時空操作だろう。彼が契約の範疇を超えて行った歴史シナリオの修正についてだが、発動時に世界を覆うほどの巨大な翼と、卵のような宙に浮かぶ黄金の球体の出現を観測した。黄金の卵には万物が吸い込まれていったが、これは世界が誕生する以前の状態に戻したものと思われる。これを仮に「原初の卵」と名付けることにしよう。人々の記憶改竄やカエサル生存シナリオを成立させるためには、一度世界を誕生以前、すなわち、「原初の卵」に戻して修復を行う必要があったのだろう。一度世界をリセットしてからでないと行えない高度な技術と思われる。黄金の翼については、リセット時に原初の卵に不純物が入ることを防ぐ役割を果たしていたと思われる。仮に地球上の物体でない隕石等の宇宙からの飛来物が混入した場合、バタフライエフェクトで歴史シナリオに甚大な損傷が出る可能性が想像される。そうした致命的なダメージを防ぐための存在と考察する。
マルス
トラキア出身の暴力の男神。ローマに訪れた際、アルバ・ロンガ王女のウェスタの巫女レア・シルウィアに一目惚れし、後のローマの建国者となる双子ロムルスとレムスを宿す。ローマの始祖の神にあたり、圧倒的な戦闘力を持つ。直接契約により、ガイウス・カッシウス・ロンギヌスに力を貸した。
アポロ
小アジア出身の光明神。竪琴の演奏、予言などを得意とする。人間が最も理想とする完璧な容姿、肉体を持つ美しい男神。マルスとは異母兄弟にあたる。マルスが正妻の子で、アポロは愛人の子にあたる。直接契約により、マルクス・ユニウス・ブルートゥスに力を貸した。
ガイウス ・カッシウス・ロンギヌス
ローマの有力氏族であるカッシウス氏族に属する。ブルートゥスより2歳年上で兄貴分的存在。カエサルとは以前からウマが合わず、衝突を繰り返していた。暗殺計画の提案も彼から出たものである。ローマの始祖の神マルスと契約を結んでいた。
マルクス・ユニウス・ブルートゥス
伝説の英雄で共和政ローマを創始者したルキウス・ユニウス・ブルートゥスの末裔とされている人物。ローマの名門貴族であるユニウス氏族に属する。カッシウスとは同僚で、彼と共に政界の中心人物としてローマを牛耳っている。ローマの光明神アポロと契約を結んでいた。
平行世界の存在の可能性
ホルスの言動に気になる点がいくつかあった。「この世界なら」「あの世界」など、平行世界の存在の可能性を示唆しているように思える。オカルト的な内容で信じがたいが、ボクらのこの世界軸とは異なる世界が実際に存在しているのかもしれない。時折、古書店アレクサンドリアのジェシカさんが独り言のように口にする「私たちは夢を見ている」「これは究極の幻想」「トレースしたこちらが本物になりつつある」という発言とも強い関係性があるのかもしれない。ボクは気づいても口にしなかったが、彼女には影がない。最初は見間違いや光の加減による偶然と思っていたが、何度観察してみても彼女には影ができない。どういう仕組みなのかは不明であり、それが科学的な装置を用いたものなのか、あるいは彼女が霊的な存在なのか全くの不明である。しかし、彼女に触れることはできるので、投影ではなく実態として存在していることは確かである。おそらくだが、ホルスやジェシカさんはこの世界の誕生に関する重大な何か知っている。

マークレポートより


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[ルートβ 観測完了]


Shelk 詩瑠久 🦋

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