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シャベルP
2019年4月7日 00:57
その頃、その外では、手を繋いだツァーリとサウロの前に何人かの衛兵が白目を剥いて転がっていた。「始まったな。入り口を静かに閉めて、結界を張るぞ」「わかってる~」 二人は音を起てずにドアを閉めると、精霊の力を重ねて結界を張った。「これで、内側からでなければここは開かない。水と火の力を重ねた結界だ。この街にいる火精霊はお前だけだからな。誰にも開けられないだろう」「うん。あたしとサウ
2019年4月6日 02:02
ドアの向こう。「ツァーリ」「なにぃー?」 ボッと、炎を巻いてツァーリが現れる。その手の先にはサウロもいた。「サウロから手を離すんじゃないさ?あたいから精気を送ってる間は、サウロも契約の外にいられるさ。もし手を離すと、契約に従ってサウロはリフレールに呼ばれるさ」「分かった。離さなくていいってワケー」 何故か嬉しそうに、ツァーリはサウロの手を握り直した。「後は頼んださ。あ
2019年3月31日 21:39
「ジョージはさ、自由になりたかったんだと思うんだ。いろんな事ができる奴だけど、やらなきゃいけない立場にいたい奴じゃないんだよね。だから、マルクの裏社会からも足を洗ったんだもん。あんたの勝手に、一生振り回されるのは可哀想だよ」「……ッ!!わ、私は、振り回すつもりなんて」「王族になるって、そういう事なんじゃないかい?ね、リフレール。あんた、一人の、ただの女としてさ。ジョージに見てもらいたいって
2019年3月31日 02:53
「嘘です!ル、ルナさん、不利だからって、私に、そんな下劣な嘘をつくなんて!見損ないました!」「あんた、ここをどこだと思ってるんだい?そして、あんたは何者だい?」「何ですか?何を言いたいんですか?」「ははっ、正直良い気味だね。他人を振り回すっていうのは、こういう気持ちなんだね。どうしたんだい?リフレール。いつものあんたなら、こんな簡単な謎解きすぐに察するのにさ。仕方ないねえ。あんたは、こ
2019年3月30日 04:54
国賓の部屋の扉を、ルナはノックする。 そこに緊張は無く、ルナは自分が自然体であることを自覚していた。 少しすると、部屋の中から静かに近付いてくる気配があった。「はい。……えっ?」 扉を開けて出迎えたリフレールが我が目を疑う。何故なら、そこに自分が知っているはずなのに知らない女性が立っていたからだ。 そんな顔は知らない。そんな顔をしているはずがない。もし来たとしても、そんな顔を
2019年3月29日 00:53
午後になって出勤したルナに事情を聞く為、水宮の巫女長ケルンは廊下を歩いていた。 そもそも、ほとんどの巫女は寮で生活している為、遅刻という事態がまず無いことだったし、ケルンが暇をもて余していたという事もあった。(ゴウさん、最近見ませんね……。あっちで、よろしくやってるんでしょうけど。もう、とっくに契約期間は終わってるはずなんですが) 数ヵ月前、リフレールの使者から応援要請を受け、我こそ
2019年3月28日 02:59
(あー、やっちまったな) 朝、腕枕で気持ち良さそうに眠っている一糸纏わぬルナを見ながら、ジョージは一人ごちた。 後悔はしていないが、面倒な事になりそうだとは思っていた。酒の勢いもあったが、ルナに感じている愛情に偽りはない。 調子に乗って早朝まで6回戦もした以上、体の相性が悪いわけがなく、また久しぶりの情交は素直に気持ちが良かった。 ルナも今まで相当我慢していたと見え、積極的だった。
2019年3月27日 14:33
「……なぁ、これ、真面目な話か?」 ジョージは、ルナの頭をなんとなく撫でながら尋ねた。「……顔見て解る、だろ?」 こんなルナを、ジョージは知らない。いつも一緒にいるのは、幼馴染みのルナであって女のルナではないのだ。「意味、分からない訳じゃないんだろ?知ってるよ。ジョージが、あたしに隠してきた事。母さんにも言わなかったこと」「……何?」「あんたに惚れてる、嫉妬深い女がさ。あた
2019年3月25日 23:27
ごろっと魚介類のスープ、地鶏の串焼き、スパイスを利かせた魚の竜田揚げ、食も酒も進む料理群がジョージの前に差し出される。「さて、こんだけありゃ足りるかな?あたしも飲んでいいかい?」「おう。グラス用意して待ってたぞ。飲むならやっぱ、一人より二人だよな。乾杯!」「ふふ、乾杯」 チンとグラスが軽くかち合って音が鳴る。ちなみにジョージとルナの分、2つしか無い高級品だ。「いやしっかし、久
2019年3月24日 21:17
「どうしたんだい?急に来るから、みっともない所見られちゃったじゃないか」 その目はまだ赤かったが、ルナはジョージを笑って迎えた。「何かあったのか?」 当然の疑問だ。ルナが泣いて酒に飲まれるなどという姿は、ジョージとルナの長い付き合いの中でも初めてだったのだ。「……まあ、ちょっとね。酒飲んだら忘れたよ。ジョージこそ、何か話があるんじゃないのかい?」 ルナがそこに触れて欲しくなさ
2019年3月24日 01:10
あたし達が住んでいた孤児院は、マルクの北の山間にある。小さな農村で、名前は確かピットっていう名前だった気がする。殆ど話題にも出ないから、住んでる人間でさえ名前を忘れがちな程小さな村だ。 毎日近所の川に水を汲みに行き、畑の手入れをして、罠を見回って獣を獲り、毎日細々とだが楽しい日々を過ごしていた。 あたしとジョージは、同い年って事もあって気が合った。下の面倒を見るにも、一人でやるのと二人で
2019年3月22日 22:28
その夜、シルクが働く飲み屋は、ジョージに惚れていた裏社会の女達が貸し切りで酒を飲んでいた。 皆、うちひしがれてやけ酒であった。噂の人物である、サラク王女リフレールとはなんぼのもんじゃいと水宮まで見に行って、偶然出てきたリフレールが固まって睨む女達に微笑んで手を振ったら、噂以上の美しさに目と心をやられて帰ってきたのだ。「あの幼馴染みくらいなら、勝てると思ってたのに……何よあれ。同じ人間?胸
2019年3月22日 00:56
翌日、繁華街の裏通りの、大きくて古びた建物の前にジョージは立っていた。 辺りにはガラの悪い連中がたむろして、入り口にはゴウと似たり寄ったりの体格の男が二人、脇を固めていた。 ジョージは何でも無いことのように、入り口を通ろうとしたが、その二人はジョージの前をサッと塞いだ。「ジャン=バルクに用がある。どけ」 ジョージは、敢えて高圧的に言った。「あぁん?誰だてめえ。……見ねえ顔だな
2019年3月20日 23:30
「潮の香りがしてきました!」「ああ!帰ってきたな!」 ジョージとモカナは馬車の扉をガバッと開けて、思い切り空気を吸い込んだ。 小高い街道から眼下に見えるのは、水の都貿易都市マルクだ。海面が乱反射して煌めき、海から吹き上がる潮風がモカナとジョージの髪を梳いていった。 ジョージ達は、帰ってきたのだ。 二人がはしゃいでいる中、リフレールだけは何か思い詰めたように押し黙っていた。「